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男子校の生徒たちが紳士すぎる。僕は本当に男なんだよ!!

作者: 音音
掲載日:2026/02/17


「間違って買っちゃったんだ。良かったら飲んでよ。飲まなくても手を温めるだけでも楽になるんじゃないかな」

渡されるミルクティーのペットボトルは温かい。


「……ありがとう」

明らかにわざわざ僕に渡すために購入されたミルクティーに罪悪感を感じながら田中に笑顔でお礼を伝える。



「これ、良かったら使って。大丈夫、オレまだ一度も使ったことないから。雑誌の付録で付いていたやつなんだ。ロッカーに突っ込んだままにしておいたやつなんだ」

肌触りが滑らかなブランケットはアウトドアメーカーのロゴが描かれている。

昨年の冬にコンビニの雑誌コーナーで見たような記憶がある。

構内の売店でも取り扱いのある雑誌だから、山本の言う言葉は本当なのだろう。

わざわざ用意されたものじゃないことに安堵して受け取る。


「ありがとう。あとで洗濯して返すよ」

僕の言葉に山本は顔を赤くして左右に激しく首を振った。

「いい。いい。雑誌の方が欲しくて買ったやつで、本当に使わないやつだから近藤にやる。返さなくて大丈夫!! 近藤が使ったものをオレが所持するなんて、そんな破廉恥なことできない!」

「あ…… ありがとう」

とりあえずお礼は伝えた。



「痛み止めとか必要なら、保健室付き合うよ」



「今日の世界史の準備当番は俺が変わるよ」



「立ち上がるときとか気をつけろよ。ゆっくりな。立ちくらみとかしたときは我慢しないでしゃがむんだぞ」

「今日の日直〜。号令かけるときいつもより長めに間を取れよ」



「近藤。一緒に行こうぜ。移動教室まで荷物持つよ。近藤はブランケットで身体を冷やさないようにしてろよ」


「バカ。近藤にそんなに付き纏うなよ。トイレに生きづらくなるだろ」

「あ、そっか。気が付かなかった。プリンセスウィークだからって気遣いすぎると近藤も困るよな」

顔ほんのり赤くした小声で話す佐藤と鈴木の会話を聞こえないふりをする。


「荷物は俺たちが持ってくよ。近藤はゆっくりおいで。遅れても先生には上手く言っとく」

俺、良い仕事したとでもいうように、爽やかな鈴木の微笑み。

「…… ありがとう」


とてもじゃないが出すもの出したから腹痛は治まったとは言いづらい。



ここは全寮制の男子校で、僕は漫画とかで見るような男子校の姫扱いをされてるわけではない。


本物の女子だと勘違いされていているだけ(・・)である。


だけ(・・)で済ませるには僕への心労と、結果的に騙すことになってしまっている罪悪感がすごいが。


入学して一ヶ月。いまだにその誤解は解けていない。



念のため言うが、彼らの言うプリンセスウィーク、月経は当然のように自認ではなく生物学的に男性で分類学的に人間の僕には年齢を考慮しても無い。


そして、僕は女子だと言ったこともないし、男だと何度も力説したことをここに宣言しておく。





 ✤✤✤✤✤


(ねえ)ね! 笑い事じゃないんだよ!」


強制的に一人部屋にされている寮室で、僕は一番上の姉に繋がっているスマホに向かって叫んだ。

別に隣室のやつらに聞こえたって構わない。

っていうか、聞こえて疑問に思って欲しいぐらいだ。



 上に姉が4人。

 従姉妹が8人。


 母親は三人姉妹で、父は婿入だ。

見事な女系一族。曾祖父ちゃん以来の男児の誕生に、みな揃って蝶よ花よと僕を育ててくれた。


幼稚園時代、友達は女の子が多かった。


小学校の入学式。ハーフパンツスーツの姿に戸惑う女子に、早い失恋に泣く男子。


小学校の時に姉が双子の女の子を出産。

姪っ子二人は可愛くて、僕は良い遊び相手。


自分で言うのもなんだけど、女子より可愛く華奢な僕と女子を比べる男子の言葉によってライバルではなく敵だと女子に分類された。


小中と女の子のやっかみを受け決心したのは、自宅から離れた全寮制の男子校への進学。


(ねえ)ねの旦那さんの弘樹さんの出身校で、ここなら僕でも安全だよ。と薦められた鳴王学園は小学校から持ち上がりのため外部生が入ってくることは珍しいそうだ。


入学試験が行われるのは初等部のみ。

中等部高等部ともに、入学試験は実施されず、編入希望者がいる場合は、全寮制のため部屋に空きがあれば申請が受理されて編入試験を受けることができる仕組みらしく、編入試験を受けれた僕はラッキーなんだと思う。


弘樹さんが言うには、全寮制だから転校する人も稀で基本的に空きが出ない上、人間関係が構築済みの、めんどくさい手続きが必要な大学の附属でもない高校への編入を希望する人っていないんだよ。とのことである。


『上脱げば? 下のが確実だけど、そこまでしたら旦那の話だと停学くらいそうだし』

「それはもうやった」

『やったの!』

「正確にはやろうとして止められて、盛山が脱いでた」

『盛山誰だよ!』

楽しそうに手を叩きながら笑う(ねえ)ねの声の他にも電話の向こうから聞き慣れた声が聞こえる。

「相撲部の子。

身を削るような真似するなって止められて、男だって大きいやつはいる。大きさなんて気にしちゃダメだって言われた。

その際、盛山が上半身裸になったのはセクハラじゃないかって議論が持ち上がったけど、相撲部だから神聖なものだという結論になぜかなって、もし僕が脱がなきゃいけないことがあれば盛山が脱ぐってことで満場一致で決まったし、今、水泳の授業は選択制にしようって案が全校生徒から出されてる」

『ーーーー』

聞こえてくる爆笑に、スマホを耳から遠ざける。

「あのさ、お姉ちゃんと、姉さんと、ちい(ねえ)も居るでしょ」


一番上の姉は(ねえ)ね。

二番目の姉はお姉ちゃん。

三番目の姉は姉さん。

四番目の姉はちい(ねえ)


『はっずれ〜。可愛い弟の電話だもん親戚一同揃い踏み』

忙しい(ねえ)ねを気遣って、事前に相談したい日時を確認したのが裏目である。


『学校の先生は? 弘樹が言うには、本物の女の子と間違われるような展開は予想外だけど、相談すれば対応してくれるはずだっていうんだけど』

「すでにしたよ。諦めてくれって言われた。去年流行ったドラマの影響が強すぎて無理だって」

『ドラマ?』

『ミキ(ねえ)。アレだよ…… 黄泉の華』

『なにその暗そうなタイトル』

『全寮制の男子校に男と性別を偽った転入生がくるとこから始まるから、そこだけ取ればマリと一緒だよね』

「一緒じゃないから!僕、男だから!!」

ちい姉の説明に僕は吠える。

生まれたのが女の子なら万里でマリ。

男の子なら万里でバンリ。とつけられる予定だった名前は、父が間違えてよみがなをマリで書いて出したためマリとなった経緯がある。


『わかったわかった。それでドラマの内容は?』

『ドラマはミステリー仕立てって言っていいのかな? クラスメイトたちが、転入生がどうして男の子のフリをしてるのかって謎を解いていく感じ……だっけかな? まぁ転入生の母親が主人公の双子の兄の死を受け入れられなくて妹である転入生の死亡届を出したって言うことが明かされていく過程で転入生の家庭環境が抱える闇だったり、クラスメイトたちが抱える問題も浮彫にされてくみたいな』

「ぇ゙っ。僕、そんな誤解受けてるの!? 先生からは甘ずっぱい夢見てるだけみたいなこと言われたのに……」

『ちなみに主人公は転入生じゃない』

「え? 転入生が主人公じゃないの? なにそれ」

『まぁ、主人公問題は置いといて。

先生、ドラマを知ってるだけで、見てないんじゃない? ドラマのCMだけ見ると、すっごいラブコメ見たいな感じだったから』

『そうなんだ。ーー ん。まぁ、良いんじゃない? だって周り優しいんでしょ? 貞操の危機も無さそうだし』

「あってたまるか!」

反射的に返す。

『だって、マリは嘘ついてないし、信じないのは相手側の問題だし。先生もお手上げならムリだよね。残す手段は転校ぐらいだけど。良さそうなとこ探して候補送ろうか?』

(ねえ)ねの提案に、言葉が返せなくなる。

だって、女の子だと思われてる以外は、みんないい奴なんだ。

外部からの編入で、もっと疎外感じたりするのかなって思ったけど、早く馴染めるように色々気を使ってくれてる。

初日にクラスメイト全員の胸元と背中に養生テープに名前を書いたものを貼って迎えてくれた。

それは、僕を見る前、女の子だと誤解する前の行動だ。

『なんだかんだ言って馴染んでるんじゃない』

「うん。皆んないい奴ばっかり」

『良かったね。

マリとしては、女の子だと勘違いされてるのを何とかしたいってことでいい?』

「うん。今まででみたいに男だって分かってて女の子扱いされるぶんには蹴り倒せばすむけど、百パーセント善意で本気で女の子だと思われてるから」

『わかった。保護者として父さんたちと学校側に交渉するからちょっとまっててね』

「ありがとう」

ちょっと涙ぐみながら伝えた感謝の言葉を返してほしいと思ったのは一週間後。


(ねえ)ねは本物の女の子。従姉妹をぶち込んできた。

ねえ。学校側に交渉って…… これ?


共学校で王子様をしている従姉妹が男子校で僕を巻き込む2週間が始まる。







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