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07.幕間 鉄囲線二

 全ての終わりは意味付けられる。

 故に、私の死で、私が屍となる。

 彼が聖者とするなら、誰も彼の罪を問わない。

 破滅だけが全ての償いとなる。

 這いずる。

 惨めな姿、歪な体。足りない。足りない。


 手足は緩慢、意識は混濁、そして時折断絶。ずるずる。

 最悪だ。アイツは 人間 じゃない。悪魔だ。でも、悪魔は願いを叶えてくれる。でも、あいつは苦痛しか与えない。


 なら地獄の鬼か? 屍徒か? どうやら、私の思考は地獄に近づいたようだ。


 だって、こんなにも、ボヤけた地面が、近い。


 私は生き延びた。魔女の呪いは深刻なまでに私に痛手を与えた。

 でも、私はあそこから逃げ延びた。ずるずる。


 そのはずだった。両腕がつかえないため、矢を関節から引き抜いた口は血だらけで、眼鏡のない視界はボヤけて見える。ずるずる。

 私の後ろをアイツが眺めている。這いずる私を奇妙な見世物の動物のように眺めている。


 何故、私は這いずっているのだろう。負け犬、いや蝶になれない、醜悪な芋虫のように、惨めに私はただ手足で動く。ずるずる。

 いや、大きな間違いを犯した、手足ではなく『胴体』である。顎を擦り、胸をひしゃげさせ、節々の骨の痛みを感じながら、地面を這いずる。ずるずる這いずる。


                   その遥か、私にとって遥か後方には、私の手と足があったから……



「貴女、面白いですよ」

 そんな私の姿を見ながら、ソイツは可笑しそうに、そして冒しそうに、声を殺しながら嗤っていた。

 手足のない、毛虫のような、『だるま』のような、不恰好な私を見下す。

 ただ『だるま』と違うのは私には立ち上がる足も支える手も無いと言う事実である。

 誰だろう、七転八起などと気安く言った屑は。


 そうだ。屑だ。死ね。屑、屑屑屑屑屑、ゴミクズ、屑。ゴミ。ゴメン、殺さないで、お願い。首を締めないで。死んで。私の代わりに死んで。生きたいの。ただ普通に生きたいの。だから、死んで、屑ども死んで。死にたくない、死にたくない、死にたくない……


「……あっ」


 気が動転していた中で、初めて私は声をあげた。ソイツは私の背に足を乗せ、まさしく蹂躙じゅうりんをしている。

 動かす胴体にはそれに抗う術もなく、水揚げされた魚のようにのたうち回る私。

 『むりやり捻り取られた』腕と脚の生え際から血が痛みと共に零れる。

 また、痛み。あの繰り返し。止めて。お願い。痛いのは嫌い。嫌い。嫌い。キライキライキライ。ごめんなさい。ごめんなさい、刃向かいません。もう噛みません。だから、叩かないで、蹴らないで。お腹に出さないで。いやだ、気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。私は人。人形じゃない。人形じゃない。だから――


「生かして、殺さないで……ぁあ、あぁ、う、うっ……」

 あまりの屈辱によって、恥も外聞もなく、涙は自然に零れた。

 噛んだ唇からは赤い色が地面を彩り、透明な液体と不定形に混じりあう。

 昔の自虐と陵辱の記憶が蘇る。


 なんて――、無様。


「……あぁ、『才能の無い』わりに貴女はよくやりました。無様ですが、同じ、魔術師として死ぬ前くらいは褒めましょう。まぁ、僕は元ですがね……」



 目の前には機像兵、私の一部が残骸として鎮座していた。唯一、綺麗に残った黒い髪の最高傑作。擬似魂回路は取り払われたため、今はただの精巧な活き人形と変わらない。私の、身体になるはずだった、義体。

 その視線の先に何があるか分かると、男は口の端をいやらしく歪めた。

「あぁ、この人形でしたら、大人の娯楽代わりくらいには使えるでしょうね」


 心が、軋んだ。私の最高傑作。私の望んだ体。私の夢。


 そう言うと、意思のない偶像少女に近づき服の内側に手を居れて弄り、舌を淫らに頬に這わせる。

 私の体が、もう一つの身体が軋む。涙を流さず、泣いて、軋む。

 義体である少女の虚無を持った瞳はまるで絶望に満ちた私のようだ……


「劣等感ですかね? 貴女の醜悪な容貌に反して、この傀儡は精巧で、美しい。それでも牡豚の性欲を処理する程度にしか、ぜぇんぜぇん役に立ちませんね。『何処まで精巧に出来ている』のか後で確かめてあげますよ。その程度の価値しかありません。――貴女と同様に、ね?」


 まるで、私の生き方、全てを否定するように、嗤う。

 まるで、私の生き様、全てが滑稽だと言うように、犯すように、嗤う。


「でも……こんなのになるために、人生を掛けていたんですか? 貴女は、人としても魔術師としても無駄ですね。牝豚以下です。抱いて辱めてあげようかと思いましたが、残念ながら豚と交わる気はありません。くっくく、ぷっ、今の冗句、傑作じゃないですか? 豚が、豚が、ぷッ、がははははははははははははははッ!! ギャハハハハハハハハハハハハハ!!」


 私を打ちのめした…… もう、何かもがどうでも良くなって、生きる理由がなくなった瞬間、


「と、ご苦労様です。貴女はもう十分ですよ」


 ゾブリと言う音と供に、胸の真ん中から、少し外れた場所が、ポッカリ空いた……


 心臓が取られた。夢が奪い取られた。


 わ た し は 死 ん ――


 I'm the son of rage and tear.

 Child from the story of none of the above.

 Wake me up when world will be end.

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