第02話 追放ものって大体が理不尽だよね
「はい、魔王様。では、問題です」
と、レヴィ様より問題が提示されます。
「聖アルフォード学園に、我々魔物が人間に化け入ると、どうなるでしょう?」
「うんと……変身魔法が解ける」
「正解です。学園内部から発動し、学園全体を覆う加護によって、強制的に魔法効果が無効化されます。正確には露わにされる。真実を映し出す」
「ん、やっぱ……俺なら問題なく通ることができるってことじゃ?」
「だから通れないって言ってるでしょうがこのゲロ! 学園へ至る道は一か所。アルス大聖門と名付けられた厳重な警備の先です。そして、生徒から教師に至るまで、全ての関係者には赤に染まる制服の着用が義務付けられています。はい問題。それはなぜでしょう?」
「それぞれを判別するために、あれだあれ……色をどうこうしてるってやつだ」
「不正解。いいですか、アルス大聖門を通過できるのは聖アルフォード学園が支給する制服を着用している者だけです。それ以外は外敵として即座に警報が鳴り響きます。つまり入構証は制服そのものってことです。そして、その制服は見た目が同じでもその中身が個々人で違います。端的に言うと血をもって着こなすというわけです」
「そうそう。それだ。だから制服を奪ってそれを着たり、似せて作ってもダメなんだよな?」
「着用する者の血を吸い制服はその者を認識します。他者がその制服を着ると血の拒絶が始まり制服はその者を絞め殺します。聖アルフォード学園の制服はある意味で呪いの服ですよ。血を捧げて自らを証明する、いやはや我々魔物より悪魔じみたセキュリティーです。はい、ではここで最終問題。つまり、聖アルフォード学園へ入るには?」
「制服を着ることさえできれば、自由自在に出入りができる!」
「エクセレント! よって魔王様が潜入するために行うこと、それは――」
ゴクリ。ボクは固唾を呑みます。
魔王様も手をワキワキさせて緊張されてるご様子です。
さてレヴィ様、魔界の知将と謳われる貴方様は、制服を着用するために一体どのような抜け道をご用意しているのでしょうか。
そんなボクと魔王様の期待を――
「魔王様が勇者候補生として聖アルフォード学園に入学する!」
木っ端微塵に打ち砕いてくれました。
「は!?」
お口あんぐりの魔王様。はい。心中お察しします。
「聖アルフォード学園へ潜入するんですよね? その決意は固いんですよね? だったらもう入学しかないじゃないですか。運命というなら正に今が運命的に入学の時期ですし。こんなこともあろうかと吾輩もある程度の準備はしておきました」
「入学って、いや、俺は学校ってのが……そもそも好きじゃ」
「いやー良かったじゃないですか。大好きなお勉強が存分に出来ますよ。はい、こちらが手続き書類でございます」
流石はレヴィ様、既に準備万全でした。
テキパキと書類やら筆記用具やら、あとはボクの魔水で作り上げたおやつを次々にリュックに詰め込みます。
パンパンに膨らんだリュックをポンと叩き、ニッコリ笑顔で……笑顔を……歪ませ、
「では、いってらっしゃ、あ、おいコラ今さら抵抗するな! さっきまでの威勢はどうした! ほらっ、さっさといって滅茶苦茶にしてこい!」
尻込みする魔王様を無理やり押し出すのでした。
「だ、だって入学とか聞いてない! せ、せめてアドバイス! アドバイスだけください!」
「あー、でしたら。忠告はひとつだけ。バレないようにお気をつけください。いいですか、あなたの正体がバレると、学園は総力を挙げて魔王討伐を始めることになります」
「た、助けには来てくれるんだよな? な、なあ?」
「制服を着用したところで我々は魔族。加護によりその正体を明かされるため学園内部に同行はできませんが、学園のある王都メルクリスには、人に姿を変えた魔守護狼隊を滞在させます」
おお~、これは鬼に金棒です! 魔王直属の親衛隊じゃないですか。
しかし、レヴィ様は笑みを浮かべることなく忠告します。
「連絡手段のみならず、魔王様に万が一の事態が起きた場合は学園を襲撃する手はずです。但し、あくまでも魔王様を逃がすための陽動。聖アルフォード学園を力で制圧するほどの戦力を王都に隠し入れることはできませんのであしからず」
「わ、わかった……バレないように勇者候補生を演じろってわけだな」
「あ、それともう一つ! 聖アルフォード学園は三年制となっています。よって三年以内になんとかしてくださいね。いやまあ魔王様なら一年で十分ですかね? クックック」
軽く言ってのけるレヴィ様とは対照的に、魔王様は口を結び足取りは重く、なかなか前に踏み出せずにいます。それはそうですよね。だって、そこはいくら魔王様といえども、お一人で壊滅させることも叶わない敵陣ど真ん中なんですから。
だからこそボクは畏れ多くも魔王様に声をおかけします。
「ま、魔王様~、がんばってください~! 絶対に魔王様ならやれます!」
ふんす。こんなボクでも背中を押すことぐらいはできるのです。
「フハハハハッ! ……確か前魔王はこうやって笑ってたよな」
そう言って、魔王様は再び笑い、プルンとしたボクの頭を撫でます。
「フハハハッ! スララン、当り前だ、俺様を誰だと思ってる! 魔王様だぞ?」
「は、はい! ボクも魔王様の大好きなおやつを定期的にお届けします! とろーりプルルンケーキなんていかがでしょうか?」
「ああ、でもケーキは冷蔵庫に入ってるから、違うものを頼む」
「ど、どういうことでしょうか……?」
「俺がここに召喚された日は十六歳の誕生日だったんだよ。冷蔵庫を開けた瞬間に飛ばされたもんだから、帰ってからのお楽しみってことだ!」
その意味はわかりませんが、それがとっても大事なことは、ボクにだってわかるのです。
「おし! んじゃ、ちゃちゃっと片付けてくる!」
魔王様は満面の笑みで、一歩を踏み出すのでした。
「魔王様~! いってらっしゃいませ~!」
ボクはそのお姿が見えなくなるまで、エールを送り続け。
それに答えるかのように、魔王様は右手を突き上げ。
そして、大きなため息と共にレヴィ様の口角は、微かに上向くのでした。