#2 血塗れの姫君
―地下9階 12/22 午前10時 残り69時間―
地下9階に着いた私達は、そのまま少し歩いた所の部屋で休憩している。
私は椅子に座ってのんびりしているが、絵里さんは部屋の奥で何かを探しているようだ。
やがて、絵里さんが何かを持ってこっちに戻ってくる。
「夕姫ちゃん、はい、これ」
箱を渡してきたので、私は首を傾げながら受け取る。
箱の中身は、ミリタリーナイフが2丁。
「絵里さん、これは・・・」
「言わなくても分かると思うけど、自分の身は自分で守ってね?まぁ、心配する必要もないと思うけど。」
自分の身は自分で守る。
これはゲームだけど、命のやりとりなのだ。でも、何故か実感がわいてこない。
「ここに食べ物と飲み物置いておくから。食べながら歩きましょ。」
「分かりました。」
食料は・・・カロリーメイトというもののようだ。
いろいろな味がある中で、メイプル味を選んで部屋を出発した。
――――――――――――
歩き続けて数十分。
絵里さんの案内のもと、かなり右往左往しながら歩いている。
歩いても歩いても同じ光景で、何も起こらない。
気を遣ってくれたのか、絵里さんが話しかけてくる。
「夕姫ちゃん、名前以外に覚えてることってある?」
「時々頭の中で声がしたり、知らない人の顔が浮かんだりしますけど、断片すぎてさっぱり・・・」
「んー・・・完全には記憶を消去されてないってことね・・・。何かの拍子に戻るかもしれないわ。無理せずゆっくりと・・・ってお客様が来たわね。」
「え?」
絵里さんが話を途中で切り、立ち止まる。
さっきの部屋で見つけた銃を角の方に構えて発砲する。
「いるのは分かってるわよ?出てきなさい。」
「ちっ」
すると通路の角から中年の男性が出てくる。
両手をあげており、片手にはボウガンを持っている。
「降参だ、降参!頼むから撃たないでくれ!」
「随分と臆病なことね。待ち伏せなんていう策を考えるような奴には思えないわ、ね!」
絵里さんが突然後ろを振り向いて発砲する。その瞬間、後ろから呻き声が聞こえた。
「ちっ、ただの女じゃなかったか!じゃあもう一人の女、お前を殺す!」
中年男性はあげていた両手を下ろして、こちらにボウガンを撃つ。
撃たれる。
そう思ったときには既に私の身体は動いていた。
両手にミリタリーナイフを持って、男性へ全力疾走。そして、放たれた1発目を難なくかわす。
「な、なんだこいつ!来るな!来るな!」
中年男性は慌てて矢を装填し、2発目を撃つ。
その矢を次はナイフで弾き、そして微塵の躊躇いもなく、中年男性の胸にナイフを突き刺す。
ナイフを抜き、返り血を浴びる。
目の前の中年男性は倒れて、やがて動かなくなった。