イチルと出会う
「いて、いたた!」
足!足踏んでますよ!?誰か知らないけど
べべの木がこんなに人でいっぱいになるのはめったに無いと思う。
「皆大丈夫かなぁ」
ミットガウンが劣勢なのだと、聞かなくたって分かる
「あぁーんぁうばうばう」
赤ちゃんが泣き出す。これだけ人にぶつかっていたら仕方ないか。何とか坂の上に上がれたが、オリのような門が進路の邪魔をしていた。
「なにこれ!?」
こんなのあったら通れないじゃん!
「入れろこのやろうー!」
「騎士がなんだ!国民のための騎士じゃないのかー!」
「助けてください!」
下町の市民は必至に声をかける。
門を押さえる兵士も苦々しい顔をしていた。
「あそこに見えるわ」
苦々しい顔をして市民を見つめる見知った顔があった
「ゼシル君!」
「ユイ!?」
心底驚いたような声を出してから、眉をひそめた
「何故ココに、その赤子は?貴女の子ですか」
「いつ産む暇あるのよ、違うに決まってるでしょ」
アタシそこまでハイスピードに生きてないし
「お願いみんなを入れてあげて!分かるでしょう?敵が来ているらしいの」
「無理です」
ゼシルはきっぱりとはっきりと容赦なく即答で断った。
こうゆう融通の利かないところに腹が立つ
「どうして!」
「タイミングを逃したのですよ!貴族のわがままで入れることを拒絶した時点で市民は苛立っている。いまさら中に入れたところで、苛立ちが収まるわけが……」
「入れないほうが苛立つに決まってるでしょう!馬鹿」
「ば!?」
騎士殿はショックを受けたらしく、言われた言葉を繰り返していた。まぁどうでもいい
「お願い、あたし達を……守って」
「……。すみません、混乱さなかココを空けるわけには行きません。ココから先には城もあるのです。我々はまず城守らなければならない」
ゼシルはそういって頭を下げた。
どうしようもない怒りが心の中をめぐりまわった。
「・・・・・・っゼシルの分からず屋!おたんこなす!!」
国民の苛立ちと恐怖は募りに募り、爆発寸前だった
「あけろよ!見殺しにする気か!」
「ふざけるなー!」
「散々人を見殺しにしてー!」
ずどどーん
「うわぁああああああああああ!!」
地震のように大地が揺れ動いた。
「敵だぁあああああああああ」
その声が響き市民の緊張がピークに達した
後ろの人構えの人を押し、前の人がぎゅうぎゅうに押し付けられる。
「う・・・・・っ!いった!うぐぐぐ」
赤ちゃんだけは守らなければ
「ユイ!」
「この子を……お願いゼシル」
力を使って門に穴を開けた。そこから赤ちゃんをくぐらせゼシルの腕に抱かせた。
「くぅ、う……駄目だ、苦しすぎて力が使えなっ」
使えたとしても、こんなに混乱していては何処に移動させても無駄なようだ……とにかく落ち着かせないと……オーヴェン力を貸して!
薄いシェルダーのような膜がユイから放たれ、人々の頭上をこえて囲んでいく、人々はソレにきがつき不思議な顔で眺めた。
(よし、押す力が緩んだ!)
力を使いユイは空を飛んだ。ソレを見た人々はおぉっと声を上げた。
敵を追い返せばなんとか落ち着くはず
戦車に乗った敵軍がべべの木の坂の前までやってくるのが見えた。
「べべの木に近寄らないで!」
戦車を動けないようにする、すると異変に気がつき戦車から降りた兵士がこちらを確認すると、住を発砲してきた。
「わわ!」
避けたのはいいものの、バランスを崩してべべの木の上に落ちた。なかなか落ちる速度をとめることができず、結局べべの木の根元にまで落ちた
「だらしないなあ~アタシ」
しかも今ので能力が途切れたらしく戦車がまた動き出した。
「やばいやばいやばい!」
ユイはまだ能力を自分のモノにできていないのであった。戦車の銃口がこちらにセットされた。うん、これは言われなくとも分かる。
ターゲットはアタシですね!?
「きゃああああああああ!!??」
変わるって決めたのに~~!!
「邪魔だ」
目の前にスレンダーな女性が立った。女性だがその短い髪に大きなゴーグルに咥えた煙草で男性のようなワイルドのイメージを持ってしまった。
「だ、だれ?」
声をかける頃には彼女はそこにはいなかった。
どっごぉおおおおおおおおおん
戦車が一つ潰れた。
炎だけが戦車を燃えあげさせる。
しゅと、
いつの間にか横に彼女は戻ってきていた。汚れ一つ全くついていない。
「はやっ……え?あのー」
煙草だけが轟轟と燃え、灰と化して口から零れ落ちた。
「ちっ煙草が……最後の一本だったのに」
悔しそうに声を出した彼女がやっと(たぶん)こちらを見た。
瞳は深いゴーグルの色に隠されていて、彼女の表情を汲み取るのは難しい。
「あんだよ?」
かっこいい女性のイメージから粗忽な女性のイメージに早や変わり。
「あの、誰?」
「ソレばっかだなお前」
じゃあ答えてくださいよ
「俺は『イチル』だ」
ソレが彼女とアタシの出会いだった……