怒りのズッキ
外装はまるでお城のように、中はシャンデリアがいくつもついていて、床はまるで宝石で作られたのかのように透き通った床、そして、美しさに比例したこの冷たさ……
「気持悪い」
なんだろう、この……二日酔いのような……胃液全部吐き出しそうだ
「すみません、むりやり呼び出してしまいました」
「?」
動かない体にむりやり鞭うって立てろうかとも思ったが、そんな気力も無く
何とか顔だけ上げた
「……だれ?」
まるでプリンス
薄い茶色の長髪をきっちりと後ろにくくり、服装はなにやら正装で威厳あるし、つねに悠然と笑顔で気品に溢れている……
しかし、一見優しそうに見えるその微笑の裏側が何故か恐ろしい
「ストネット=アルバージンといいます。久振りですね」
「はい?」
ひさしぶり?
「覚えていないのも無理は無い」
高そうな上等の靴が目の前で止まった。彼はしゃがみこむとユイの顎をつかんで持ち上げた。
(あ、さっきまでの体勢も辛かったのに顎持ち上げられたら息できないんですけど?)
「辛そうですね、貴方にその能力は重過ぎましたか?」
(いやいや、あんたの手ですから)
とりあえず離せよ
苦しそうに苦々しい顔をしていたユイを見て満足したのか、やっと手を離してくれた。でも、いきなり離すから顎うっちゃったじゃないか
なんかアタシ痛いばっかだなぁ
だれか休みくれ
「あ、そういえばあの二人」
一緒に来たはず
「蛮族ならそれ相当にふさわしいところに閉じ込めてありますよ」
「……あんた、嫌い」
傲慢で残酷な男
睨みあげるとおかしそうに笑った
「昔は好きとおっしゃってくれたのに、女というものは本当心変わりしますね」
「男は本当女心分からないんだね……むかつく。能力さえ使えたら」
「くくく、貴方は自分の状況を理解していないようですね」
攻撃したいけど能力に力が入らない。ここに来てから体調がオカシイ。そういう場所なのかもしれない……なんということでしょう。なぐりたいなぐりたいなぐりたい
こいつ嫌い!
「ココで私に何かすれば、騎士が貴方をころ―――」
「うりゃああああああ!!」
必殺、えびぞりずっきアタァァ――――ック!!!
ごっっっっつん!!!
おう!?意外と顎硬いなコイツ!
「痛っ~~~~!?」
「それは、コッチのセリフですよ!?」
顎を押さえながら涙目でそう睨まれてもなぁ
イケメンってどんな顔してもまともだからいいよねぇ、アタシきっと今酷い顔してるよ……ア、痛すぎて涙でできた
じゅるり
あ、鼻水だった
「導師!?大丈夫ですか!?」
ゼシルと同じ格好をした人たちがわらわらと別室から現れた。
ふはは、アリのようだ
「この女め」
剣を抜く
やべ、ご臨終?
「お待ちください」
「邪魔をするか!?」
目の前に現れたのは、ゼシル君。
「毒婦を殺せるのはそれ相当の聖なるお方でなくては、我らが手をかければ穢れ死んでしまいます」
「あたしは穢れかーい」
「導師様、これを殺すのはその聖なる者がそろってからのほうがよろしいと思いませんか」
「無視かーい」
顎を押さえたままの導師は微笑んだ、そのポーズはカッコよくないね、いい様だ
「しかしゼシルヴァン、聖なる騎士は今は戦場に居て、戻ることはできない。彼が戻るまでに誰が漆黒の毒婦を見張ると?」
「聖女殿です、聖女エイル=ブリュンダル」
その場がシィンっとなった。
「誰?」
「彼女なら度胸も志もあります。まさに適任かと」
「あ、また無視」
導師が考えるようなしぐさを見せた後、首を横にフッタ。
「彼女は気性が荒すぎる、そしてわがままだ」
みんなで頷いた。よほどなんだなぁ
「押し付けたところで彼女が承諾するとは思えませんが」
「きっと、承諾すると思います」
「導師、そういえばゼシルヴァンと聖女は昔なじみだと聞きました。信用してもよろしいかと」
中年の濃い赤茶の髪をオールバックに整えているダンディがそういうと、導師も頷いた。
「そうですね、ではそのように計らいなさい」
「はっっ!」
みんなが頭を下げる中一人見上げる
「ストネット……なんとか!」
「貴様導師の名を呼び捨てに!!」
「良い、アルバージンですが何か?」
「何故あたしを呼んだの?」
ふと、物寂しげな表情を一瞬だけ垣間見せた。
「?」
にっこりと微笑んだ。
「世界の破壊者をほっとくわけには行きませんから、では最後の死刑日に会いましょう」
それだけ言うと歩いていった。
昔あったって聞いてケド……うーん、全く記憶ないなぁ
「……ユイさん」
顔を上げるとゼシルと庇ってくれたダンディさんが居た。
「すみません」
「なにが?」
「世界のために貴方を助けるわけには行かないんだ、分かってください」
「いやいや、分かりたくないから、死にたくないからね?あたし」
くっ、て感じに顔を横に向けるなコラ、コッチ見ろ
「達者で!」
「いやいや、達者じゃないから!?死んじゃうからね!?おいコラ!泣き虫待てってばぁ!!」
あいつ、猿芝居して消えていきやがった。今度会ったらスト……なんとか導師みたいにずっきくらわせてやる。
「すまない、毒婦」
あ、まだいたのダンディ
「あれを変えたのは、俺かもしれん」
ん?何の話?
「分かってやってくれ」
いや、だから何を?
「それでは」
あ、言いたいことだけ言って歩いていきやがった、アタシドウすればいいのかな?
動けないんですけどねぇ?
「ねぇ、太郎く……」
ん?
「ああああああぁ――――――ぁあああああ!!!!」
太郎君忘れたァアアアアアアア―――――――!!!!!
いやぁああああああああああ!?
「太郎君――――!?」
やばい、死んじゃうよあたし?!
「太郎君カモォ―――ン!?」
神殿の中の信者たち
「あれはなんなんでしょうか?」
「さぁ?呪譜でも唱えているのでしょうか?」
「恐ろしい……」
勘違い
いろいろ勘違いされてもっと人に避けられているユイであった。
「昔むかし浦島は助けた亀に連れられて~」
そして壊れた
「ふふんふふふ、ふふふふ~」
そして歌詞がもうわからないらしい。
「亀欲しい」
最後に本音が出た。