第四話「カプセルGO、価格の壁を越えろ」
鈴木は、かつての営業時代の同僚・田村と、神奈川の某自販機メーカーの技術センターで再会する。 「清涼飲料水の筐体じゃ無理だよ。あれは缶やペットボトルを重力で落とすだけ。カプセルは詰まるし、サイズも不安定」 田村は図面を見せながら続ける。
「でも、物販用の汎用型ならいける。トレイ式で、搬出も制御できる。12種類までセット可能だ」
鈴木は思わず口元が緩む。 「屋外でカプセルトイが買える…これだ。名前は…“カプセルGO”だな」
数日後、鈴木は三浦社長の事務所を訪れる。 資料を広げながら語る。
「12種類対応、屋外設置可能、IoT連携も。今までのガチャとは違う“体験型”です」
三浦は資料を黙って見つめる。 「…で、価格は?」
「1台100万です」
三浦の眉がピクリと動く。 「最近のガチャ筐体は、2種類販売で6万。価格差が…16倍以上ですね」
「確かに高い。でも、屋外設置で通行量を狙える。販売本数のポテンシャルは桁違いです」
三浦は腕を組み、静かに言う。 「収納本数は?人気商品がすぐ売り切れると、設置者は不安になりますよ」
「1種類あたり約10個。12種類で120個。補充頻度は上がりますが、回転率は高くなるはずです」
三浦は資料を閉じた。
「…正直、価格が重すぎる。実績がない限り、購入は難しいですね」
鈴木は某自販機メーカーの営業部に連絡を入れ、価格交渉に乗り出す。
某自販機メーカー営業部の応接室。 鈴木は、資料を広げながら懸命に語る。
「この筐体、価格をもう少し抑えられませんか。導入の壁が高すぎるんです。まずは実績を作りたい」
営業担当の佐藤は、資料に目を落としたまま、しばらく沈黙していた。 やがて、静かに口を開く。
「正直、社内でも議論になっています。物販自販機の新用途としては面白い。屋外でカプセルトイを売るという発想は、確かに新しい」
鈴木の表情に希望が灯る。
「ただ…」 佐藤は言葉を選びながら続けた。
「価格を下げるには、“共同プロジェクト”としての位置づけが必要です。つまり、御社が販売実績を保証できるなら、社内稟議は通しやすくなります」
鈴木は深くうなずいた。 「つまり、まず“売れる証拠”を作れってことですね」
しかし佐藤は、そこで一歩踏み込んだ。
「…鈴木さん、失礼を承知で言いますが、御社はまだ個人事業主ですよね。法人格もなく、資本金も少額。社内的には“信用リスク”が大きいんです」
鈴木は言葉を失った。 その通りだった。法人化もまだ、資金調達もこれから。実績もゼロ。 「…ええ、仰る通りです。でも、だからこそ“最初の一台”が必要なんです」
佐藤は少し柔らかい表情になった。 「気持ちは分かります。ただ、我々も社内で稟議を通すには、最低限の“保証”が必要です。例えば、設置先が確定しているとか、販売予測が具体的に出ているとか…」
鈴木は小さく息を吐いた。 「設置先は、今交渉中です。三浦社長が興味を持ってくれていて、売上が見込めれば購入の意思もあると。ただ、現時点では“仮”です」
佐藤は頷いた。 「では、まずはその“仮”を“確定”に変えることですね。三浦社長の協力を得て、実証実験を組めるなら、我々も“協力の余地”はあります」
鈴木は立ち上がり、深く頭を下げた。
「必ず、売れる証拠を作ります。三浦社長にも、もう一度掛け合います」
佐藤は微笑みながら言った。 「その覚悟、嫌いじゃないですよ。お待ちしています」