誘拐された少女
次に目が覚めたのはどこかの倉庫だった。
部屋は埃っぽく薄暗い、壁際には木箱や麻袋が積み上がっている。隣には意識を失う前にみた少女、見た感じ暴行を加えられていなさそうで安心する。椅子に座らされ、両手は後ろ手に、両足はくるぶし辺りが縛られ口は猿轡をされているようだ。
「んっ」
頭に鈍い痛みが走る。あの時殴られたものだろう。流石に無鉄砲だったかと自身に落胆する。またやってしまった…怒ってるかな…でもあの時なんとしてでも助けないと二度と助からないと思ったのだ。こんな事態になってしまったが、ここから脱出できればなんてことない。椿に迷惑かけることになって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
グルリと部屋を見渡したが、ここに監視カメラは設置されていないようで安心する。本で読んでやったことは無いけど、やってみるか。
「んっ…ぐっ……っ」
なんとかいけるもんだな、縄抜け。
スマホを取り出そうとしてないことに気づく、 脱出に使えるアイテムになればと思ったが、おそらく荷物一式取られたか、途中の道で捨てられたのだろう。
腕にゴリっという感触があり、見ると袖の下に椿から貰った腕時計があった。表面が割れてしまい、秒針が動かなくなっており早速壊してしまったと悲しくなる。椿に悪いことをしてしまった。折角作ってくれたのに…壊れたら直してくれると言われたが、この状態から直すことは可能なのかと不安に思う。
傷をつけない様に袖のワイシャツの袖の下に入れたが、おそらく殴られた時に車の内壁にでもぶつけたのだろうか。
って今は脱出する方法を考えないと…
部屋にある扉に耳を当て外に人の気配がしないか確認する。近くに気配は感じないためドアノブをゆっくり捻るが鍵がかかっているのか扉が開かない。
こちらに鍵穴はないタイプのものなのでぶち破るしかないのだが、音をできるだけたてない様に扉に体当たりしたが、壊れそうにない。となると、後は誘拐犯が扉を開けて入って来たところを襲い逃げる方法になる。
誘拐犯はいつ戻ってくるかわからない。何にしてもまずは隣の少女を起こさなくてはいけない。おそらく12.13あたりだろうか?こんな状況で成人男性に起こされると叫び声をあげて誘拐犯が来ないとも限らない。大変申し訳ないのだが、猿轡と縄はそのままにして肩を揺らした。
「…ん?…っ?!!!?」
「起きてくれて良かった。大丈夫?痛いところはない?」
「んっん…」
叫び出すと思ったのだが、意外にも冷静に反応を返された。状況を確認する様に少女は辺りを見渡していた。
「そう良かった。情けないことに俺も捕まった側なんだけど、一緒にここから逃げるために静かにできる?」
「んっ」
「ありがとう。そしたら手足の縄と口にあるものとるね」
「んっ…ぐっ、いたっ」
先に猿轡を取り次に縄を外したのだが、かなり食い込んでいるのか少し痛そうだ。なるべく早く痛みが出ない様に先ほどと同じく外していく。
「よし、取れたよ。痛かったよね、でもよく頑張った。」
「…うん」
「俺の名前は悠月、君の名前は?」
「…小春」
「いい名前だね。」
「…ありがと」
少し複雑な環境にいるのか、服は少し汚れており先ほど見えた服の下には打撲痕が見られた。
一瞬だったのでいつ付けられたものなのかは分からなかったが、家庭内でつけられたものなのか、学校でのものなのか、今、踏み込むことではないので、逃げられた時はどうにかしてあげれたらとは思う。
だからだろうか、こんな状況なのに叫び出さない少女を見て複雑な気持ちになる。しかし、妙に冷静なこの子なら上手く欺けるかもしれない。
「怖がらせて悪いけど結論から言うね。今俺たちは何者かに誘拐をされここにいる。まずはこの部屋から出ないといけない。それは理解できそう?」
「はい」
「この部屋にはあの扉以外から出られそうな場所はない。でも扉は鍵がかかっていてぶち破ろうにもびくともしなかった。だから、犯人がこの部屋に入って来たところを逆に襲いかかり捉えようと思う。その手伝いをして欲しいんだ。心配しないで君は座っているだけで大丈夫だよ」
何人この部屋に入ってくるかはわからないし、そいつが武器を持っていたら更に危ない状況になるのは十分理解しているが、なにもやらなければここから出られない。
子供の頃誘拐された事がきっかけで非力な俺でもできる護身術はできる様にした。なんとかするしかない。自身に仕立てあげた麻袋に布をかけたところで、何人か足音が聞こえた。音からして二人の様だ。小春ちゃんに合図を出し、扉の裏に隠れ誘拐犯達が開けるのを待つ。
解錠され扉が開いた。男が扉を通り過ぎた所で一気に飛び交った。麻袋を被せよろめいた所に背中に思い切り蹴り体当たりする。
「ぐっ…おまっ起きて!くそっ」
一瞬怯んだが、麻袋を外しこちらを睨んできた。ナイフを持って襲いかかって来た所を体を傾け、左手首で相手の右手首を押し込み軌道を逸らし、さらに体重を乗せ相手の腕を掴み思い切り顎を殴り、怯んだ隙に左腕を外側に捻りあげナイフを叩き落とす。
再度殴りかかってくるところを即座にしゃがみながら交わし、浮いた方の足を払いのけてバラ寸を崩した相手の体に乗り掛かり鳩尾を思い切り殴った。幸いそこまで鍛え上げていないのか鳩尾に拳が入った。さらに下から顎に目掛けてアッパーをかけると漸く動かなくなった。
のぼせた男を見てなんとかいったと心底安心した。
もう少し待っていてと少女にジェスチャーをし、念のため俺たちが縛られていたロープを取り男の手足を縛り上げる。今度は簡単には外れないやり方で。落ちているナイフを拾い上げ、折りたたみ、上着のポケットに入れ男の所持品を漁る。使えそうな物をいくつか取り上げた。
「よし、終わったよ。小春ちゃん、怖かったのによく、声を上げなかったね。えらいよ」
「お兄さん強いんだね」
「そうだよ!小春ちゃんに何があっても絶対に守り抜いてここから逃がしてあげるからね」
「…うん、うん」
小春ちゃんの涙に湿った目元をポケットから出したハンカチで拭う。
「早速で悪いんだけど、逃げるよ。歩けそう?」
「なんとか」
「そう。じゃ行こうか、逸れない様に手を繋いでもいい?」
手を差し出したが、触られるのか怖いのか避けられてしまった。そりゃまだ信用できないよな。
「それなら俺の服なら掴める?」
「…」コクッ
ギュッと掴んだのを確認して部屋から出た。




