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28.頞听陀(あただ)(3/3)

 風が鳴る。

 烏族の一匹は羽を風に任せ、その大地を一望した。


 平らな大地には双方ほぼ全ての軍団が集結していた。

 眼下には紫色に見える赤鬼と青鬼の歩兵団、すぐ真横には白い羽を持つ烏族の仲間達、後方には緑色の鱗を光らせる龍族が元々の小山のような龍の姿で待ち構えている。

 その反対側には大太刀を剣山のように頭上に掲げた最優秀の切り込み隊を先頭に、両脇に弓を主体とする軽騎馬兵団、後方に弓と槍と太刀をそれぞれ距離と戦略に応じて変える歩兵団と薙刀を携えた僧兵団が陣取っている。


 法螺貝の響かせる音色が人外の全軍を動かした。

 大地を踏みしめる轟きが地鳴りのように空まで揺り動かす。

 その空気へと伝達する振動を羽に受けながら、烏族達は彼らの頭上まで接近した。


 空中機動は地上の障害物の影響を受けないために最速で陣地へと到達し、陣地を掻き乱す。前述の通り、空と地上からの同時多角攻撃は相手が同じ攻撃手段を用いない限りは勝利にはならない。何故なら、三次元で戦う相手に二次元で戦おうとするのだ。前後、左右の方向は対応できても、存在しない次元からの上下からの攻撃には対応出来ない。弓は先ほどから言うとおり、天地の理である重力で上空に達した矢を地上に向かって加速させ、その『地上』の敵を貫く。しかし、『上空』の敵を十分な加速を得られる矢と腕で当てられるのは極少数であろう。だから、上空からの攻撃を加えられる烏族は実のところ主戦力と断じても過言では無い。そのため、彼らの多くは、この戦で挙げられる戦功を信じて疑わず、内心ほくそえんで彼らの頭上へと進軍を進めた。

 さて、彼らの次元である上下に対抗するにはどうするべきだろうか? むろん、彼らの中で飛べるほどの法力を持った僧は貞光のみであり、薙刀を携えた多くの僧兵は法力の欠片も無い、むしろ破戒僧と言った風体である。それを打破する方法はあるのだろうか?

 解答は至極簡単である。彼ら、烏族が空で戦えない状況を作ればいいのである。


 烏族の弓が射程距離へと近づくなか、彼らはまったくと言って良いほど動かなかった。制空圏を烏族達は捉え、弓鳴りがそこかしらになる。烏族達の射撃に幾人もの兵が矢に倒れるがそれでも動かない。その一方的な虐殺に莞爾を彼ら烏族が挙げようとしたその時だった。

 最後方、僧兵団の真ん中に座する男の異言と共に大気が鳴動し、風と共に彼らの間から濛々と急に濃い煙が立ちこめた。予期せぬ出来事に烏族が動揺する。それでも粘り強く、弓を射ろうとしていたのが彼らの末路だった。

 弓の弦音と共に彼らの身体に何かが絡まった。次の瞬間、物凄い勢いで三、四匹まとめて烏族達の多くは地上へと引き摺られた。

 矢に結び付けられた(つな)(あみ)。矢と共に放たれた網。それに絡め取られた烏族達を地上へと綱で十人掛かりで引き摺り下ろし、後は彼らの独壇場である。これによって部隊の中央に引き込まれた烏族達は瞬時に壊滅状態となった。

 濛々と立ち込めた煙は同時に歩兵である鬼達の進路と判断も混乱させた。その隙に切り込み隊と軽騎馬兵団は鬼達の正面でなく、僧兵団と歩兵団の斜め前へと静かに陣取る。

 次の瞬間、視界不明瞭の煙の中で鬼達と歩兵と僧兵の混合兵団が衝突した。

 鬼達の剛圧力。今回は射撃でちりぢりに逃げる鬼を追討するのではなく迎え撃つ形である。本来なら正面からの対峙を避けるはずのその圧力に、彼らは敢えて力で対抗する。鬼達が最も強く出てくる場所に、彼らは十人ごとに一つの隊となった、十二支の動物が割り当てられた部隊で動く。日頃の訓練の通り、兵士達はいち早く隊長格の指示に従い、時にはその戦況を伝達し、個々の隊長格が巧みにその圧力に最も強い力を当てて、鬼の進撃を一時的に止めた。個でありながら全となる集団戦での理想系である。

 鬼の大半は歩兵であり、多くは金棒での接近戦主体となる。そのため進撃を止められた軍団は四角形として前後左右中央と五つに分けた時、前方の約二割のみが攻撃に当たる形となる。好戦的な鬼達はそれを良しとせず、次第にその軍団は横から戦いへと勇んで軍団は扇状に広がっていく。しかし、横陣の戦列である薙刀の長さで防御に徹する僧兵団に対して、歩兵団、もとい、遠間で弓、近場で槍、接近して刀を使う散兵団が、僧兵団の横合いから徐々に強い鬼の圧力を削いでいく。これによって鬼達の横列は停滞。

 それが闇殺舎の狙いだった。

 煙の中、全体の軍からそれぞれ広がる形で斜めに前に進軍した軽騎馬兵団。彼らの主武器は弓矢である。つまり鬼達は弓矢の大軍に誘い込まれ、挟撃を受ける形となったのである。横に長く伸びた鬼達に軽騎馬兵達は同士討ちの危険性を考える必要も無く矢を打ち込む事が出来るのである。突如として横合いから放たれた矢に混乱し、鬼達は統制を極度に乱した。

 矢が止むと同時に今度は馬蹄の轟音と共に勇ましい掛け声が後ろから響いた。

 大太刀を掲げた切り込み隊が彼らを回り込んだ後ろから突撃しながら切り裂いていく。


 歩兵団が敵軍の圧力を受け止める『鉄床』と成り、切り込み隊と軽騎馬兵が『槌』となって鬼の軍団を粉砕していく。

 これは紀元前二世紀に羅馬(ローマ)巨軍(レギオン)である必勝の密集陣形(ファランクス)を破った斜線陣と言う戦法である。敵を中央へと誘い込んでその真っ向から衝撃を受け止め、横に位置した騎馬兵が横撃を行い殲滅する。更に秀武は弓主体の軽騎馬隊が横から完全に彼らを撹乱させ、ちりぢりとなり始めた軍団を後ろから切り込み隊で攻める形としたのだ。戦意の猛々しい鬼達もすっかりその戦術で混乱し、戦力は削がれていった。


 無論、それを見て黙っている時雨では無い。煙幕の発生と同時に機を読み、彼女は遂に虎の子である龍の軍団を自らの士官と共に進撃させた。その彼女の気配を読んで、蟲達も地中から進撃を始める。

 鬼達の追撃に掛かりっきりの今、彼らが龍と蟲の軍団の怒涛の反撃を違う角度から受ければ、逆に総崩れとなる。


 その時だった。彼らの軍に追い縋ろうとする東の横合いの森林から、鈍い色を放つ総鋼鉄の鎧を纏い、先日単騎で楔の如く鬼達に分け入った金太郎と、彼の率いる重騎馬兵団が待ち構えていた。

 先日の龍の攻撃も耐え切った少数精鋭である。切り込み隊のような華麗に斬殺する巧みさの無い代わりに、厚い装甲と愚直な突撃戦術が龍と言う人外の圧力に唯一対抗出来る戦力となるのである。

 しかし、今回彼らは馬には乗っていない。馬は巨大な獣には本能的に恐怖するものであり、羅王号と言う例外はあれど大部分はそうではない。ならば、もとより徒歩の重装歩兵へと急遽転換し利点を挙げるべきであったのだ。

 彼らの存在は予備兵力と呼ばれる。自陣の崩れに駆けつけ、時に戦局の膠着に対する一手となる攻性の守りとなるのである。補充戦力にも関わらず、その任務は重大かつ拙速、云わば切り札である。故に彼らの殆どは実戦経験豊富ないぶし銀の古豪で固められている。その頭が先日の一騎駆けでその勇猛さを知らしめた金太郎である。そしてそれは人外との小競り合いはあれど、戦での経験のない金太郎を古豪に認めさせる儀式の意味合いでもあった。その目論見が成功した結果、龍族と言う超越種に引けを取る事も圧倒される事もなく、最前線で駆ける若人、金太郎を追い掛けて古豪達は味方の援護へと追従できるのだ。心気体の伴った突撃は一つの槍とも言える破竹の勢いで龍族へと突撃していった。

 敵陣、残る蟲の軍団である。こちらも彼らに言わせれば金太郎達と同じ予備隊に相当する。地中より深く進攻する三百匹。先日の蟲王の敗北を挽回すべく、彼らの陣地の背後へと駒を進めていた。背後から現れたら最後、鬼の歩兵団の圧力に僧兵団と歩兵団は負け、中央突破をされる事となる。中央に居るのは先日からの大祈祷を維持し、妖魔人外のあらゆる力の流転を封じている貞光である。彼が殺られれば、残った鬼、烏族、蟲、龍が束縛から除けてたちまちその力を取り戻し、人では抗えない領域へと現在の力から飛躍させるだろう。限界一杯一杯まで技術と鍛錬によって増幅された人間が呪術の枷を付けた人外にようやく対抗できるのだ。つまるところ後方に位置する、僧兵団の中央で慧埜駆語の大縛鎖結界を使って人外の力を大幅に封じる貞光を倒せば、彼らの攻勢の逆転はありえるのである。

 そのために彼らは地中をひた走る。古来より土蜘蛛などと呼ばれて、様々な政権から疎まれた蟲魔の一族の権力を魔族の間に作り出し、正統な勢力を生み出すための戦争である。彼らに恐るるものは無く、ただ人を蹂躙し、人を喰らい、人を殲滅させる次元でしか考えていない。

 大地が爆ぜて蟲達が後方に到達する。最後方に位置する貞光目掛けて蟲達はその怪力を揮う。


 そのはずだった。


 彼らの背後、そこには存在しないはずのもう一つの兵力があった。陽光の中でもなお暗く、透けた身でありながらなお強く、いくつもの矢と刀傷をこさえながらも、鬼火を携えてその身を現世へと永らえさせる戦を求める修羅の者ども。老原の亡霊軍団が居た。

 秀武の策略に感服し、彼らの闘争本能の他に心に残ったその侠気を見せるべく、二千の軍団が三百の蟲を押し止めた。

 しかし、後方のどの地点から出現するのかを見極め切れなかったために横に伸びた隊列となった。結果、一部の四百弱の亡霊達が三百の蟲達の進撃に耐える事となった。しかし、彼らは戦闘狂の亡霊軍団である。魔の持つ力で彼らが霊体に触れ、撃滅できるとしてもそれは彼らも同じ条件である。













 いくつもの人と人外の屍が大地に重ねられ、血の河を作り出していた。

 それを石塔の上から眺めていた時雨の足元から二つの声が聞こえた。

「従四位にして左馬権頭、闇殺舎総大将、源 頼光」

「同じく、その郎党にして一番槍、四天王の南門の守護者、坂田金太郎」

 刀を掲げた頼光に、槍でなく、自前の鉞を担いだ金太郎。ついに彼らは龍族の障害を突破し、人外の総大将である時雨の下へと辿り着いたのだ。そして、最強の人外、彼女に対抗できるのは四天王と頼光しか居ない。

「「貴様の首、貰いに来たっ!」」

「おぉ、待ちかねたぞ人間ども!!」

 潔い宣告に時雨は気をよくすると、自分の身長の二十倍はあろう高さから躊躇無く飛び降りた。

 爆音のような着地と同時に、昨日と同じように纏った襤褸を剥ぎ、殺人手甲を構えた。

「かかって来な、人間」

 手招きと同時に、鉞を文字通り振り回して金太郎が突っ込む。

 時雨はその突撃の早さに驚愕する。

「(こいつっ! 槍の時よりも動きが早ぇ!)」

 雷撃を身体から飛ばすように金太郎の周囲を巨大な鉞が駆け巡る。金太郎の上半身を軽々と隠すほどの巨大な鉞が常人の目には見えない。それを人外の時雨は両手の手甲で凌ぎ、むしろ攻めに転ずる。しかし、その合間を縫って、閃光のように頼光の太刀が奔る。金太郎の振りぬく鉞の陰から、その小柄な身体を生かして時雨の胴体を斬割せんと抜け出る。それも防ぐ。しかし彼女の防戦の一方である。

 大地は鉞に削られ、空を割る太刀、打ち付ける手甲の音は高らかな魂の響きを生み出す。


 誤算。

 頼光の強み。それは四天王の攻撃を補佐した時、それは絶大な心理効果と同時に、彼らの体へと無意識に自らの魔力を送り、身体能力を強化させていたのだ。


 敗北。

 それをはっきりと意識した瞬間、時雨の中で何かが弾けた。

「ららららららららららららららららららららっ!」

 突如、時雨の身体が加速する。視界を埋める拳。金太郎は幅広い鉞の鎬で頼光と自らの身体を守り、二人は同時に跳び下がる。


「くぅ……、いいねぇ。俺様を、ここまでコケにしてくさったのは手前らが始めてだよ」

「何だ。貴様をコケに出来るほどの人外は居ないだけなのだな。私なら人で三、四人は知ってるぞ。まぁ、一人は現在進行形で床の上で死に掛け、もう一人は戦場で大太刀持って暴れていて、残るは私とその横に居る獣だがな」

 頼光の涼しい物言いに「違ぇねぇ」とくつくつと笑いながら答える。

「いいねぇ……、あんたらが気に入り始めたから、俺様はあまり殺したくないのさ。でもねぇ――、身体が抑えが利かなくなってきているんだよ?」

 ぎしぎしと音を立てて、時雨の革鎧が、いや、彼女の身体が膨張を始めていた。




「微塵と弄り殺してやるさ! 人間ども!」

 彼女の身体が巨大化した。革鎧が爆ぜると瞬時に蒼く尖った鱗が浅黒かった全身を覆い、胴は長く太く変形し、こめかみからは角が生え、口元から長い二本の髭が伸びる。赤く艶かしかった唇からは太刀よりも鋭い牙が生まれ、瞳は白目と関係なく赤く染められていた。短いながらも鋭い爪の四肢。体長四百間(二千メートル)はあろうかと言う化け物。自然界の権限、雷雲の彼方の畏怖から生まれた龍族の王にして神、龍神としての姿が龍ノ目時雨の真の正体である。




「ごあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」



 大地が崩れて、空間が歪むような吼え声。聞くもの全ての闘争心を萎えさせる。

 勝てない。

 幾ら戦で勝とうと、あの人外には敵わない。空中でとぐろを巻いて空のほぼ全てを覆う姿に幾百の人外と戦った闇殺舎の古豪さえも絶望感を抱かせた。

 人では無い。人が、神に敵うはずがない。

 それは間近である頼光も同じ心境だった。

 疑う余地すらなければ敵うと思っていた。だが、あまりの巨大さ。あまりの力強さ。あまりの神々しさ。冒してはならない領域へと踏み込んだような心境。

 刀を向けるその精一杯の虚勢も今では脆く崩れそうである。




「なぁ、頼光」

 そんな中、場違いまでに平静な声が傍らから聞こえた。

「こいつを倒せば、楽園が出来るんだろ?」

 全てを平伏させる絶対者の前で、頭を上げ、聞く者に勇気を与える声。




「俺に全て任せろ」




 古代よりこう呼ばれるものがいる。英雄。人から生まれし、神に唯一対抗出来る者ども。

 確信したからには、人は英雄の行動を賞賛しなければならない。


「……命令だ。――――勝てっ!」


 その言葉と同時に金太郎は雷雲と豪風の渦巻く、彼女の中心へと駆ける。

 途中、岩肌に刺さった赤い、あの槍を抜いた。

 それが抜けると同時に走りながら、槍が時雨の喉下へと投げ付けられる。それだけではない、何と彼は更に疾走を加速させ、その槍に飛び乗った!

 彼女の顎が大きく開かれる。その中心には稲光が迸っている。槍に乗って一直線に向かう金太郎に、電離した、人が触れれば溶解するほどの超高温の稲光が放射される。

 それをあろうことかただの鉞が弾く。それは自らの身体を傷つけさせないと、強い意志がまとった心の壁、装甲結界、それが鉞に層を成していた。体内に混じった(あやかし)の血がこの場で覚醒したのだ。

 喉下、そこに振り被った鉞の一撃が加えられんとした。


 だが、時雨も甘くはない。彼女にとっては豆粒のような金太郎をその長い、天を覆うほど長い尾の一部で打ちのめした。

 上空から地へと高速で叩き付けられる金太郎。

 岩石、いや地盤が山の彼方まで裂け、砕ける。

 頼光の叫び声。

 その上に駄目押しとばかりに時雨の巨体が押し潰すように圧し掛かった。

 地震。時雨の押し潰しに遥か遠方、大陸までその震動は伝わった。







 ……………………。







 誰もが金太郎は死んだ。そう思った。

 時雨は勝ち鬨の鈍い吼え声を轟かせ、生き残った一部の人外達は愉悦の笑みを浮かべた。






 そんな中、何処からか声が聞こえた。




   その声は確か「発気用意――」とそう言っていた。




 微かな震動を大地が上げ始める。何か巨大なものが彼女の体の下から湧き上がるようなそんな音。

 時雨もその異変に気付く。空を飛ぼうともしていないのに、彼女の身体が持ち上がっている!

 ついには彼女の体が真下から何かによってむりやり旋回をさせられ始める。彼女もそれに抗おうと大地に爪を立てる。だが、その力もむなしく、大地に痕を残しながら開墾するだけに終り、彼女の体が竜巻のように旋回させられていく。止まらない、留まらない。怪力を超えた怪力、剛力の中の剛力が真下で彼女を振り回している。

 紅龍の半魔の力、相撲の神の力が渾然一体となった結果、この場で最強の獣が覚醒する!




「――残ったぁっ!」




 虚空を(つんざ)く鋭い呼気と共に、彼女の体は空の果てへと有り得ない速度で『投げ飛ばされた』。一瞬にして、天空を覆っていたはずの彼女の体が点、光となる。生き残り、愉悦を浮かべていたはずの化け物も、自陣であるはずの闇殺舎達の眼も点となる。

 その彼女が足掻き、鋭い爪で掴み、それでも抵抗できずに描かれた円、いや、【土俵】の中心には大きく息を荒げ、それでも立ち尽くす金太郎が居た。


 圧倒的な力に彼は力で打ち勝った。


 土俵の中心で高く片足を上げて、打ち下ろす。


 四股。古来、大地に滞る邪気を祓う儀式であり、彼の気迫は地を伝って響きとして味方に心気を与え、敵を気迫で打ち払う。

 あまりに俄然とした英雄の力の発露に全ての化け物たちは頭を垂れ、敗北を認めた。


 戦闘の直後、余りの人外の力を行使したことで倒れそうになる金太郎を、小柄な頼光が支えた。

 血塗れの戦士、矢尽き、刀も折れたが、昔から変わらない、獣の攻撃な笑みだけはそのままだった。

「……やるじゃないか、金太郎」

「ふんっ、頼光。お前の兵が負けるはずがないだろう?」




 西暦千年、近江の乱はここに終結した。


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