暗黙の了解の正体
短編です
うちの会社には、いわゆる“暗黙の了解”がある。
・部長のネクタイが赤の時は、残業してはならない。
・旅行などに行った際には、お局様用のお菓子を別で用意しなくてはいけない。
・備品室の奥のロッカーは触れてはならない。
・22時以降まで残業をする場合は、備品室にそもそも入ってはならない。
・コピー用紙は気が付いた人が交換する。
などなど、新人時代に先輩たちから聞いた暗黙の了解のいくつかは、5年務めた今でも理由がよくわかっていないものがほとんどだ。特に、備品室に関わるもの。さっき明記した以外にも、いわゆるホラーな内容が職員たちの間で噂程度に広まっている。
「で、結局その備品室の話はなんでダメなんですか?」
今年の新人は、そう言うホラー系があまり怖いたちではないようで、ぐいぐいと理由を聞いてくる。まぁ私に聞かれたって、理由なんて知りもしないから、答えようがないのだけれど。
「私も先輩に聞いたんだけど、人によって答えは様々でさぁ、よくわかんないんだよね」
「え~、めっちゃ気になるな~。備品室のロッカー開けたらどうなるんですかね?」
「やめときなよ~。5年務めてて、私も他の人も備品室のあのロッカーに近づいたことすらないんだから、基本的に使わないものばっかり入ってるんじゃない?」
そう言ってあしらったけど、正直私も、あのロッカーはずっと気にはなっていた。だって、何が入っているかもわかっていないし、なぜ触ってはいけないのかも、不確かなままなのだ。開けるなと言われると開けたくなるのが人間の性というものだとは思うのだけれど、ホラーが苦手な私は、結局触れないままでいる。
「あ、でも、この会社に長くいる人から聞いた話だと、社長が悪魔と契約したときの契約書が入ってるって言ってたなぁ」
「なんすかそれwww」
「ね、面白いでしょ?」
「私は、昔この会社が倒産しかけた時、生贄としてささげられた人の亡骸が収められてるって聞いたわよ」
「備品室の話?あれただの噂だよ?古いファイルが山積みになってるだけって聞いた」
新人君との話が、昼休憩中の社員たちの興味を引いたようで、ちょっとした井戸端会議が始まってしまった。
「あ、そうだった、旅行のお土産のお菓子、入り口に置いてます~。人数分で買ってきちゃったので、一人一個でお願いします~」
誰かがそう言うと、丁度、午後の始業開始5分前のチャイムが鳴った。
私も新人君と一緒に部署に戻ると、件のお菓子の箱が入り口に置いてあった。しかし中にお菓子は一つもなかった。
「人数分なのに、俺の分も先輩の分もないっすね」
「ありゃ、誰かが二つ持って行っちゃったのかな?」
「絶対お局様ですよ」
「あれぇ?お菓子なくなっちゃってた?ロッカーの前にはお供えしてくれてたけど」
「お供え?」
「そう、お菓子買って来たらお供えをしなければいけないって噂の!」
——そんなのもあったの?——
ん?ってか今の誰?




