飛ばした紙飛行機の行方
王都公園を訪れている人々の表情は、隣国との戦争が終わってから一ヶ月も経っていないということを 感じさせない。
その中でもイベントのために貸し切られた公園の一角にいる人たちは上級貴族の八組の親子。今も戦争中も戦争前と変わらない生活をしていたのであろう。
南の砦を守っていた辺境伯の領地は兵が侵入し争いの場となったが、それは最初の頃だけ。大半は隣国内での戦いとなっていたので実感がないのだろう。
だから親子でイベントに参加できるのだ。
「では、これから作りますのは、五百年前に召喚された勇者が作ったと言われる物です。まず私が作ります。その後みなさんに作っていただきますね」
僕が子どもたちが集め机に向かって紙を折り始めると、覗き込んでくる。それを親たちは微笑ましく見ている。
僕の作業をワクワクした顔で見ている子どもたちを見ていると、隣国の同じ年頃の子どもは大勢亡くなっているのにと恨みがましい気持ちになってくる。
僕は出来上がった物を皆に見せる。
「これは勇者のいた元の世界で作られていた『紙飛行機』という物です。ではこれを飛ばしてみましょう」
ゆっくり投げてそれに合わせて風魔法を送る。風に乗って離れたところまで飛び、ゆっくり落ちていく。
子どもたちは初めて見る紙飛行機に大喜びだ。その親たちも勇者の遺物に驚いていた。
一人一人に好きな色の紙を選んでもらい、折っていく。
全員出来上がった頃を見計らって声をかける。
「みんなで飛ばしましょう」
子ども達が飛ばすと、一人一人の紙飛行機に合わせて僕が風魔法を使う。彼らは自分の作った紙飛行機が飛んでるのを見て大喜び。親も自分の子どものをみて満足そう。
「サプライズです。上を見てください」
みんなが飛んでいた紙飛行機から目を離し上を見ると、人が乗れそうなほど大きな紙飛行機が飛んでいる。子どもも親も上を見たまま声もない。
「うわっ!」
「きゃー!」
「痛い!」
叫び声が上がり、親たちは顔や首や腕を押さえている。
突然の親たちの叫び声に子ども達が騒ぎ出す。
「お父様!」
「お母様!」
親達はみんな倒れ、子ども達が声をかけてもゆすっても動かなくなっていた。
彼らの近くには先端が赤くにじんでいる紙飛行機が落ちていた。
僕は火魔法を使い全ての紙飛行機を燃やした。
「戦争が終わったからって油断しすぎじゃないですか。隣国出身の人間は昔からこの国の身分証を得て大勢働いているのですよ 」
身分を偽っている人間もいますよ。