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ひったくり

うっそでしょ、初めて見たよこんなん、と思考しながら目の前の犯人を追いかける。


犯人が乗る自転車と徐々に距離を詰めていくと、こちら気づいたようだ。突然進路を変え右折していった。即座に方向を変え追いかける、すると犯人はこちらを警戒しているのかチラチラ見てくる。


だからだろうか、目の前のゴミの山に気づかず突っ込んでいった。ゴミは当たり周辺に散らばっていったが幸いなことに犯人に大きな怪我は見られなかった。どうやら気絶したらしい良かった…擦り傷だけか、考えていると、椿が追いついてきた。こいつ早いな!



「悠月さん!無事ですか!?」



と全速力で追いかけて来たのか、息を切らせながら俺の肩を掴み体に怪我がないか確かめる。



「いやこいつが自爆しただけだから大丈夫。」


やっと犯人に意識が向いたのか目が大きく見開かれていた。



「なっなななっなんでこんな事になるんですか?」「よそ見して突っ込んで行きました。俺は何もしていません」



なんとなく怒られるのだと思い敬語になる。



「はぁ…後先考えずに突っ走るのはやめて下さい。今回はうまく行ったものの、いつも成功するとは限りません。」

「だって…あの時追いかけないと…」

「そういう時は僕を頼って下さい、それにほら」



と指差す先には警官が2人おり、犯人に手錠をかけていた。


「え、いつから」

「最初からです。この近くを巡回していたみたいなので、本職の方に任せれば良いと思っていたら、いきなり悠月さんが飛び出していくから…」

「え…それじゃ」

「無意味という訳じゃありませんが、最悪悠月さんが大怪我をしていた可能性もあります」

「うっごめん…」

「でも、悠月さんが無事で本当に良かった」



そういって俺に抱きしめてきた。俺より長身の椿に抱きしめられるとすっぽり収まる感じがして、落ち着かない。



「あの…すみません、お話お聞きしてよろしいでしょうか?」

「えっ?なんの!?」


パッと椿から離れ、警察官に向きなおる。


「落ち着いてください。事情聴取でしょう。はい、勿論構いません」

「そっそっちね!」

「他にないでしょう…」


どこか呆れたように言ってきた。


事情聴取を終えると空は夕焼け色になっており、道通りはイルミネーションが灯り始めていた。



「荷物取られた女の人喜んでたな!」

「えぇ、ご主人へのクリスマスプレゼントが入っていたみたいですね」

「持ち主に戻って嬉しいよ」

「でも、警察の方には怒られてしまいましたね」

「うっ今度から自重します」

「そろそろ夕食にしますか」



そう言って、椿は近くを通ったタクシーをとめた。ついたのはお高そうな日本料理のお店。流石に慄いた。



「え?なにここ?高いんじゃない?大丈夫?ドレスコードとかいる?」

「大丈夫ですよ。家族でたまにきますので。それに服装は今着ているもので問題ありません」



大慌ての俺がツボに入ったのか少し笑われてしまった。くっそーなんか悔しい。

スタッフに個室へ案内され、声をかけられる。



「そちらのコート脱がれますか?」

「それじゃ、脱ごうかな」



脱いだ途端、流れる動作でコートを椿に取られ一瞬時が止まる。俺のコートと椿のトレンチコートをハンガーにかけ、ラックにかけ再度こちらを向いた。



「どうぞそちらにお座りください」

「あ、うん」



用意してある座椅子に座りあたりを見渡す。まじでいくらなんだこの部屋…チャージ代とかあるもんなの?初めて入るからわからない…そんなことを考えているとスタッフが入ってきて、次々と料理を並べていく。無駄のない動きで並べると、直ぐに襖を開け、退出していった。

すげー、プロだぁ…そんな感想しか出なかった。



「さぁ、食事にしましょう」

「あ、うん」



目の前に広がるいかにもな食事にごくりと生唾を飲む恐る恐る口に入れると食べたことのない様な滑らかな舌触りに驚く。あまりのおいしさに全身の毛が逆立つ

目の前を見ると椿が愛おしそうにこちらを見ていた。恥ずかしくなって視線を食事に戻し、どんどん食べていく。それから食事に舌鼓をうちながら、椿と他愛のない話をした。幸せホルモンがドバドバ出ていたと思う。



「今日は本当に楽しかったありがとう。それにしても今日のプラン全部俺の好みドンピシャだったんだけど俺の好きな場所にしてくれたのか?」

「喜んでいただけたなら幸いです。まだ途中でしたが、おそらく好みに合うのではないかと思いお誘いしました」

「好きが凝縮された1日になったよ!最高だった!残りのプランもまわれたら良かったけど、今日は椿と過ごせて本当に楽しかった!」

「何よりです。あ、そうでした僕からのプレゼントも受け取っていただければ…」



そう言って椿は手提げの小さな袋を渡してきた



「これは?」

「開けてみてください」



中から出てきたのは上質そうな箱、恐る恐る開けると中に入っていたのは一目でわかるほど上級品。背筋が凍り即座に蓋を閉めた



「あの椿さん?これはなんですか?」

「時計ですが?」

「見ればわかります。じゃなくてなんでこんな高そうなもの…」

「高級品ではありませんが…」



んー、プレゼントで台無しになっていることに果たして気づいているのだろうか?隠したいのは分かるが、隠せていない。俺に合わせて庶民的なプランを練ってくれたんだろうけどやっぱり、良いとこの坊ちゃん感…出てるんだよな…。


今日の服も全体的にシンプルだけど上質なものだとわかるものだし、映画館はなぜか新宿にある一人6000代の席、昼間入ったレストランも目の前で魚を捌いていたし、猫カフェもお高めの場所、どおりで俺が入ったことないわけだ。


クリスマスだからってこんな金がかかるところに来るのか?庶民の俺にはわからない。初めて会った時なんかビニール袋で過呼吸抑えようとしていたし…庶民の知識偏ってない?一体どんな友人に聞いたのか今度是非聞き出したい。さぞかし興味深い人なのだろう。



「それにほらこれ猫が入ってるんです、悠月さん好きそうだなって」

「うっ…確かに可愛い…」



渡された腕時計にはワンポイントで猫の絵が入っておりとても俺好みのものとなっている。悔しいがめちゃくちゃ嬉しい



「すっごく嬉しい、でもこれ高かっただろ…」



プレゼントの値段を聞くのはあまりにも不躾だとは理解しているが、怖いので先に聞いた



「いえ、これは僕が作りましたから」

「え?は?作ったの?これ?まじで?」

「知り合いに専門の職人がいまして手伝ってもらいましたが、なんとか形になって良かったです。悠月さん前の時計を壊してしまったって聞いたので」



確かに屋上から落ちて時計を壊してしまったけどそんな事話したっけ?と首を傾げると



「悠月さんのご友人にお聞きしました」

「ああなるほどね!いやいやいやそれでもかなり大変だったでしょ?初めてだよ。手作りの時計なんて」

「気に入って貰えたようで安心いたしました」

「うん、気に入ったよ。一目惚れだよ。」

「ではお手を失礼いたします」

「え?う…うん?」



スッとテーブルを挟んだ席から隣に来て手を差し出されたその上に掌を乗せると先ほどの時計をあまりに自然な動きで付けられた。は…はええ…



「つけ心地はいかがですか?」

「うん…最高だよ」



正直前の時計との違いはわからないが、つけ心地は良い。目の前の椿が期待に満ちた瞳でこちらを覗く。くっそ可愛いやつだな



「ありがとう。一生大切にする」

「はい、もし故障したら僕が修理しますのでその時は教えてください」

「もしかして将来時計職人?とかになるの?」

「いいえ、今回偶々作って見ただけなので、これが最初で最後になるかと思います」

「ひえーすげーわ椿が俺だけのためにデザインから頑張って作ってくれたと思うとさらに愛しくなるよ。本当にありがとう」

「…っ///」



世界で唯一俺のためだけに作ってくれた贈り物。ずっと大切にしよう


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