#5 天からの刺客
―地下9階 12/22 午前11時 残り68時間―
「うわぁ・・・派手にやったわね・・・」
所々大きく凹んだ壁や弾痕、無残にも崩れた柱を見て絵里さんは呟く。
私達は今、9階のボス部屋まで来ており、その惨状を目の当たりにしている。
荒れた部屋もそうだが、やはり一番は中央に大きく残った血痕だろう。
素人が見ても、これは人が死ぬぐらい血が残っている。しかも、それほど乾いてはいない。
「一体ここで何が・・・」
「ここに来た人達はここで異形の怪物に襲われたのよ。どんなやつかは分からないけどね。」
「異形の怪物?」
「そう。それがボスであり、正気を失ったレベル5のプレイヤーの成れの果てよ。」
「!?」
ボスが元プレイヤーでレベル5!?
レベル5には何かリスクがあるのだろうか?
絵里さんは少し暗い顔で続きを話す。
「私は終わった後で組織に聞いたのだけど、ここのボスと言われるものは全て元人間よ。
レベル5になるとナノマシンが完全になって制限時間が無くなるけど、それと同時に常に暴走するリスクが伴うの。
ナノマシン、組織では「天使の意識」とか言ってたけど、それに負けたら最後、ただ辺りを破壊しつづける怪物になってしまう。」
「そんな・・・!そんなものを作って武藤は一体何を・・・?」
「それは私達でも分からないわ、でも・・・」
ドン ドン ドン
突然、部屋が揺れだす。
一定間隔ずつ揺れて、その揺れは揺れるたびに大きくなっていく。
「何かが近づいてくる!?」
そして、その揺れの震源は真上に到達した。
「絵里さん!上です!」
「!?」
その瞬間、天井が崩れ落ち、天井から巨大なロボットが落ちてくる。
私と絵里さんは間一髪避けられたようだ。
シンニュウシャハッケン
シンニュウシャハッケン
機械音で何かを喋っている。
目は確実にこちらを捉えているので、言っていることは大体は想像がつく。
「何なんですかあれ!?」
「ちっ、気づくの早すぎ!たぶん私への刺客だわ!」
とりあえず2人で遮蔽物になりそうなものに隠れて様子を伺う。
全長は私達の3倍、いや4倍ぐらいか?
鋼鉄のボディに覆われたアニメや漫画に出てきそうな足が大きく、腕がない2足歩行のロボットだ。
人が乗るスペースは無さそうなので無人機だろうか。
で、武装は肩にミサイルが出そうな発射機2つと本来なら腕があったであろう場所にガトリングガンが設置されている。
「見た感じ、真正面から行くのは不味そうですね・・・」
かなりの重武装で、確実に殺しにかかっている。
幸いにも後部は弱そうなのでそこを突けば・・・
「いや、私は真正面から行くわ。」
「絵里さん!?」
「私が囮になる。夕姫ちゃんは裏から奴を仕留めて!」
「でも!」
いくら不死身だからって進んでそんな危険なことをさせるわけにはいかない。
「不死身を舐めたらダメよ?こんな修羅場、何度もくぐり抜けてきたんだから」
絵里さんは止めも聞かずに一目散に走り出す。
元から絵里さんが目的だったのか、視点は絵里さんのほうだけに向いている。
私は仕方なくナイフを取り出して全力で後ろに回る。
ドドドドドド
かなり爆発音が聞こえ、こちらにもかなりの爆風が来る。
でも、立ち止まっては絵里さんが体を張って囮になってくれている意味がない。
ロボットの後ろに回り込む。
足部・・・大きい足はかなり硬そうな装甲で覆われている。
背中を駆け上がる。
どこか、装甲が薄そうな場所は・・・
肩を見る。武装の接続部分は硬い装甲で覆われている。無理そうだ。
頭部。丁度人間の顔の部分の隙間はナイフが入りそうだ。ここなら・・・
バチバチバチと音を立てて2本のナイフは電気を帯びる。
そしてその2本を隙間に思いっきり刺しこんで飛び降りる。
高圧電流がロボットに流れ込み、上半身の回路ほぼ全てがショートする。
動きを制御していた機関が全てショートし、電流が届いていなかった下半身も少し暴れた後、動かなくなった。
「や・・・やった・・・?」
ロボットがもう動く様子はない。
「絵里さん!」
爆撃による煙が立ちこめて絵里さんの様子を確認することが出来ない。
「大丈夫大丈夫。生きてるってば。」
煙の中から絵里さんが出てくる。
服はボロボロで見るに絶えない。でも肌は再生したのか不自然に白い。
「服がもうボロボロよ。ちょっと気に入っていたのに・・・」
絵里さんのちょっと緊張感のない言動に、ちょっとほっとする。
「夕姫ちゃん、ありがとう。私1人じゃちょっと辛かったかも。ささ、上の階で着替え、探しにいきましょ。」