椿と茜
翌日、退院の準備を終え、迎えにきてくれた椿と一緒に退院手続きをし、病院から出た。
仮にも成人してるから心配しないで仕事に戻ってと予め断りを入れていたからか両親は仕事のため一足早く地元に戻ったそうだ。
今回は現場近くの病院で入院をした為、以前入院していた椿の弟、茜がいる病院に今から向かうのだ。
エントランスを出ると、黒塗りの外車が停っていた、椿は臆せず中に乗り込む。流石…
高速を飛ばしてあっという間に、以前入院していた病院に着いた。どうやら椿の執事もついてくる様だ。
エントランスを通りエレベーターに乗り込むカードをかざすと17階のボタンが点灯する。エレベーターが上の階に上がり、おそらくvipのみが入れるであろう階に止まる。
「こちらです」
とある部屋の前に止まり、部屋をノックして入室する椿の後に続き、部屋に入った。
まるでホテルかのような部屋の中央には一人の少年が寝ていた。椿とどこか似ている顔立ち、艶やかな黒髪をショートに切り揃えており、顔の血色も良く、穏やかな顔で寝ている。椿が美人ならこの子は可愛い系だろうか。
するとベッド横の椅子を薦められたので荷物を隣に置き椅子に座る。
「この子が、僕の弟、茜です。」
「そう、この子が…こんにちは、柊くん俺は来栖悠月、椿の友達だよ。よろしくね」
「悠月さん、来てくれてありがとうございます。悠月さんには茜を紹介したくて。」
「こちらこそありがとう。大切な弟なんだね」
「はい、只純粋に俺を兄と慕ってくれた大切な弟なんです。」
「俺には兄弟がいないから憧れるよ、1日でも早く起きて元気な姿が見たいな」
「…はい、あの悠月さん、僕の話聞いてくれますか?」
「勿論」
「病室の外にスペースがあるのでそこに行きましょう。何度も歩かせてしまい心苦しいですが…」
「気にしないでよ。これだってリハビリになるんだからさ」
茜くんの病室を出て違くの待合室に到着して再度、椅子に腰がける。すると椿が話し出した。
「申し遅れました、僕の名前は緋宮椿です。現当主緋宮朱臣の兄、旧姓、緋宮薊の息子、それが僕。弟の茜とは従兄弟関係になりますね。戸籍上では養子になります。」
「え?緋宮朱臣さんってあの緋宮グループの?」
緋宮グループといったら日本では一つしかない。政治、医療、建築とそのほかにも幅広く手掛けている。ニュース、sns、CMでの知識しかないが…
「はい。実の両親は僕が6歳の時に事故で亡くなっています。
僕の実父は緋宮家の当主争いが嫌で、実母と駆け落ちして本家から離れました。実父は自身はβであり、当主の器はないからと言いαの弟に継がせるつもりだったそうです。
当主は無事今の父さんが継ぎましたが、それでも実父を担ぎ上げる分家もいたようで、度々いざこざが本家で起きていたそうです。本家とは縁を切った僕たち家族は日本から離れ海外にいました。
その日は旅行のために車で現地に向かっていました。前日楽しみすぎたのか僕は車内で眠っていました。突如身体中に激痛が走り、次に目が覚めたのは病室でした。
目覚めた僕は何故両親がいなくなったのか理解できず絶望していました。受け止めきれなかったのでしょう。
そんな中今の父さんと母さんは僕を養子にしたいと言ってきました。僕には親戚がいないと当時思っていたので、突然父の弟と名乗る人がいて驚きました。二人には子供が出来にくいのかまだ子供がいませんでした。
僕はこれからどうすれば、何をすべきなのか、誰を頼ればいいのか分からずにいました。
そんな僕に対して父さんは「本当の両親と思わなくていい、ただ兄さんの大切な息子であるお前に寂しい思いをさせたくないんだ」といわれ、ついていくことに決めました。
それから緋宮夫妻は僕を実の息子の様に育ててくれました。
それから暫くして11歳の頃、弟の茜が生まれました。弟が生まれたのだから時期当主は弟がなるべきだと両親に言いましたが、二人にはそれはお前たち弟の素質を見てからだ。と言われました。両親は素質があればどちらが時期当主になっても良いというスタンスでした。当時僕は時期当主教育は受けていましたが、あくまでスペアとして育てられていると思っていましたので驚きました。
茜が生まれたことで緋宮の分家がまた騒ぎました。実父と父さんの時と同じように…
成長した茜にも当主教育を受けさせ始めましたが、僕から見ても茜には素質があります。
この頃僕の第二の性がαだと判明しましたが、茜が緋宮を継ぎたいと思うなら僕は茜を支えていこうと今でも考えています。
しかし、茜はある時から当主教育から逃げるようになりました。最初の頃、家族みんなまだ子供だからと茜の気が向いたら再開しようと話していましたが、いつまで経っても逃げ回る茜に痺れを切らし父さんが叱責した所、おとなしくなりました。
そんな弟が心配で、何故逃げる様になったのか真意を聞くため部屋に行くと、「なら、昔行ったレストランに行きたい。そこでなら話す。」といわれ、後日商業施設内のレストランに行きました。料理を食べ終わり、話を聞いた所「当主教育はもう受けたくない。僕はピアニストになりたい」と言われました。確かに茜はピアノの天才でした。しかし僕には茜は緋宮を引き継ぐのが幸せだと思っていたので、「それは緋宮を継ぐより大切な事なのか?」と聞いてしまい、茜を怒らせてしまいました。
茜はその後、レストランを飛び出して行ってしまいました。後を追ったのですが、うまく巻かれてしまいました。今は追いかけても話を聞いてくれないだろうと思い、茜の好む玩具を買ってから探す予定でした。
あの子には専用のspをつけ、所持品にはGPSを仕込んでいるので、居場所はすぐに見つかるだろうと考えていました。しかしすぐにspから見失ったと連絡があり、近くにはGPSを仕込んだバッグのみが落ちていました。慌てて施設のスタッフと父さん、警察に伝え協力を仰ぎ探し回りました。
さらに、父さんが権力を使い、規模を町全体に拡大し捜索を始めた頃には既に遅かったのです。
その日、茜は失踪しました。
この時、竹林警部補とも出会い情報提供してもらっていました。我が家と警察は探し続けてきましたが、手がかりを辿っても本人にはいきつきませんでした。
そんな中、突然茜は見つかりました。
都内から離れた地域にあるアパート内、自殺した男の隣で気絶していました。
失踪してから3ヶ月経っていました。
茜の身体には最近つけられた傷が多くあり、部屋には所謂幼児趣味の映像や書籍があり、警察は男児誘拐事件として捜査をはじめました。
次々に男が誘拐したと言う証拠が出てきていて、被害者である茜からの証言を待っている最中でした。
しかし、今回悠月さんと小林小春さんが誘拐された事件が関わっているかもしれません。
捜査が大きく進展する筈です。今は黙秘している男達も次第に証言していくでしょう、いえ、必ず吐かせます」
話が終わったのだろう、椿は先ほど用意されたブラックコーヒーを一口含んだ。
気づいたら執事さんの姿はなくなっていた。
「聞かせてくれてありがとう。」
といい、背中をさすった。すると椿は縋りつくかの様に俺を抱きしめた。
正直、どう言えばいいかわからなかった。弟が助かって良かったじゃないかと励ませばいいのか?お前は悪くないと言えばいいのか?何を言っても今は良くないと思った。
だから俺はそれだけを言って黙っていた。
暫くすると椿は顔をあげ、聞いてくれてありがとうございますと頭を下げた。
「どうして俺に話してくれたんだ?」
「すいません。聞かされても困りますよね…」
「いや、そんな事ないよ、椿のことはなんでも知りたい。今まで自分の家族のことを話したがらなかったから、だから話してくれて嬉しかったんだ。」
「嬉しい?ですか?」
「そりゃそうだよ!」
「そ…そうですか…」
椿が瞳を揺らして不安そうに俺を見る。そんな姿が可愛く、椿の頭を撫でた。すると俺の手に頭を押し付ける様に擦り付けた。
一通り撫でまくってから再度椿に向き直り話した。
「何でも話せとは言わない、ただ椿が抱えきれなくなる前に俺にも背負わせてほしい。もしかしたら解決策が生まれるかもしれないだろ」
「そうですね…これからは頼らせて頂きたいです」
それから今まで聞きたかったことについて問いかける。
「…それとさ、椿って財閥の坊ちゃんなわけじゃん?もしかして婚約者や彼女さんとかいる?」
「いえ、僕にはいません。以前朝比奈家の長女との縁談が一度上がりましたが、断らせていただきました。父さんにも、お前が選んだ伴侶と一緒になりなさい。と言われていましたので」
「朝比奈ってあの有名な製薬会社の?」
「はい、祖父はうちの医療部門に朝比奈のバースに対する技術を取り込もうとしていた様ですが…」
「お爺さんは怒り心頭だったんじゃないか?」
「そんな事ありませんでしたよ?祖父もおおらかな方なので、特に反対はされませんでした。」
「え?もっとこう、家を大きくしていくのじゃー!とかそう言うもんかと」
ジェスチャーを加えながら言うと椿は口元を抑え笑った。
「ごめん、ふざけ過ぎた。仮にも椿のお爺さんなのに」
「気にしないでください。他の家はそうかもしれませんが、うちは昔と違い恋愛結婚が推奨されています。何代か前、政略結婚で会社を大きくしようとしましたが、緋宮家の娘が同級生の男と心中した為、当時の娘の妹がそれを後悔して、今の様になりました。その分、外からの批判も多いですがね…」
「なるほど…朝比奈とお嬢さんと椿に恋愛をしてもらおうとしたんだね」
「見合いは勧められましたが、当時の僕も跡継ぎになるつもりはなかったのでお見合いをして期待させるのも申し訳ないとお断りさせていただきました」
「でも、俺は椿に婚約者がいなくてよかったと思うよ。じゃなきゃ、俺たちはこうして会えないだろうから」
心からの言葉なのだが、なんか恥ずかしくなり話を変える為誘拐当時の詳しい話を聞いた。誘拐した犯人の特徴、いつ何処で誘拐されたのか、消えた犯人の車の特徴諸々
これって…もしかして…ある考えが思い浮かんだが、確証がない。
「あのさ、聞いた俺も悪いけど、椿も良く教えてくれたな」
「悠月さんなら何か閃いてくれるかと思いましたので」
♪〜♪
「あ、ごめん友達から電話来たみたい。ちょっと出てくる。」
椿がいる待合室から離れた。
「もしもし、蒼?どした?」
「どした?じゃねぇよ!!おばさんから聞いたぞ!お前また事件に首突っ込んで攫われたんだって!?」
電話口から聞こえてきた馬鹿でかい叱責の声に顔を顰める
「心配かけてごめん…」
『お前いい加減にしろよ?どんだけ心配したか!』
「いやだからごめんって」
『謝って済む話じゃない、お前が死ぬかもしれないなんてもう思いたくないんだよ』
「…心配してくれるんだ」
『当たり前だろ!』
「ありがと」
『はぁ…なにがありがとうだよ。意味わかんね、それと明日の夜、時間あるか?大事な話がある。いつものところに来てくれないか?』
「大事な話?今話せない事?」
『あぁ』
「…あのさ、俺も話したいことあるんだ」
『話したいこと?』
「紹介したい人がいるんだ」
『…』
「蒼?」
『あ…いや、うん、わかった…』
「てか、部屋隣同士なんだし二人で出かけた方が良くない?」
『昼間用事があるんだよ』
「わかった何時集合?」
『18:00にいつものとこ、遅れないで来いよ』
「ちょっと!今まで一度も遅れた事ないけど!?」
『そーいやそうだったな』
「なんか腹立つ言い方、まあいいや、また明日」
『あぁ、また明日』
その後、待合室に戻り引き続き当時の事件について話を聞いた。面会時間が終わるため、部屋から出て、椿の執事さんが運転する黒塗りの車で家まで送り届けてもらった。




