太郎君と離別
いよいよ、水曜日になった。
「感じる」
オーヴェンの力の流れを掴むことができた。
大丈夫、いける
でも……
「……ごめんね」
太郎君の頬にそっと触れる
アタシは、新しいアタシになりたいから。過去のアタシの象徴である君は連れてはいけない。
寂しいけど、お別れね
「今日で太郎君とお別れ」
太郎君を思いっきり抱きしめる。
「ありがとう太郎君、大好きだよ」
愛しい人形を机の上に置きながらアタシは別れを告げた。
新しい世界へと、飛びだったのであった……
「っとぁっったったったた!?」
奇声をはなちながらユイはゴミ箱にお尻をはめた。否、はまった。
「……なっつかしぃー」
家と家の隙間から見える風景は今も昔も変わらない。前は夜で綺麗な月が見えていたが、今は朝だから月も見えない。とりあえずゴミから抜け出す
「うっわぁー、ミニズボンはいてくるんじゃンかったなぁー……生脚にバナナの皮が!」
体にくっついてきた生ゴミをほうり投げる。ゴミをのけながら家と家の隙間から身体を自由にさせた。
そして、唖然とした
「……っ」
酷いありさま
家はところどころ崩壊し、木々は薙ぎ払われ、人々は怪我人を運んだり戦へ向かったり……戦争シーンでよく見る風景だった。
「えぇ~ん!ひっくひっく、えぇーん~」
赤ちゃんが乱暴にそこに横たわっていた。
「よしよし!いいこいいこ」
ユイは動いた。本能的にこの子を一人にしてはいけない気がしたからだ。
泣きじゃくって答えないか弱いこの生命を抱き上げる。
「にげろぉー!敵だぁああああ!!」
その声が上がると村人は一目散に坂の上を上がっていった。
「え?ちょ、なに?!」
とってもカオス
いきなりの急展開に話がついていけない。分かることは逃げることか
「うん、逃げたほうが良さそうだ!逃げよう!」
でも何処に?!
「あぅあぅあぅ~」
ぐるぐるとあっちらコッチら進路方向を変えていると、泣いていた赤ちゃんも泣き止んで小さく「おえ」といった。
「あぁぁぁ!ごめんね!やめるからゲロらないでね」
背中をトントンと軽く叩く。
やれ、どうしようか
「へべの木まで逃げろー、あそこで騎士様が待機しているはずだから」
「待機!?騎士なら市民の安全を守るのが先じゃないの!?」
憤慨していると、せっかく泣き止んだ赤ちゃんがくずりだした。やっべ!
「よしよし、へべの木に行こう!ね」
そう微笑むと赤ちゃんが心なしか安心したように思えた。
この子の親、捜さないと……
到着早々、大変なことになったなとユイは走りながら考えた。
へべの木までなんとか辿りついたのは良かったが、人が多すぎて前に進まなくなった。どうやらへべの木の、さらに上を行けば貴族の町で……そこに避難するはずだったが、貴族の人たちが拒絶したらしく、話はややこしいほうに動いたらしい。
「あの、すいません。このコの親知りませんか?」
混乱する人の中でなんとか人を捕まえて赤ちゃんの親を探すが見つからない。
そのうちにまた赤ちゃんが泣き出した。
「おぉぅおうおうおう!?」
赤ちゃんの世話なんてしたことも見本を見たこともないから、何をしたらいいのか分からず困り果てる。
「なに!どったの!?おなかすいたの?困ったなぁ~母乳でないよ~」
ミルクビンだってもってないしね!
「すみません、あの」
赤ちゃんを抱いた若い女性の肩をつかんでこんなこというのは恥ずかしいけど、言うっきゃない!
「母乳ください!!」
えぇ、後悔しましたとも
でも母乳を貰って大満足した赤ちゃんなのでした。