第二の性
この世界には男女とは別にα、β、Ωが存在する。
そんな人種が発見され始めたのは
50年前の話。発見され始めたためα、Ωの数は稀で、βが人類のほとんどを占めている。
人によって違うが、大半が中学の3年間で行われるバース検査によって判別される。
中学1年の頃、蒼のバース性はαと判断され、俺はβだった。
頭がよく、運動神経抜群、社交的な蒼は高校2年の今、生徒会長で高校の代表になっていた。
周りに気を配りながらも俺を最優先してくれる蒼が俺は大好きだった。家が同じ地区にあった俺たちは毎日のように顔を合わせていた。
あいつは案外、朝が弱い、なので出会った頃から俺が学校がある日は必ず起こしに行く。親が起こしに行ってもびくともしないそうだ。ある時、日常生活が忙しくなり、なんで俺が早く起きないといけないんだ!と思い目覚まし時計をいくつもプレゼントしてやった。翌日にはどれも破壊されていたが、あの時は恐怖した、あいつの睡眠への執着に。
なお、スマホは壊さないが、夜中にアラームが解除されてるらしい。
幸い、当時忙しかった生徒会業務も改善されたらしく元の生活に戻れたからよかったものの、こいつ俺が起こしに来なかったらこれからの人生どうなるんだよ。と思い改善を促すと、"えー?悠月とずっと一緒にいるから悠月に起こしてもらう♡"と語尾に♡が付きそうなほど甘ったるい声で言われた。
でもまあ、こいつの欠点なんか朝弱いことぐらいだからなー、割と俺の失敗尻拭いさせてるわけだから…お互い様?寧ろ俺のが助けられてるよな?と思案する。
まあ蒼の事は好きだし、俺だけが蒼を起こせると思うと優越感があったと思う。
そんなあいつの口癖は"俺たちずっと一緒だよな"になった。
それに蒼と俺の好みはかなり似ていると思う。前日、snsで流れてきた手品をみて、興味を持ち色々調べていくつか注文した。
すぐに商品は届き、早速片っ端から試していった。仕組みが分かるとあとは技術だけ。兎に角練習しまくり、プロにも負けないのではと自負する程の腕前になった。
すると翌日「先週駅前で手品ショーやってたんだけど、あれどうなってるかわかるか?」と声をかけらた。それから手品について実演を兼ねて説明すると蒼も興味を持ち始めた。
タイミング良すぎて最早こいつテレパシーとか使えるんじゃね?って何度なったか。
てな訳でこいつとは頗る相性が良いと思う。
中学の頃、思春期ともなると、親友よりも恋人になりたいと思い何度か告白しようとはしたが、悉くタイミングが悪く不発に終わっていた。ベタだけどある時は放課後に裏庭に呼び出して告白しようとしたら偶然通った蒼の友達に邪魔されたり、その時は何故かその友達を紹介された。蒼の部屋でなんとなくいい雰囲気になったところで言おうとしたら急に蒼の携帯に着信が入り断念。なにか大きな力が働いているのでは無いかと本気で思った。それでも諦めずに好き好きアピールは露骨にしていたと思う。
確かにあいつはモテる、何度も蒼を狙う女どもに"お前には蒼くんは釣り合わない""蒼にまとわり付かないで"などと言われてきていた。
αで成績優秀、運動神経抜群、品行方正、誰にでも優しいとなれば近づいてくるのは男女問わずいた。それらに対し俺は出来るだけ蒼と一緒に行動し、周りを牽制していたが高2になり告白をやめた。なんとなく無謀なのだと悟ったので。
俺も勉強はできる方だし短距離は得意だ。社交性と持久力に自信はないけど…それに今でも自分より大きくガタイのいい大人の男に苦手意識を感じている。表面上では悟らせないようにしているから周りには気づかれていないと思いたい。だから完璧である蒼の”隣”がいつか他の奴に取られてしまうのではないかといつも気が気でない
そんな中、俺のバース性が変わった。それは高校最後の学園祭後夜祭の最中だった。
うちの学校には後夜祭があり、夜には校庭でキャンプファイヤーをしていた。普通の学校ではやらないようなまるで漫画みたいな伝統行事、勿論ご近所には予め断りを行って回ったりした。蒼も俺も生徒会だった為、他の生徒より明らかに仕事量が多かった。その為か、俺は最終日に疲れでぶっ倒れた。
目が覚めると保健室にいて、ふと横を見ると蒼が突っ伏して寝ており、ずっと付いていてくれたのかと心が暖かくなる。外ではキャンプファイヤーを囲み生徒たちが踊っていて、やっぱり羨ましく思った。決して倒れてしまってみんなと楽しく打ち上げしたかった訳じゃなくて、うちの学校にはよくあるジンクスがあり、キャンプファイヤーの周りで踊った男女は結ばれるとか、そんな話。
俺たちは男同士だし、約束してた訳じゃなかったけど、二人で見れるだけでも良かったのに、倒れて寝てて参加できなかったとか無様すぎる。
「そういえば、コイツあの子と一緒に踊らなくて大丈夫なのか?」
蒼が女子達に誘われて、何度か断っているのを見た。でもそんな中、ある女子だけにはOKを出していたのを見た。自分に酷く失望した、もっと早く誘っていたら、別に踊らなくてもいい、ただ一緒にいてくれさえしてくれたら良かったのに。
でも、そんな彼らを見てたら何度も玉砕してきたからか、もしかしたら告白しない方がお互いのために良いのではないか?恋人になれば、いずれ別れてしまってギクシャクしてしまい疎遠になるかもしれない、それならずっと親友でいたい。ただお前の一番でありたい。恋人じゃなくてもいい。一番の親友としてお前のそばにいたい。
でもそれ以上に女じゃなくて自分を選んでくれたことに仄暗い優越感を抱いた。
ドクンっ
心臓が大きく高鳴り、ずくんと腹の底が疼く。
鼻腔に感じる知らないはずのαの上質なフェロモン。目の前に映る好きな相手の匂い。このαに組み敷かれたい、抱かれたい、無茶苦茶に愛してほしい。そんな考えが頭の中に溢れた。
なんともまあ皮肉なことに発情期
ヒート
が来て気づいた。
「あぁ、俺はΩなんだ。ならコイツに噛んでもらって番になれば、一時的にも唯一になれるのか…」
酷く興奮した。これで蒼から離れなくてもいいかもしれない。たとえ蒼が望んで番を解消しても俺は死ぬことが出来る。一度番になり解消した場合、Ωは死ぬほどの苦しみを味わうという。最悪死んでしまう人間もいるそうだ。
「それでも…」
「…んぅ…ゆ、づき…元気になれよ」
蒼の肩に手をかけようとした時、聞こえた寝言に罪悪感が胸に広がった。
「…ちっ」
蒼を起こさないように怠い体を起こし、置き手紙を書いた。"ごめん、先に帰る"と
急いでベットから這い出て、保健室から廊下に出て近くの教室に入り両親に連絡をして迎えに来てもらった。
そこからは体験したこともない甘い疼きに耐えまくった。近くの病院に行きすぐ様、検査してもらった所自身はβではなくΩだと診断され、抑制剤を打ってもらい、暫くしてある程度落ち着き、Ωについて詳しく話を聞き、抑制剤をもらい、そのまま帰宅した。
ふとスマホを見るとえげつない着信履歴とトーク履歴が表示されていた。
「うっわなにこれ…」
「あ、そうだ悠月、さっき蒼くんから連絡があって酷く心配してたみたいだったから病院に連れてったから心配いらないって伝えたわよ。貴方のバース性を伝えるかは貴方が決めなさい」
母は多分、俺が蒼のことを好きだと知ってて言ったのだろう。なんとなくまだ言いたくなくて黙っていることにした。
二回目の発情期の時にはバレた、蒼には"気にすんな、なにかあったらすぐに呼べよ"と言われた。幸い、早々に大学進学が決まり自由登校していた為、学校側に抑制剤は絶対飲み忘れないことを約束しΩという事を隠しながら過ごした。Ωは番がいないと無差別にアルファを誘惑する。3ヶ月に一度発情期がありその間外に出られないため、会社や学校を休む羽目になる。その為、バースが誕生してからαと違いΩは劣等種扱いされてきた。
今では発情期を抑える薬を飲んでいる為、無闇にフェロモンを撒き散らすΩは減ってきたが、それでも世間からよくは思われていない。
卒業式の日が近づき、俺はある計画を立てた。
一年前に計画した二人だけの卒業旅行で蒼に告白をして、玉砕すること。
今までの告白は何故か成功しなかったが、今回は地元から離れて告白するのだから、誰の邪魔も入らないと思ったのだ。
知らない女子の隣で笑うあいつを見るのも、将来あいつに番が出来て傷つくのも、発情期が来て叶わない夢を見て自分を慰めるのも、自分の事を好きにならないあいつを嫌いになりそうな自分が嫌で、あいつの幸せを祝えない自分が大嫌いなのも、もう嫌だったのだ。
俺はこの想いを断ち切り新しい恋を始めるために、一番の親友として隣にいるために振られるんだ。行ったのはヨーロッパ圏、国を跨いで色々なところに行った。やっぱり蒼の事が大好きなんだなと自覚した。
旅行の最終日、恋が叶うと噂の丘に行き告白した。今まで抱えていた蒼に対する恋心を全て吐き出した。恐る恐る顔を挙げると、やっぱり蒼は困った顔をしていた。
「ごめん、悠月の事、そういう目で見れない…幼馴染として凄く大切な存在だけど…ごめん。
お前とは一番の親友でいたい。」
一番最初に感じたのは安堵、断られても伝えられて良かった。これでようやく諦められる。あわよくば番になってくれないかと思ったけど、こんなあからさまに言われちゃ、もう望みなんてないんだと思った。
お前の一番の親友でいてやると心に決めた。
「やっと告白できて嬉しい…聞いてくれてありがとう。これからも親友でいような」
気づいたら目の前が歪み頰に涙が伝った。
「…っ!ごめん、ホテルには戻るから一人にさせて」
といって、蒼から逃げる様に走り出した。蒼の足じゃ俺には追いつかないだろうから上手く撒けるだろう
街に降り、ある店に入って、そこで知り合った男に愚痴を聞いてもらっていた。気づいたらホテルのベッドで寝ていた。蒼が迎えに来てくれたらしい。一気に血の気が引いた。めちゃくちゃ謝った。ちょっと思い出したくない過去になった。
俺も蒼も成績優秀で内申点が高かった為、上位の国立大学へ進んだ。アイツは法学部、俺は文学部へ
そして、その大学で蒼は運命の相手と出会った。後に俺を殺した運命の番に。




