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脱出

左側は壁の為、右側の廊下を歩く。

今はまだ夜の為か廊下も薄暗く足元も瓦礫やガラスが落ちており危険だ。ここはどこかの廃墟なのか、壁にところどころ落書きやヒビが入っている。見回したが出られそうな窓はなく、取り敢えず一階にある出口を目指すことにした。


階段に向かうが、階段下から男の声が聞こえ足を止める。下を覗くと部屋には灯りが付いていた。おそらく誘拐犯の一人が中に居るのだろうが、あの部屋の前を通らないと外には出られそうにない。

話し声が聞こえて来た。



「あいつら、遅くないですか?」

「楽しんでんだろ」

「うへーよくやりますね。あんなガキ相手に」

「そんなガキを欲しがる奴に売り払うのが俺らの仕事だろ」

「分かってはいるんすよ、でも同情はしますよ」

「あまり深入りすんなよ、取引相手怒らせると面倒なことになる。最悪消されるぞ」

「ひえー世知辛い世の中っすね」

「ふんっ、恨むならそんな身体に生んだ親を恨むんだな」



うわーやばいこれ人身売買の受け渡し前の状況か…あのまま寝ていたらなにをされていたかは正直考えたくもない。それに気が抜けているのか結構大事なこと話してるな。さっきの縄の縛り方もだけど、素人目でも慣れているとは思えない。下っ端の下っ端なのか?


反対側を向き話に夢中になっている今なら部屋の前を通れそうだ。小春ちゃんに”このまま行くよ”とジェスチャーを出し、壁に沿って腰を低くして進む。



「そういえば一緒に拉致ってきたガキはどうするつもりで?」

「いやー見られたからには処分するつもりだったんだけどな、あのガキも売り捌こうかって話だぞ」

「でも俺らのターゲットって…」



クイッ

部屋の近くに来たところでところで小春ちゃんが袖を引っ張ってきた。泣きそうな顔でこちらを見てきている。



「どうしたの?」



小さな声で返事をすると小春ちゃんは部屋の中にある学生鞄を指さした。



「大事なもの?」

「うん、死んだお母さんがくれた宝物が入ってる」



少し逡巡して答える



「分かった。あそこにある物陰に隠れていて、もし俺に何かあったらすぐに逃げろ。足止めして小春ちゃんだけは絶対に逃してやる」

「ごめんなさい、気をつけて」



聞かなくても分かる、先ほど見えた服に隠れた痣、成長期の子供にしては薄い身体、何よりあの公園で何かを手に握って泣いていた今の小春ちゃんにはあれが必要なんだ。


幸い荷物は男たちがいる奥の区画の手前のカウンター上に置いてある、あれならもう一つの入り口から入って物陰に隠れながら近づけばなんとか取れそうだ。慎重に音を出さずに移動するドアは開いているのでそのまま中に入った。以前はバーでもあったのか酒を収納する棚がいくつかあり、地面には酒瓶やガラスが散乱している。それらを避けながらカウンター下までやってきた。


丁度上には小春ちゃんの学生鞄、隣には俺の鞄もありなんとかバレずに手にとった、中に入っているスマホで警察に連絡しようと探ってみたが入っていない。仕方ないとりあえずまずは、小春ちゃんの元へ戻ろう。あとは気づかれずに戻るだけ、床に落ちていた鏡の破片を拾い反射を使い犯人たちの動向を確認したところ机の上に俺のスマホがあり、バキバキに壊されていた。


すると突然、上の階からゴンッ!!!と大きな音が響いた。



「あいつ、商品なんだから一応大事に扱えよ…」

「でもおかしくないですか?こんなガタガタ言うもんすかね?」

「…それもそうだな、ちょっくら見に行くか」

「俺もいきます」



やばいあの男目を覚ましたのか、このままだと見つかるのも時間の問題…俺一人なら逃げ切れる自信はあるけど小春ちゃんを背負って行くとなると逃げ切れるかどうか…それなら逃げたと見せかけて誘拐犯達を外に誘導するか?思案しているうちに犯人達が部屋の外へ出ていった。素早く小春ちゃんの元へ行き声をかける。



「よく声を出さずに待ってたね。えらい。はい、これ君の鞄」

「ありがとう、お兄さん」



取り返せて嬉しいのか鞄に顔を埋める彼女を見て顔が綻ぶ



「でもまだ安心できない、着いてきて」



今度は手を掴んでくれたのか、手に温もりを感じた。こういった建物の構造なら出口はおそらくこっち…とくらい廊下の中進んでいく。出口が見えたところで上から男の怒声が聞こえてきた



「おい!!ガキどもはどこいった!!!!」



階段から駆け下りる音が聞こえる。このまま外に出てもいずれ見つかってしまう、分が悪いけど、迎え撃つしかない。



「絶対追いつくから、ここからできるだけ遠くに逃げるんだ」



小春ちゃんを外に逃がしたところで、男が3人やってきた。先ほど気絶させた男もいる様だ。



「ここにいたかクソガキ」

「さっきはよくもやりやがって」



顔にライトが照らされたせいで眩しくて一瞬怯んだが。すぐに体勢を変え男達と向かい合った、先ほどの男がこちらに突進してきたが、体勢を低くして交わす、怒りで前が見えていないのだろう行動は読みやすい、小さな体を使い交わしながら、相手の力を利用し組み伏せる。



するともう一人の男が襲いかかってきた、体勢を立て直し、反撃しようと構えたが、先ほど痛めてのか、足に鋭い痛みが走った。なんとか攻撃は避けれたが、このままだとまずい。完治した矢先に怪我をしてしまうとは…。



「おい、小僧、もう一人のガキはどこいった」

「知らない、どうせ逃げたんだろ」

「ふん、どうだかな、さっきからお前の動き可笑しいの気づいてるか?」

「気のせいだろ」

「その後ろのロッカーにはなにがいるんだろうな」



狙い通りだ。今は少しでも時間を稼ぐんだ。例え俺が死んでもあの子は絶対に逃す。



「なにもねえよ、それよりおっさんお前はなにもしないのか?」

「勇ましいな、そんな余裕こいた態度もいつまで続くかな?」



ドクッ その瞬間全身の血が一気に沸騰したかの様に身体中を駆け巡る。目が回らない、思考がぼやける、なにも考えられない、腹が甘く疼いて堪らなくなる。気づいたら目の前の男に組み敷かれていた、その瞬間、全身の毛が逆立つのが分かった。



嫌悪、恐怖、侮蔑、憎悪、辛い、苦しい、気持ち悪い、色んな負の感情が頭に駆け巡る中、身体は目の前の雄を求める様に歓喜していた。まるで自分の身体が自身の物でない様な感覚。これがヒート、これがΩ、これが俺。昔のあの男の様に気色の悪いことをしてくるのか…そんなの絶対嫌だ。



「Ωの発情を誘発する薬だよ。どうやらお前はΩらしいからな、受け渡す前に念のため確かめたのさ」



そういって抑制剤を取り出し男が、ニヤリと下卑た笑いをする。俺の鞄の中を見たのか。差し違えても良い、必ず殺してやる、先ほど手に入れたナイフをポケットの中で握った。



「さて、おいそこのロッカーの中のガキも「バァァァァン!!!」



突如後ろの扉が勢い良く吹っ飛んでいった。



「「「は?」」」



男達が間抜けな声を出す。



「悠月さんに触るな、クソ野郎ども!!!」



次に見えたのは俺の上に覆い被さっていた男を勢い良く蹴り飛ばす、鬼の形相の椿。瞬間ギュッと強く包み込まれる感覚。視界の端に黒服と警察官達が突入してきて男達が捉えられていくのが見えた。


え?椿?椿…?なんでこんなとこ…来てくれたのか?でもどうやって…でもこんな姿見られたくなかった…頭の中に色んな疑問が浮かんだが、抱きしめられた途端に全てがどうでも良くなった。



「…っ!悠月さん、もしかしてっ」



一気に抱き上げられ扉から外に出た、空を見上げると太陽が登り始めたのか朝焼けが広がっていた。今触れているのは俺の運命の番(唯一)



さっきの男達とは違い心と身体、俺の全てが椿が良い、椿じゃなきゃ嫌だと叫んでいる。いつの間にこんなに好きになってしまったのか、きっと運命の番とか関係なく椿が好きなのだけは分かる。


もっとくっ付きたくて椿の胸に擦り寄る。頭がクラクラする。理性を溶かすような椿のフェロモン、腹の底が甘く深く疼き、たまらない気持ちになる。艶やかな唇が視界に入り自身のもので触れようとして人差し指で止められた。拒絶された…一気に思考がクリアになり、血の気が引いていく。



「今、貴方に触れてしまうと自分でも制御できません。どうかもう少しだけ待っていて下さい」



最後に見たのは冷や汗を垂らし、恍惚境とした表情で唇を噛み締め、必死に耐える椿だった。

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