運命の番
大学に入り俺と蒼はそれぞれ、一人暮らしを始めた。特に実家から遠いわけではないので別に必要ないと親に伝えたが独り立ちした時のために家事スキルは身につけなさい、と言われた。一人暮らしすると伝えたら何故か蒼もついてきて隣に部屋を借りた、運良く空いていたらしい。
大学では、俺を奴の一番の親友と周りに紹介しまくっていた。なにがあっても一緒にいるのだと。確かに学部が分かれてお互い別の友好関係ができ、一緒にいない時間が増えた。
そんな中、蒼に彼女ができた。本人は隠してる様だが、たまに香る蒼のじゃない複数の女の匂い。高校まで品行方正だった蒼が大学に入ってこんな事になるとは思わなかった。
隣部屋に住んでいるが、隣に連れてきたところは見た事もなかった。彼女なのに家に連れてこないのも疑問には感じていたが、問いただして彼女達との詳しいことを聞くのも、それであからさまにわかる様に見せつけられるのも嫌だから気付いていないフリをした。
俺の方が蒼のこと好きなのに、俺のが早かったのに。何度も何度も、悔しく惨めに思った。でもすでに振られている俺には口を出す権利はない。
でも彼女たちとは長続きしている様に思えない蒼をみて何がしたいのか分からなかった。
一年生の秋、蒼の運命の番に出会った。偶然、廊下ですれ違った時に蒼の目が一人の女の子に釘付けになっていた。相手の目もまるで恋焦がれる恋人同士みたいな熱い視線…
まさか、そんな、運命の番なんて巡り会える確率、滅多に無いはずなのに、なんでコイツの前に現れるんだよ!
頭の中がごちゃごちゃしている間に女が声をかけてきた。
「ね、ねぇ!貴方もしかして…」
二人を見たくなくって下を向いて黙っていたら蒼が俺の手首を引いて、走り出した。
「ちょっちょっと待ってよ!」
女が追いかけてこようとしてたが、蒼が振り返ることはなかった。どこか焦ってる様にも見えて、酷く困惑した、なんで?お前の運命の番じゃ無いの?え?置いてっちゃって良いの?てかなんで俺ら走ってんの?息も絶え絶えになった頃、近くの誰もいない教室に入った。居ても立っても居られないくて、俺は女のことを聞こうとした。
「ね、ねぇさっきのあの子…」
「え?さっき声かけてきた子?知らない子だよ。それより手首掴んで無理して走らせてごめん。痛かったよな?みして?」
どこか必死に口早に話す蒼をみて。もしかして知られたく無い?とわかった。なんでかは分からなかったけど言いたく無いなら聞かない事にした。俺は恋人じゃなくて親友だから
「あっうん…大丈夫」
「そうか!それじゃ、次の教室行くか!」
それから蒼が女遊びをやめた。多分あの運命の子とあってる。最近は隣室なのに一週間も会えないのがザラになった。さらに隣の部屋から物音が全くしないと来た。もうアイツの一番は俺じゃなくなったのだと理解した。
遠目から見る蒼はずっと嬉しそうにしてたから。良かったな。これでやっと只の親友になれる気がするよ。
4月10日、一人図書館でいた時に蒼の運命、南奈々さんに声をかけられた。
「蒼くんの事で話したいことがあるの。ついてきて、ここじゃ話せない」
静かに読書や勉強をしている周りを見て、確かにそんな中する話じゃ無いなと思った。
南さんは早くしてという様に俺の手を引いた。急いで荷物をしまい南さんの後ろについていくと、部室棟の前まできた。そのまま部室棟の階段を上がっていく南さんをみて俺は聞いた。
「南さん、どこまで行くの?」
「いいからついてきて」
鋭い声で言った南さんはこちらを一切見ずに階段を上がり続ける。ある扉の前で南さんは足を止め、難なくドアを開けた
「え?ここって屋上だよね?なんで入れるんだ?」
「知らないの?ここ鍵壊れてるのよ」
「そうなんだ」
奈々さんは屋上の手すりに手を置きこちらに振り返る。
「ここに呼んだ理由わかってるでしょ?」
「…なんとなくは…」
「そう、なら蒼くんから離れてくれない?」
「なんで」
「貴方がいると蒼くんはいつまで経っても私を最優先にしてくれない。目障りなのよ」
「そんな事ない…君と出会ってからアイツは変わった。もう君が"一番"だよ」
「はぁ?当たり前でしょ?私が一番なのは当然なの!!」
「…なら何が不満なの?」
「貴方が蒼くんの周りにいる限り蒼くんは"私"を見てくれないのよ!」
「意味がわからない。それに俺は蒼に付き纏ってない。」
一度、会えないのが寂しくて蒼を探したが、彼の隣には毎回南さんがいて、そんな光景を見たくなくて、蒼を見かけても目を逸らしたり、蒼の居そうなところは悉く避けていたので、全く付き纏っていない。
「貴方が付き纏いをやめれば優しい蒼くんは引き留めないわよ」
ズキっと胸が痛んだ。確かに、生徒会も高校も大学も合わせて追いかけてきた。離れたくなかったから、確かに一番優先されてきたとは自負してたけど、それは一番近くにいたから。アイツには俺への執着はみれない。だから俺から離れたら次第にアイツの一番は俺じゃなくなってしまう。それが酷く辛かったけど、
「貴方オメガでしょ?」
「なんでそれをっ!」
「わかるに決まってるでしょ、蒼くんの事を愛おしそうに見る顔があからさまにαに恋するΩの顔してたから、私も同じだから分かるのよ」
今まで上手く隠してきていたと思ってたのに…なんで…
「蒼くんにバラされたくなければ自分から離れて。今でも好きだってバレたらなんて思われるかな?一番近くにいた大切な親友が自分を狙う醜いΩだって知られたら幻滅されちゃうわよ?」
「…それは南さんも同じじゃ無いの?」
「はぁ?何言ってんの?そんなわけないじゃない。男な貴方と違って、私達な運命の"男女"の番なのよ?玉砕してるやつに言われたくない。いつもいつもいつも金魚の糞みたいに蒼くんに付き纏って目障りなのよ!」
「君たちは本当に運命の番なのかな?」
不意に口から言葉が溢れた
わかっていた。彼らが運命の番同士なのは、蒼くんのあの時の誰にも向けた事もない様な目、本能的にもお互い酷く求め合っていたことはわかった。Ωの俺が邪魔してるのもわかっていた。
「うるさいっ!」
南さんがワナワナと震え出し、後ろの手すりを殴った。錆びていたのかもしれない、南さんの体が手すりの外側に投げ出されようとしていた。体が咄嗟に動き、南さんの手を掴み自身の方に引き込もうとして俺は足元を滑らせた。
突如感じたフワッと感じる浮遊感に、ああ俺今落ちてるんだ…と理解した。
見上げるとそこには南さんが驚愕の中に見える愉悦な表情をしていた。
"これで蒼くんは私のα"
そんな声が聞こえた気がした。
次の瞬間、背中から焼ける様な鋭い痛みで俺の意識は途絶えた。




