#3 最強の能力者
―地下9階 12/22 午前10時 残り69時間―
「夕姫ちゃん」
絵里さんが近寄ってくる。
「・・・そっちも本体じゃなかったようね。」
「どういうことですか?」
「足元を見てみれば分かるわよ。」
言われるがままに足元を見る。
足元に死体が・・・ない。床には男が持っていたボウガンのみが転がっている。
死体の跡のようなものは残っているが、死体自体は木っ端微塵に消えてしまっている。
服も返り血を浴びたはずなのに、乾いてしまっている。
「死体が・・・。」
「そう、さっき私達が倒したのは偽物。たぶん、相手がそういう能力の持ち主なんだと思うわ。逃げられる前にさっさと本体を倒しましょう。」
確かに刺した感覚はあった。しかも、言動などもリアルで違和感はしなかった。
そんなもの、どうやって本物か偽物か見分けるのだろう?
そもそも本体なんてどこに・・・?
「当てはあるんですか?」
「あるわ。本体なんてまだ近くにいるだろうし、この近くだったら逃げるルートなんて大体目星はつくわ。夕姫ちゃん、あなたの機動力を生かしてそこまで先回りして欲しいの。私も後ろから追いかけるから。」
「本物か偽物か見分けるにはどうすれば?」
「多少逃げ腰の相手を狙えばいいと思うわ。まぁ相手も数出せないでしょうからなんとかなるわよ。」
「そんなに簡単でいいんでしょうか?」
「いいのよそれで。こんな分かりやすい所で待ってる相手なんて深く考える方が無駄よ。じゃあ、行きましょう。」
絵里さんの指示された通りに、通路を走り抜ける。
指示されたのは、この一帯から抜けるための地点への最短ルートだ。
走っていると、警備ロボットのようなものが2体通路に出てくる。
「・・・邪魔ね。」
すれ違いざまに2体ともナイフで真っ二つに切り裂き、ノンストップで駆け抜ける。
また1体、また1体と現れ、丁度10体ぐらい斬り伏せたところで男性の悲鳴が聞こえる。
そういえば、もうすぐ指示された地点だ。何かあったのかもしれない。
より一層急いで走りぬけ、指示された地点へ辿りついたときには全てが終わっていた。
見覚えがある中年の男性が血を流して横たわっていた。
そして、その近くに全身真っ黒な服装の怪しい男が立っていた。
顔は前髪でよく見えないが、真っ赤な目が髪の間から覗いている。
手には銃を持っており、その銃で撃ち殺したのだろう。
・・・危険だ。
私の本能がそう叫んでいる。
声を出す前に身体が反応し、怪しい男に斬りかかる。
しかし、目にも止まらぬ動きで両腕を掴まれてしまう。
「・・・ッ!あなた何者!?」
「・・・立ち去れ。そうすれば危害は加えない。」
凄い力で押し返されて、大きく後ろにのけぞってしまう。
「夕姫ちゃん!」
絵里さんが合流し、後ろから銃を撃つ。
しかし、
「そんなもの、僕には効かない。」
撃ったはずの弾が、全部男の手の中から潰れて出てくる。
「あなたたちと戦う気はない。これで失礼する。」
「待ちなさい!」
そう言ったときには、既に男の姿はなかった。
圧倒的なまでの力。不可解な現象。
でも、私達に敵意は向けられなかった。
「夕姫ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫です。あの男は一体・・・?」
「逆にあなたのほうが見覚えはない?あの男こそ、私が探していた化物とまで言われる最強の能力者よ。」
「最強の能力者?」
「そう、最強って言っても何の能力かは分かってないけど。でもあれぐらいの力がないと私の目的は達成出来ないわ。」
最強の能力者。パッと見ただけでは何の能力か分からなかった。
でも、最強とか化物と呼べるほどの不可解さとインパクトはあったと思う。
あんな能力で絵里さんは何を?
「絵里さんの目的って何なんですか?」
「そういえば言ってなかったわね。私の目的は一つだけ。武藤清一郎、このゲームの黒幕を殺すことよ。」