置いてけぼりの太郎
ぼぉー
「おい」
ぼぉー
「おい!」
ぼぉー
「おぉいっつってんだろ!チビ!!」
「わっ?!」
ムイトに頭つかまれ宙に浮かしていた水を落とした
「お前が水を持ち上げたら村の女が洗濯できないだろうが」
「あ、ごめんなさい」
「ユイ」
マルクムが頭をおくように撫でた、コレけっこう好き
「大丈夫か?」
「うん、なにが?」
「亀が池の中で浮いているが」
ぷか~
「太郎君!?」
急いで太郎君を手元に取る。イヤァ、能力って便利だなぁ
「ユイさまが来てから暮らしが楽になったわね」
「マキも果物も森に入らずに取って来て下さるしな」
何でも屋みたいなあ・た・し
「お前は、こんな風に利用されてていいのかよ」
「え~?でもさ利用されてても人の役に立つっていいなって」
にこ、っと微笑めば何も言わなくなるムイト
ユイを利用することによって暮らしが楽だということには否定できないからだ。
ようするに自己嫌悪から逃れたいための確認だ
「……お前ってさ」
「ん?」
「いっつも笑ってるよな」
『まるでピエロみたいね』
「・・・・・・」
「あ、悪い……別に気持悪いとかじゃないぞ?気持悪いんじゃなくて変人だもんなお前」
「ねぇねぇそれってフォローなの?」
「事実だろ?」
何故そんな自信満々……しかも何故みんな頷く?
一緒に笑いながらうっすらと目を細める。
『まるでピエロみたいね』……それはもとの世界の、全く話したことも無い女子学級委員長に言われた何気ない一言だった。
「あら、まだいたの?」
「寝ちゃってたみたい、あはっはっはっはっは!」
学校の教室の夕焼けの綺麗な放課後に初めて会話をした。
本当は家に帰るのが億劫で寝ているふりをして時間を潰していたんだけど……。
「辛そうね」
どきっとした
知っているのかな?家のこと
「なにが?あ~首が痛いかもあはは」
「……違うわよ、はぁ、ねぇ?あなたって」
『まるでピエロみたいね』
「おい?」
「あ?」
首だけ横に向けるといぶかしそうな顔をしたムイトと面白そうに満開の笑顔を咲かせた子どもたちが、人の顔に興味津々で覗き込んできていた
「なにかな?」
「お前…………大丈夫か?」
「何が?」
「なにがって……」
ん?なんか胸元冷たいな……あれ?
「入水自殺でもする気か?」
気がついたら池の中
たらこの歌並みに不思議だなぁ
「いいからとっととあがって―――」
―――オイデ
「―――!!」
ばしゃっ波の波紋が大きく広がっていく
「む、ムイトがオイデっていったぁ?!キッザ」
「オイデなんていうかよ!こいっつったんだよ!馬鹿たれが!」
「ユイ、ほら」
二人が優しく手を伸ばした
あぁ、懐かしいな
「ありがと―――……ぃたっ!?」
―――オイデ、キコエテイルダロウ?オイデ……
ユイの体が白い光に包まれる。自身から発した光に溶けるようにその輝きはどんどん増していく。
「おい!」
「ゆい」
二人に手を掴まれた感覚がある。でもこの能力を抑えることができない……
なにかに……引っ張られる
「おかーさん」
子どもたちが池を指差す
「ユイ様居なくなっちゃった~」
残るのは波紋だけ……
「あ、でもほら」
残ったのは
「タロウ浮いてるよ?」
まさかの置いてけぼりの太郎であった……。