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人命弾工場

 敵宇宙軍艦にダメージを与えられるのは人命弾だけ……。

 人間を砲弾に変えるのは、地球人類種の保存のためにはやむを得ない選択なのだ。

 敵ケイ素人類と戦う唯一にして無二の手段。

 そう心に言い聞かせて、モモ・ヤマグチは人命弾工場で働いている。

 だが、恋人トモ・ミウラのもとに召集令状が届いて、ついにモモは泣いた。

 トモを自分の目の前で人命弾に変えなくてはならないなんて、そんなのあんまりだ……。


 モモは人命弾工場のブラックボックス室で勤務している。

 人間を砲弾に変える最終工程がそこで行われる。


 トモがドアを開け、ブラックボックス室に入ってきた。

「きみに看取ってもらえるとは、僕は本当にしあわせだ。地球人類のために、喜んで砲弾になるよ」

「トモ、死なないで。逃げて……!」

「それは敵前逃亡同然の行為だ。そんな卑怯な真似はできないよ。僕を卑怯者にしないでくれ、モモ」

「うう……トモ……」

 モモは泣き崩れた。

 トモは澄み切った瞳をブラックボックスに向けていた。ブラックボックスには口と尻がついている。

「大地球帝国のために、僕は命を捧げる」


 モモは覚悟を決め、仕事をした。

「あなたの尊い命は、皇帝のため、そして、敵ケイ素人類から地球人類を守るために使われます。あなたの魂に幸あらんことを。天国で会いましょう。さあ、ブラックボックスの中へお入りください」

「先に行っているよ、モモ」

「うわーん、いやだああ、トモぉ!」

 モモは号泣した。

 トモはブラックボックスの口からその中へ入った。


 バキッ、ボキッ、ゴキゴキ、ガゴン、バキュモニュ。

「ぎゃああああ、痛い痛い痛い。やっぱりだめだ、こんな痛みには耐えられない。助けてくれーっ、モモ!」

 モモにトモの悲鳴が聞こえる。

 だが、いったんブラックボックスに入った人間を救う手段は存在しない。

 モモにできることは泣くことと祈ることだけだった。


 ゴボッ、ドギュゴキュ、ギリギリギリ、グチャッ。

「ひいいいいっ、いつまでつづくんだ、この痛みと苦しみは! 早く僕を殺してくれえ! ぐええ、潰される、変えられる、人間のまま死にたいーっ。あああああ、ああ、あああーっ」


 ブラックボックスの尻から、赤い砲弾が転がり出た。

 変わり果てたトモ・ミウラの姿。

 人命弾を抱き締め、モモは涙が涸れるまで泣きつづけた。 


「こんな非人道的な砲弾を使わなければ戦えないなんて。戦争になんか負ければいいんだ。地球人類なんて滅びてしまえばいいんだ……」

 モモ・ヤマグチはブラックボックスの中に身を投げた。

 赤い砲弾がもうひとつ生み出された。

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