約束
「っと片付けないと蒼が」
言い終わる前にガラッと扉が開き蒼が入ってきた。
「誰か来てたのか?」
俺の手元にある来客用のティーカップを見て蒼は呟いた。
「あっうん。そんなところ」
「誰?」
「病院内で知り合った子供…」
なんとなく両親や知り合いの名前をあげてもバレそうなので、そう答えた。まあ嘘はついてないし、と考えながら後片付けを終わらせた。
「ふーん、そう」
「あっそういえば、さっきリハビリの先生に言われたんだけど!」
気まずくて話を逸らすために咄嗟に出たのはリハビリが順調に行っていること。このままいけば退院も早まるかもしれない、だから態々自宅から1時間もかかるこの病院には来なくてよくなるかもと伝えた。
「そしたら復学できるな、良かったじゃん」
「やりたい事だらけで困っちゃうよ!早くよくならないとね」
再び流れる沈黙に、自分の話のレパートリーのなさに嘆いた。普段から話しまくってるから内容なんて当に尽きてるし、さっきから蒼は俺の顔をじっとみるし、こんなにも見つめられると照れる、普通に恥ずかしい…こいつが何を考えてるかさっぱり分からない。
「とっところで、奈々さんはどうなったの?」
「なんで、あの子の話を俺に聞くんだ?」
やばい、墓穴を掘った。滝の様な汗が流れ始める。いつもなら避けてきた、俺自身話したくない内容だったから不審に思われた
「ほら!俺復学するじゃん?だからあの子と会った時に気まずくなりたくないし?」
頭が真っ白になってテキトーに口から出た言葉に驚いた。確かに気まずくはなりたくない、もしかしたら蒼の番になるかもだし、今後関わっていくかもしれない人だし。
俺はこいつに一生"親友"宣言されてるわけだから。
「さぁ?知らないまだ大学来てないみたい。」
「そ…そうなんだ、そ、そういえば…阿部教授の」
「他の奴の話なんかすんなよ」
なんだか、居た堪れなくて再度話を逸らそうとしたら蒼が俺の頰を両手で挟み至近距離で言った。
「は、はひ」
「ふっぶはっお前、変な顔すんなよ」
「いやっお前が両手で挟むからだろ!」
「わりぃわりぃ」
「なぁ俺たちずっと一緒だよな?」
「えっ?!なんで今そんなこと…なにも死ぬわけじゃ」
「ずっと一緒だよな?」
蒼が目を細めながら幼い子供を諭すような優しい声色でもう一度言った。
「もっ勿論…」
「そう、ならよかった。俺の隣からいなくならないでくれよ悠月。悪いけど、俺この後用事できたからまた今度くるわ」
「…うん、また」
なるほど、一番の親友が死にそうになったから不安になってただけか…にしてもあいつの目なんかすげぇ怖かったな。
別の日、椿と一緒に中庭のベンチで会話をしていると、目の前を通った少年が自分の足に躓いて倒れてしまった。
さっきまで満面の笑顔で走り回っていたが、タカが外れた様に泣き出した。駆けつけるために松葉杖に手をかけたところ、椿に止められた。
「僕が行きます。ちょっと待ってて下さい。」
少年の近くにより、宥めながら痛いところを確認し、応急処置を始めた。処置をしながら少年に声をかけるところを見てなんて隙のないものだと驚いた。幸い軽い擦り傷のため、先ほど戻って来た母親に少年を託し、幾つか話をしている様だ。それから何度か感謝され、こちらに戻ってきた。
「お待たせしました」
「いや凄いね、子供への対応もそうだけど、処置が早くて驚いた」
「下の弟が好奇心旺盛な子で、慣れてしまっただけですよ」
偶に話す弟の話に顔を綻ばせながらどこか懐かしむ切なそうな表情に胸が締め付けられる。
弟さんの詳しい容態は聞いてないけど、あまり良くはないのだろうか。
それから怪我も順調に回復していきリハビリをする毎日。病室には親しい友人や家族が来てくれて俺は恵まれているのだと実感した。椿には蒼がいない時間を伝えてきてもらっていた。できれば椿と二人だけで過ごしたかったので、頻繁に弟の病室に行ってる椿には帰りに寄ってもらい、話をするのが習慣になった。
椿の話は俺の知らない話もあり、ためになる。知識が増えていき凄く有意義な時間となっていった。偶に通りかかった看護師さんから"悠月くん達がの話してる内容って難しくて偶に何を言ってるのか分からなくなるわ"と言われた。
こんなにも話が中断する事なくスムーズに進み、心躍る会話した事ない。気づけば時間はあっという間に過ぎていた。
担当医には過剰に抑制剤を摂取していたことがバレ、今では普通の量に戻している。
この建物には発情期中のΩを隔離しておくための部屋があり、室内からフェロモンを外に垂れ流さない様な作りになっている。まだまだ希少なαとΩだがこれから増加していく可能性を考慮し政府がバース専用の病院を設立すると発表していた。そもそも学内に一人居るかいないかの数なので今まで既存の病院で対処していたのだ。俺自身この前きた発情期も軽いもので一時的に隔離はされていたが、周期が終わると元の部屋に戻された。
そんなある日、病室に来てくれた椿にリハビリ期間も残りわずかで退院日が決まった事を伝えたところ、クリスマスに外であって欲しいと言われた。
スケジュール帳を開きヒートの周期を確認する幸いクリスマスの後にくるので構わないだろう。初めてあった時以来、椿から強いフェロモンは感じないので大丈夫だろう。何かあった時の抑制剤も所持しているので、いざとなれば少し多めに服用すれ良いだけの話だ。
ふと、クリスマスは恒例行事があったと思い出す
「あーちょい待って、親に聞いてみる」
「先約があれば断っていただいても大丈夫ですよ?」
「んーいや毎年クリスマスは家族で過ごそうねって恒例行事みたいなもんだから大丈夫。それに、そろそろやめようか的な話を前回のクリスマスで話して
たし良いタイミングだと思う」
「良いんですか?恒例行事なのに」
「気にしないでよ」
毎年クリスマスは俺と蒼の家で集まり食事に出かけるのが恒例だった。この前成人した俺からするとやっぱり恋人や好きな人と過ごしたい。
しばらくすると蒼家族と両親から承諾の返事がきた。蒼は退院日に会うのでその時に伝えようと思い、スマホをしまう。
「許可出たよ、じゃ当日どこいく?」
「よければ僕が当日のプランを立てても良いですか?」
「どこか行きたいところでも?」
「はい、悠月さんと行きたいところがあります。何か苦手な場所、食べ物などはありますか?」
「特にないけど、なんか期待しちゃうな」
「ご期待に添えるように頑張ります」
「じゃ次、遊びに行く時は俺がプラン考えるから楽しみにしとけよ」
「はい、楽しみにしています」
優しく笑う椿にドキッとする。最初会ったときに恋愛はできないと言っていたでも椿の問題が解決したら一緒に恋愛できるのかな。




