第二話 始動
・グレッス「鬼札…?」
グレッスとメルダースが驚きの色を浮かべる・
・メルダース(そうか…。今回は鬼札が排出されていたのか…。)
・グレッス(これまで8度あった皇位継承戦争の中で鬼札が出たのは3回。かつての伝承をなぞるのだとしたら…)
・メルダース(鬼札が出現したとき、皇位継承戦争は必ず…)
・グレッス・メルダース(……荒れる。)
息を呑む群衆の前で、3名が対峙する。そのただ中でローザ・ブランデンブルクは事態に追いつけず、ただ困惑した。
・グレッス(もしも、此度の皇位継承戦争が混沌に帰すのであれば、早々に決着をつけなくてはならない。)
・メルダース「鬼札か。おそらくは前皇帝の者に追われていよう。盤面を乱す不穏分子としてな。お尋ね者が何故に表に姿を現した?」
・シュナイダー「その娘を獲られ、早々にこの戦争が終わってしまっては困るからな。」
・グレッス「戦争を長引かせようと?」
・シュナイダー「まぁ、そんなところだ。」
・グレッス「なぜそんなことを?」
・シュナイダー「今この場で、自らの思惑をあけすけに話すとでも?」
・メルダース「お前の思惑などどうでもいい。だが、お前が戦争の長期化を望むのであれば、俺がとる行動はただ一つ。」
突如、メルダースの足元から土埃が舞う。
・グレッス「しまった!」
・メルダース「先手必勝!今ここで勝たせてもらうぞ!」
メルダースは渦巻のように土煙を回せ、轟音とともに恐ろしい速さで進む。進む先はローザ・ブランデンブルク。
・ローザ「…ッ!?」
ローザは身じろぐ暇もなく、メルダースの肩に担ぎ上げられる。
・シュナイダー(あれは…?)
・メルダース「この女はもらい受けるぞ!」
メルダースはローザを担ぎながら、ここへ来た時と同じように、大きく跳躍し、その場を後にしようとする。
しかし、メルダースの眼下にグレッスの姿がない。
刹那、炎が迸り、メルダースの頭上を舞う。
・グレッス「この私が、そんなことを許すと思うか?六の王!」
グレッスの剣撃がメルダースを襲う。メルダースは片手でローザを担ぎながら、背に負う長剣でそれを防ぐ。
・メルダース「この俺が、何故お前に許しを請わねばならんのだ、一の王。我が覇道を阻むのであれば、ここで打ち倒さねばならんな。」
メルダースの長剣が空を斬る。再び炎が舞い、グレッスは姿を消してそれを躱す。メルダースの一撃は風を薙ぎ、地にひびを入れる。
グレッスとメルダースは互いに対峙しながら、横目にシュナイダーの様子を探る。シュナイダーは元の場所を一歩も動いていない。
二人は真っ向から斬り結ぶ。剣撃がぶつかり合い、炎が舞い、巻き起こる突風が群衆を襲う。
激しい攻防の中で、突如グレッスが気づく。
・グレッス(鬼札がいない!一瞬のうちに!)
その時、メルダースの頭部が背後から蹴り上げられる。
・メルダース「ッ!?」
衝撃で思わず、取りこぼしたローザの体をどこからともなく現れたシュナイダーが抱き留める。
・メルダース「てめぇ!」
・グレッス「待て!」
メルダースとグレッスの攻撃がシュナイダーに向かう。
すると、シュナイダーは何の前触れもなくフッと姿を消した。
・メルダース「なにッ!?」
・グレッス「今のは!?」
二人は手を止め周囲を見回しながら、忽然と姿を消したシュナイダーとローザの姿を探す。
・グレッス「どこにもいない…?」
・メルダース「気配も消えた!」
・グレッス(一瞬で姿を現し、そしてまた一瞬で姿を消した…)
・メルダース(高速で移動したのではない。確かに奴は姿を消して、別の場所に現れた。)
・グレッス(瞬間移動…?あれが奴の能力か…?)
グレッスは剣を収める。
・グレッス「目的を逸した以上、ここでお前と争う理由がない。」
メルダースも剣を背負いながら答える。
・メルダース「俺も、お前と遊ぶよりも消えた奴らを探さねばならんからな。」
メルダースは高々と跳躍し、グレッスは炎の柱と共に姿を消す。
シュナイダーはローザを抱き留めたままの姿で街の雑踏の中に姿を現した。
・シュナイダー「おっと、すまんね。」
シュナイダーはローザを降ろし、立たせながら声をかける。
・ローザ「あの…?トゥヘル…さん…?」
・シュナイダー「トゥヘルってのは偽名だ。俺の名はテオバルト・シュナイダー。なにぶんお尋ね者だったんでね、本名を名乗るわけにはいかなかったのさ。」
雰囲気も、物腰も、言葉遣いも、名前までも、彼女が知る3年前の彼のものとは全く異なり、ローザは困惑を隠せない。
・ローザ「えっと…シュ、シュナイダーさん?私には何がなんだか…まったく…」
・シュナイダー「悪いが、歩きながらでも?」
・ローザ「え?どちらへ?」
二人は雑踏の中を歩き始める。
・シュナイダー「一旦我々の拠点に来てもらおうか。詳しいことはそこで説明しよう。」
・ローザ「でも、私、帰らないと…」
・シュナイダー「あの場所に戻っても、あの二人か、あるいは騒ぎを聞きつけた他の候補王に誘拐されるだけだ。」
・ローザ「家に…家に帰らないといけません。」
・シュナイダー「君の生家もまた、連中の手の者に囲まれているだろう。見に行ってみるかい?」
・ローザ「そんなっ…!」
・シュナイダー「連中も君のご家族に手をかけたりはしないだろう、そこは安心していい。だが、しばらくは家には帰れないと思ってくれ。」
・ローザ「……。」
・シュナイダー「信用できないのも無理はない。では、兎も角、君の生家を一度見に行ってみよう。」
・ローザ「よろしいのですか?」
・シュナイダー「その前に、俺の仲間がいるところへ少し寄らせてくれ。そのあとで君を生家まで送り届けると約束しよう。」
ローザが小さく頷くと二人は連れ立って歩きだす。
・シュナイダー「まずは事情を説明しよう。とはいっても先ほど聞いた通りなのだが。」
「君は今回の皇位継承戦争における、授冠権者、つまり候補王の中から次期皇帝となる者を選び、帝冠を授けて戦争を終わらせる役目に選ばれたんだ。
先ほどの二人は6人いる候補王の一角だ。選帝侯ブランデンブルク家の女子から授冠権者が選出されるとふんでブランデンブルク領のこの街にたまたま来ていたのだろう。
そこで、皇帝の崩御と授冠権者に選ばれた君の名を知り、あの場所にすぐやって来たってところだろうな。」
・ローザ「なぜ私の名前と居場所がわかったのでしょう…?」
・シュナイダー「候補王たちは何人もの配下を抱えていることが多い。配下の中には偵察や諜報を得意とする魔術師もいるだろう。」
「おそらく選帝侯の家系に属する女子は傍流であろうと全て使い魔に張らせていたはずだ。あの二人は相当配下の数が多いとみえる。」
・ローザ「正直、事情をうかがってもまだ、事態を飲み込めません。これからどうしていいのか…?」
・シュナイダー「それは君次第だ。まずは俺と一緒に生家を見に行き、それからゆっくり考えればいいだろう。」
・ローザ「あの…あなたは一体…?」
ローザは一番聞きたかったことを尋ねた。
・シュナイダー「……それについては拠点に来てくれたら話そう。」
シュナイダーは古びた宿屋の前で足を止める。
・シュナイダー「着いたぞ。」
そういうとシュナイダーは扉を開き、中に入る。暗く埃っぽい玄関に出ると、台の奥から初老の男が顔を出す。
・シュナイダー「201だ。今帰った。」
シュナイダーが部屋の鍵を見せると男は「ごゆっくり」と言い奥に引っ込む。
広間を抜けて、軋む階段を上り、上ってすぐの部屋の戸を3度ゆっくりと叩く。
・シュナイダー「エマ。いるか?」
部屋の戸が少し開き、中から女性が顔を覗かせる。
シュナイダーの顔を確認すると、女性が戸を開き中へ二人と入れる。
・エマ「そちらは?」
エマがローザに目を向ける。シュナイダーが小声で答える。
・シュナイダー「授冠権者のローザ・ブランデンブルクさんだ。」
・エマ「それは…!なんとも…!」
彼女はローザを見て目を見開く。
・エマ「エマニュエル・ピックフォードです。お見知りおきを。私のことはエマとお呼びください。」
・シュナイダー「彼女は俺に協力してくれている魔術師だ。遠隔伝達を得意としている優秀なメッセージだ。」
・ローザ「魔術師…?いることは知っていましたが、初めて会いました…。ローザ・ブランデンブルクです。」
エマはシュナイダーに向き合うと声を潜めて尋ねる。
・エマ「それで、首尾はどうでしたか?」
・シュナイダー「候補王2名と接触。能力も大方ではあるが、把握できた。そして何より授冠権者と接触できたことが望外の収穫と言えるだろう。」
・エマ「それで、この後はどうするのですか?」
・シュナイダー「まずは本部に連絡し、ここは引き払おう。そろそろ足がつきそうだ。」
・エマ「…そうですね。貴族のご令嬢が入っていったとなると人目にもついたでしょうし。」
・シュナイダー「彼女の着替えを用意できるか?さすがにこの格好のまま動き回るのは目立ちすぎる。」
・エマ「すぐにご用意します。」
・シュナイダー「頼んだ。着替え次第、この娘を彼女の生家に連れていくことになっている。そのあとで本部に来てもらおう。ここを引き払ったら君は先に本部へ戻っていてくれ。」
・エマ「…わかりました。」
エマはローザに歩み寄る。
・エマ「お着替えをご用意いたしますので、ここで服を変えていただきます。」
・シュナイダー「俺は宿の裏で待っている。用意ができたら降りてきてくれ。」
そう言って、シュナイダーは部屋を後にした。
・エマ「火急のことですので、私の服で我慢なさってください。背恰好は似ていますし、着られないこともないでしょう。」
エマは箪笥から服を取り出しながら話しかける。
・エマ「突然のことで驚かれているでしょう?」
・ローザ「ええ…まぁ…」
エマはローザの着替えを手伝いながら、話を続ける。その表情はどこか暗いものがあった。
・エマ「私たちのことはお聞きに?」
・ローザ「いえ、まだ…。拠点?というところに行ったら話すと…。」
・エマ「そう…。そうね、人目につく場所で話すことはできないものね…。」
エマは少しの沈黙の後に、続ける。
・エマ「それでも、何も聞かされずに何もわからずに連れていかれる貴女の気持ちも考えないとね…。」
・ローザ「で、でも、シュナイダーさんは私のこと、助けてくれましたし…。それに、もともと顔見知りなんです。違う名前を名乗っていましたが…。」
・エマ「ローザ様、あの人のことをそんなに甘く考えてはいけませんよ。ごめんなさい、私の口から、あの人のこと、それに私たちのことを話すわけにはいきませんが、それでも私は貴女の人生を何も知らせずに縛るべきではないと考えています。」
・ローザ「……。」
ローザは言葉が出なかった。その後は黙々と着替えを続けた。
着替えが終わるころにエマはローザに向き合って言った。
・エマ「もしも、貴女が全てを聞き、貴女が私たちのもとを離れたいと思うのならば、しっかりとそうおっしゃってください。」
「あの人は、明確で強い目的を持っています。そして、そのためには手段を選ばずに冷酷になれる人。でも、何も知らない人の人生を踏みにじることを良しとする人ではないと、私は信じています。」
「だから、貴女は貴女の意志を強く示してくださいな。貴女は私たちに縛られるべきではないわ。」
・ローザ「え、ええ…。わかりましたわ。」
着替えを終え、二人は部屋を出て階段を降り、宿の外へ出る。
宿の脇の横道を入り、裏に回るとシュナイダーが待っていた。
・エマ「お待たせしました。」
・シュナイダー「よし、これで人目につくこともないだろう。」
・ローザ「どうでしょうか…?」少し恥じらうようにローザが訊く。
・シュナイダー「ぱっと見ただけでは貴族のご令嬢には見えない。普通の町娘にしか見えないよ。」
・ローザ「……。」
・シュナイダー「では、行こうか。君の生家はどこかな?」
・ローザ「…フォーレ村です。」
シュナイダーは顎に手を当て、記憶を巡らせる。
・シュナイダー「恐らくは行ったことがある。それならば、俺の能力ですぐにでも行けるだろう。」
・エマ「…それでは、お気を付けて。」
・シュナイダー「ああ、後ほど本部で。」
シュナイダーはローザに向き合う。
・シュナイダー「心の準備が良ければ出発しよう。俺のそばへ。」
ローザがおずおずとシュナイダーのもとに寄ると、彼はローザの腕をとる。
・シュナイダー「俺の身体に触れていることが能力発動の条件なんだ、すまないね。」
彼がそう言うとともに、再び前触れもなく二人は姿を消す。
一瞬のうちに、二人は長閑な農村の外れに立っていた。
・ローザ「ここは…!」
・シュナイダー「フォーレ村で間違いないかな?」
・ローザ「…ええ、本当に何がどうなっているの?先ほどもそうでしたが、一瞬でこんなに遠くに…?」
・シュナイダー「転移。それが、候補王の一角として俺に与えられた能力のひとつ。」
シュナイダーは周囲を見渡し、誰も見ている者がいないことを確認する。
・シュナイダー「…ひとまず目をつけられてはいないようだな。それでは君の生家に行ってみようか。案内を頼めるかな?」
・ローザ「…ええ、わかりました。こちらへ。」
ローザは見慣れた景色の中を進む。しかし、不思議と村人は誰一人見当たらない。
・ローザ「…誰もいない?どうしたのかしら。」
・シュナイダー「…待て。」
シュナイダーの声が緊張を孕む。
・シュナイダー「一度立ち止まろう。そこの木陰に。」
シュナイダーはローザを止め、立木の陰へと促す。
すると民家の陰から騎士が姿を現す。
・ローザ「あの騎士は?いったい…?」
・シュナイダー「…あの紋章、あの赤い意匠の甲冑、北東方面に展開しているルベウス騎士団だな。」
・ローザ「北東方面?そんな場所の騎士団がどうして私の村に…?」
・シュナイダー「さっきいたグレッスとかいう炎使いがいただろ?あいつの服にも同じ紋章があった。そして奴が着ていた礼服は騎士団の礼服。」
「ルベウス騎士団所縁の者だろう。それもかなり高位の騎士だ。ここにいる騎士は間違いなく奴の配下だ。」
・ローザ「もう私の家まで?あれからまだそう時も経っていないのに。」
・シュナイダー「偵察を得意とする配下がいるはずだと言ったろう?騎士団を動かせるとなれば動員できる人員も多い。それだけ迅速に手を打てる。」
シュナイダーは少し考えてからローザに尋ねる。
・シュナイダー「人目につく通りを避けて君の生家を遠くから確認できる場所はないか?」
・ローザ「一か所心当たりがあります。こちらです。」
二人は身を身を屈めながら、その場を後にし、村はずれの林の中へ入る。二人が身を隠していた木から一羽のカラスが飛び立つ。
足早に歩きながら、ローザが話す。
・ローザ「この林の奥はなだらかな丘になっているのです。その丘の木々の合間から私の家が見えます。」
・シュナイダー「貴族のご令嬢が、よくこんな林の奥のことをご存知だ。」
・ローザ「貴族とはいっても、片田舎の小領主にすぎませんわ。私は幼い頃からよく屋敷を出て、村の周りを歩き回ったものです。」
「林の奥では木苺が採れるのですよ。それを目当てによくこの林には来ていましたから。」
・シュナイダー「なるほどね。ご令嬢にしては歩き慣れているわけだ。」
・ローザ「着きわしたわ!ここです!」
ちょうど林の木々が途絶え、空が見えている場所。村が見渡せる小高い丘。村の中央にある屋敷が見える。
・ローザ「あれが、私の家です。…でも」
ローザが指さす先の屋敷は、先ほどの騎士と同じ装束の騎士複数に取り囲まれている。
・ローザ「…そんな…。父は…?ブレンダは…?」
・シュナイダー「ルベウス騎士団は名の知れた騎士団だ。理由もなくご家族や屋敷の者に手を出しはしないだろう。」
「ご家族を拘束しに来たのではなく、君の帰りを待っているんだろう。」
・ローザ「では、私が行けば!」
・シュナイダー「君は軟禁されてグレッスのもとに連れていかれるだろう。君は授冠権者。」
「君がグレッスを選べば奴の勝利が確定し、逆に他の者を選べば奴の敗北が確定する。
他の候補王の手の及ばない場所に君を置き、奴を選ぶように説得し続けるだろうな。」
・ローザ「…私はどうすれば?家の者が助かるのならば、私はそれでも…」
・シュナイダー「それは君次第。もしもグレッスを選びたければ、そうすればいい。」
「だが、同時に他の候補王も黙ってグレッスの好きにはさせておきはしない。君の身柄が奴の手に渡ったと知れば、奪いに来るか、あるいは…」
・ローザ「あるいは?」
・シュナイダー「他の者の手に渡るくらいなら殺してしまおうとする者もいるだろう。君が誰かを選びさえしなければ、王同士の戦いをすればいいだけ。」
「君を奪う過程で、この村が王同士の戦いの場となるかもしれない。」
・ローザ「では…?」
・シュナイダー「君が身を隠すことが、君自身のためにも、そしてご家族や村の民のためにもなると俺は思う。」
「俺たちの拠点に来てくれれば、君の身の安全は自信をもって保証する。」
・ローザ「でも、あなたも候補王なのでしょう?」
・シュナイダー「俺も候補王の端くれだが、俺は皇位を継ぐつもりはない。俺の目的は他にあるから。」
・ローザ「その目的って…?」
・シュナイダー「…それは、拠点に来てくれたら説明すると言っただろう。」
「兎に角、俺とともに来れば、身の安全は保証する。誰からも見つからない場所に君を匿える。無理に誰かを選ぶ必要もない。」
ローザは俯いて考え込む。
・シュナイダー「ずっといる必要もない。心が決まるまで、安全な場所でこれからのことを考えるといい。今の君には時間が必要だ。」
「この先のことを、自分の運命のことを、落ち着いてゆっくりと考える時間がね。その時間を俺たちは提供できる。」
・ローザ「…わかりました。ご一緒します。」
・シュナイダー「そうか。では急ごう。どうやら、長居をしすぎたようだ。時間がない。」
気が付くと、カラスが何羽も集まってきている。
・シュナイダー「魔術師の中には使い魔を使役して偵察をさせる者もいる。使い魔には、カラスやネズミ、コウモリなんかが多い。」
・ローザ「では、このカラスは…?」
・シュナイダー「おそらく、他の候補王の誰かに俺たちの位置が割れたようだ。幸い、俺の能力なら使い魔たちの追跡も及ばない。」
シュナイダーはローザを近くへ招き、再び彼女の腕をとる。
「待った。」
突如、林の中から声がする。
振り向くと見知らぬ男が姿を現した。
・シュナイダー「何者だ?いつからそこに?」
「ここに来たのはついさっき。君たちがこの林に入るのを見てね、後を付けさせてもらった。」
男は二人に歩み寄りながら、続ける。
「僕はエド・クランツ。まぁ候補王のひとりで、デュースの札を持っている。二の王ってやつかな。」
・シュナイダー「…何の用だ?」
クランツは両の手を上にあげ、手のひらをひらひらと動かす。
・クランツ「…まぁ、そんなに身構えないでよ。危害を加える気はないよ。せっかくだから、授冠の乙女と鬼札にお目通りしたいと思ってね。」
・シュナイダー「…目的はなんだ?」
・クランツ「目的ってほどのものはないよ、ただ挨拶したくてね。」
「初めまして。授冠の乙女、ローザ・ブランデンブルク。鬼札、テオバルト・シュナイダー。」
・シュナイダー「なぜここに来た?彼女の家族を捕らえに来たのか?」
・クランツ「まさか。僕は一の王に用があって来たんだ。彼がここを配下に張らせているのは知っていたからね。」
「ここで待っていればいずれは彼に会えるだろうと踏んでいたんだ。君たちのことは偶然見つけたに過ぎない。」
・シュナイダー「やはりあの騎士たちは一の王の配下か。」
・クランツ「その通り。ご家族のことは安心するといい。むしろ他の王が手出ししないよう、彼が護衛してくれるだろうさ。」
「ただし、ローザ嬢は早くここを離れた方がいい。君は今、混乱の火種だ。君がいる限り、周囲は必ず渦中に引き込まれる。
身を隠し、情勢が静まるのを待つといい。そして、身を隠すのなら彼の元がいいだろう。鬼札の庇護下が。」
・シュナイダー「お前も彼女を狙っている口じゃないのか?」
・クランツ「そこは君と同じだ。僕には僕の目的があり、僕には僕の計画がある。そして、そこに彼女は必要としていない。」
「とはいえ、他の王たちに奪われ、皇位継承が確定してしまうは困る。ならば、皇位継承の意志がない君の下に置いてもらいたいんだ。」
・シュナイダー「…ならば、そろそろ立ち去らせてもらおう。」
・クランツ「それがいい。一の王配下の者の使い魔が君たちを見つけている。そろそろ追手が来るだろう。呼び止めてすまなかったね。」
・シュナイダー「……。」
シュナイダーは警戒の色をその顔に浮かべたまま、ローザと共に姿を消した。
一人残されたクランツは呟く。
・クランツ「……あれが鬼札の能力か。空間転移か?能力発動の隙も予兆もない。実に便利なものだな。」
転移が終わり、二人はどこからともなく姿を現す。
・ローザ「ここは?」
・シュナイダー「無事に着いた。ここが我々の拠点の中心。」
見ると、古く大きな屋敷の広間だった。
・シュナイダー「ようこそ。モノパティ山、シミティスの館へ。」
―――つづく。




