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源氏物語ってこんな話だったんだ  作者: 紫月ふゆひ
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賢木巻〜密通事件〜

『そのころ尚侍かむの君(朧月夜)が宮中から退出なさった。瘧病(わらわやみ)が長引いて、まじないなどを気兼ねなくするためである。回復なさると、滅多にない機会だからと光る君と連絡しあい、無理な算段をして夜な夜なお逢いになられる。女盛りの華やかな方であるが、病で少しお痩せになったようすは、たいそう美しい。

 后の宮(皇太后・元弘徽殿女御)も同じ御邸にいらっしゃるときなので、ひどく恐ろしい気はしたが、光る君は、このような状況でこそ気持ちがたかぶる性分なので、こっそりと人目を忍んでの逢瀬も重なっていく。それと気づく人々もあるようだが、面倒に巻き込まれたくないので、宮には申し上げなかった。』



瘧病(わらわやみ)、つまりマラリアです。若紫巻の冒頭で光る君も苦しんでましたが、朧月夜さんも定期的な発熱が落ち着かず、療養のために里下がりしたんですね。

病み上がりだというのに、何をやっているんでしょう。二人揃ってスリルが好きなんですかね。


ところで、この物語で病気になって痩せると、皆さんかえって優美になるんです。普通、病後やひどいつわりの後は、やつれて頬がこけたりします。優美になんてなりません。

思うに、通常ぽっちゃりしているので、痩せても現代の標準くらいなのではないでしょうか。現在のドラマや映画でそのあたりを再現しようとすると、視聴者が微妙な気分になるでしょうから、登場人物はみな現代基準ですが。

多分当時の人が見たら、「痩せすぎや」と言うと思います。



『右大臣も思いもよらないことであったが、ある明け方、雨が急にひどく降って雷が激しく鳴り、右大臣家のご子息たちや后の宮にお仕えする役人たちなどが騒いで、女房たちも怖がって近くに集まっているので、光る君はすっかり困り果て、お帰りになる手段がないままに、夜が明けてしまった。

 御帳のまわりにも、多くの人々が並んで座っているので、気が気ではない。事情を知る女房二人ほどが、はらはらしている。


 雷が止み、雨がすこし止んだ時に、右大臣がおいでになった。村雨の音で気づかずにいたところに、気軽にすっとお入りになって、御簾を引き上げながら、

「いかがですか。昨夜はひどく荒れて、心配しながらも参りませんでしたが。」

など、おっしゃる様子が早口で軽薄な感じである。このような時ではあるが、大将(光る君)は左大臣の御様子を思い出されて、まるで比べものにならないと、ついほほえんでいらっしゃる。部屋の内にすっかり入ってから言えば良いものを…。


 尚侍の君はとてもお困りになって、そっと御帳の外ににじり出ておいでになる。御顔がかなり赤らんでいるのを、まだご気分が悪いのかと右大臣が御覧になっていると、薄ニ藍(薄紫色)の帯が御召し物にまとわりついて外に出ているのを見つけられた。さらに、懐紙に手習などしたのが几帳の下に落ちていたので、驚いて

「あれは誰のものですか。お見せなさい。」

とおっしゃる。女君も振り返って、その帯と懐紙にお気づきになり、ごまかすこともできず、茫然としておられる。

 右大臣ほどの身分の方であれば、わが子であっても遠慮なさってしかるべきである。しかし、ひどく短気で落ち着きのない方である上に、気を回す余裕も失くして、几帳から内を御覧になった。すると、まことにしなやかな格好で、臆面もなく横になっている男がいる。呆れて腹も立つが、面と向かってはどうして暴き立てることができようか。

 目もくらむ心地がするので、この懐紙を取って、寝殿にお戻りになった。』



はい、バレました。時間の問題でしたよね。

それにしても、相手の身分が高いと、その場で怒るわけにいかないのでしょうか。大騒ぎになるかと思ったのですが。

まあ、屋敷の中は色々な人がいますからね、密通なんて外聞が悪いことは、広めたくないでしょうけれど。



『尚侍の君は、茫然自失で死にそうな面持ちである。大将殿も、

(困ったことになった。ついに無用のふるまいが積もって、世間の人の非難をあびることになるのか。)

と、お思いになりながら、あれこれと女君をお慰めになる。


 右大臣は、思ったままを口に出してしまう性格である上に、年老いて偏屈にもなっているので、ためらうことなく宮(皇太后)に訴えなさる。

「このような事があったのですよ。この懐紙は右大将(光る君)のご筆跡です。もともと親の許しなく始まった事でしたが、人柄に免じて許し、婿にしようとも申しましたのに、その時は心にもとどめず、けしからぬ態度で不愉快に思いました。しかし、こういう運命であったのだ、穢れたといっても帝はお見捨てになるまいと、かねてからの希望どおりに出仕させましたが、やはり遠慮があるので、堂々と女御と呼ばせられないことを、たいへん口惜しく思っていました。そこにまたこのような事でございますから、なおさら不愉快です。男の常とはいいながら、大将もまったくけしからぬ御気性でありますよ。

 斎院にまで言い寄って、お忍びで御文など交わして、怪しいことだなどと語る者がおりますが、世のためにも御本人のためにも良くないことですし、当代の識者として天下を動かしている御様子も格別ですので、まさかそのような思慮のないことはしでかすまいと思っていたのですよ。」

などおっしゃると、宮は、右大臣にもまして激しいご気性なので、たいそう不愉快なご様子で、

「帝とは申し上げるが、昔から皆軽んじています。辞職した大臣も、またとなく大切にしていた一人娘を、東宮でいらした兄には差し上げないで、まだ幼かった弟の源氏のためにとっておきました。またこの君(朧月夜)を宮仕えにと考えておりましたのに、みっともない有り様になりましたのを、けしからないことだと誰か思ったでしょうか。

皆があの御方(光る君)に期待して、思うようにならなかったので、こうして宮仕えしているようですが、それが気の毒なので、どうにかして人に劣らぬさまにしてあげよう、あの忌々しい人(光る君)の手前もあるのだし、などと思っておりましたが、本人は、こっそりと自分の気に入った男の方に、心を寄せていたのでしょう。

斎院との一件も、なおさらありそうなことです。何ごとにおいても、帝にとって安心できないように見えるのは、東宮の御世を特に心待ちにしている人なのだから、当然でしょう。」

と、不機嫌に言いつづけるので、右大臣もさすがに困って、なぜ申し上げてしまったのかとお思いになる。

「まあ、しばらくこの事は他言しないようにいたしましょう。帝にも奏上なさるな。尚侍の君は、このような過ちがあっても帝がお見捨てにならないだろうと、甘えているのでございましょう。内々にご注意なさって、聞きませんのでしたら、当人がその責を負うことでしょう。」

などとお取りなしされるが、皇太后の御機嫌がなおることもない。

「こうして同じ邸にいるときに、遠慮もなく忍び込んでくるのは、ことさらにこちらを軽んじ、ばかにしているのだ。」

と思うと、ますます腹立たしく、この機会に処置を講じようと思い巡らしておられるようだ。』



うん、火の粉を招き寄せましたね、光る君。

軽々しいとかきつい性格とか評されている二人ですが、言ってることは尤もだと思うのです。光る君が藤壺様の代わり、とばかりにちょっかいを出さなければ、朧月夜さんは女御として入内することもできたでしょう。入内を諦めて光る君と結婚させようとしたけれど、紫の上に夢中で知らんふりをしたのも事実です。

帝を軽んじている、というのも、実際そうなのだと思います。優しいから、光る君も朧月夜さんも甘えているんでしょう。

母親が気に食わないから子供にもきつく当たる、という皇太后も人間が小さいですが、とりあえず光る君が一番ひどいです。朧月夜さんも、後先考えない上に、帝への思いやりが足りません。感情は自分の思い通りにならないもの、とはいいますが、ちょっと思慮に欠けますね。


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