#13 二度目の約束
―地下4階 12/24 午前11時 残り28時間―
「まずは1つ目、夕姫のシステムに関してですが・・・夕姫の正体についてはご存知ですか?」
「ああ、俺はゲームが終わった後お前達のことを調べさせてもらったからな。このことは絵里にも伝えている。」
「ええ、知ってるわ。」
「なら話は早いですね。作為的に引き起こされた病気で死んだ夕姫は彼らに肉体改造を施されました。一応人間ですが、ほぼサイボーグみたいなものです。
その際、一緒に備え付けられられたシステムが、Bloody Princessという名前のシステムです。
夕姫が一ノ瀬夕姫としての記憶取り戻したときにのみ起動し、起動すると体に備え付けられたリミッターが外れ、サイボーグとしての全能力を発揮することが出来、かつ見境無く血のみを求めて殺戮を行う殺人鬼となります。
そしてこのシステムの一番厄介な所は、起動すれば最後、10分以内に停止させないと記憶は完全に消去されて元に戻ることは出来ないことです。
僕はこのシステムを知ってから御堂博士に即効性のある消去プログラムを作ってもらい、準備段階から僕が知っている夕姫の記憶を断片的に入れておきました。何回か僕に会えばシステムが起動するように。」
「で、さっき俺達が戦っている間に成功したわけか。」
「はい。でも障害はこれだけではありません。いや、これが一番の障害と言うべきでしょうか。単純に夕姫を救うことだけで言えば比較的簡単に出来ることです。一番の障害は出口で待ち構えている武藤清一郎の存在です。」
「武藤清一郎…か。俺自身はそいつに会ったことはないんだが、俺達をここに連れてきたのは奴なんだだろう?」
「ええ、そうです。」
「ぐっ…ムトウ…」
不意に聞き覚えのない声が聞こえる。
声の主はさっきまでベッドに寝ていたダグラスだ。
「ダグラス!」
「エリー?」
どうやら目を覚ましたようだ。今の状況が理解できず、きょろきょろしている。
絵里とフランス語で会話して状況を確認すると、日本語で話してくる。
「すいません、お世話になったみたいですね。ダグラスです。」
流暢に日本語を話している。流石にネイティブではないが、かなり上手い方だ。
「身体は大丈夫ですか?」
「はい、たぶん大丈夫です。今の所は。」
「よかった。じゃあ僕達は隣の部屋に居ますんで、何かあれば声を掛けてください。」
僕は夕姫の手を取って隣の部屋に移動する。隣は少し狭いが、ここの部屋しかベッドがない。
積もる話もあるだろうし、今は二人っきりにしてあげたほうがいいだろう。
「ほら深夏、行くぞ」
「う、うん。」
影山さんも深夏とともに隣の部屋に移動する。
「さてっと。続きの話は少し休んで2人と合流してからにしたほうがいいですか?」
「そうだな。そろそろ食事も済ませておくか。っとここで休んでから予定とかあるのか?」
「杉崎の使っていたエレベータで一気に武藤の所まで行きます。無駄にこのまま進んで皆さんを危険に晒したくはないので。」
「へぇ、便利なもんだな。どこら辺にあるんだ?」
僕は端末をテーブルに置いてある一点を指さす。
「ここです。分からないようにカモフラされてますが、それは僕が破壊しておきました。そこにある管理室にエレベータがあるはずです。
それじゃ、僕はちょっと取りに行くものがありますので。」
端末を置きっぱなしにし、部屋から出る。
ふぅ・・・これで全ての準備完了か。
あとはヤツと決着をつけるだけ。もう、後はない。
3つ目の障害。それは能力の使用回数。
僕の時間を巻き戻す能力の使用回数はあと1回ぐらいだろう。
過ぎた能力は身体に多大な負担を及ぼすと同時にある代償も伴う。
僕に残された時間は、少ない。
「りゅうくん」
「夕姫!?」
振り向くと夕姫が立っていた。いつになく神妙な面持ちで。
「どうしても1人で行くの?」
「うん。皆を連れて行くと絶対に犠牲が出るから。」
「・・・分かってる。足でまといだもんね。」
「ううん、足でまといでなきゃ駄目なんだ。元の生活に戻るためには人間でいなくちゃいけない。」
夕姫が飛び込んでくる。背中に手を回され、胸のあたりに顔がある。
ちょっと上目遣いで涙ぐみながら、でも笑顔で夕姫はこう言う。
「絶対生きて帰ってきてね。約束だよ?帰ってこなかったら呪ってやるんだから。」
「うん、約束。絶対帰ってくる。」
正直無理な約束だ。絶対に呪われる。
でも、何故かこの人の顔を見ていると不思議と何でも出来る気がしてくる。
恐れるものはもう何もない。




