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源氏物語ってこんな話だったんだ  作者: 紫月ふゆひ
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葵巻~紫の契り~

『二条院では、あちこち磨きあげて、男も女もお待ちしていた。

 身分の高い女房たちが皆参上して、我も我もと着飾っているのを御覧になると、皆で沈み込んでいた左大臣家の様子が、しみじみと思い出される。


 御装束をお召しかえになって、西の対にお渡りになる。衣更えしたお部屋の飾りつけが明るくあざやかに見えて、美しく若い女房や童女の身なりも見苦しくないよう整えて、少納言の心配りは足りないところがなく、奥ゆかしい。

 姫君は、たいそう可愛らしく身繕いしていらっしゃる。

「しばらく見ないうちに、格段に大人びたものだね。」

と御覧になられると、恥ずかしそうに目をそらして微笑むご様子は、見飽きるところがない。

(火影に見る横顔や頭の形など、心からお慕いしているあの御方(藤壺宮)とそっくりになっていくものだな。)

と、とてもうれしく思われる。

 近くに寄り、逢えずに気がかりだったことなど申し上げて、

「ここ最近のことをゆっくり話したいが、縁起が悪いので、しばらく別の所で休んでから参ろう。今はいつでも会えるから、うるさいとさえ思われるだろう。」

とお話しになるのを、少納言はうれしく聞く一方で、やはり不安にも思われる。こっそりお通いの高貴な方々が多くいらっしゃるのだから、また気を遣わなければならないような方が出てこられるのではないかと、気を回しているのだ。


 その日はご自分のお部屋にお戻りになり、お休みになった。

 翌朝は、若君のところへお手紙を差し上げる。しんみりとした御返事を御覧になるにつけても、悲しみは尽きないものである。

 所在なく、ぼんやりと物思いに沈みがちであるが、何となくのお忍び歩きも億劫に思われて、お出かけになることもない。


 姫君が何事も理想的に成長なさったので、もうよい年頃だと、それっぽいことを時々申し上げてみるが、おわかりにならない様子である。碁など打ちつつ日々をお過ごしになるが、ご気性は利発で愛敬があり、たわいもない遊戯の中にも可愛らしさをお見せになる。妻として考えていなかった頃は、ただ可愛いというだけであったのだが、気の毒ではあるが我慢ができなくなった。

 傍目には見分けられないようなご関係であったが、男君は早く起きられて、女君はまったくお起きにならない朝がある。女房たちが、

「どうなさったのでしょう。ご気分がすぐれないのでしょうか。」

と心配していると、光る君はご自分のお部屋にお戻りになる前に、硯箱を御帳の中に差し入れていらした。人のいないときに、姫君がかろうじて頭をもたげると、ひき結んだ文が枕もとにある。何気なくひき開けて御覧になると、


 あやなくも 隔てけるかな 夜をかさね さすがに馴れし 夜の衣を

(どういうわけで、今まで床をへだてて寝ていたのだろう。夜を重ねてすっかり馴染んでいた仲なのに。)

と思うままに書いていらっしゃるようである。


 このような残念な御心がおありとは少しも思っていなかったので、どうして疑いもせずに頼みに思っていたのだろうと、情けなく思われる。』



葵の上を失った悲しみを抱えたまま二条院に戻り、成長した若紫ちゃんに癒されて、念願通り結ばれた・・・と書くと何も問題ないように見えますが、いや、問題ありですとも!

個人的には、これ、アウトです。

なぜって、若紫ちゃん傷ついているから。

やっぱりおままごとの延長のままで、分かっていなかったんです。

どうやらたびたび添い寝していたせいで、周りは二人が男女の仲かそうでないのかよく分からなかったようですが、若紫ちゃんにとっては、ただただ安心できる保護者だったのです。

乳母殿、もっとしっかり教えてあげるべきでした。

光る君、貴方のほうが年上なんだから、気の毒とか言ってないで我慢しなさい。

そもそも、こうなるのは時間の問題で、若紫ちゃんに選ぶ権利ない、というところからして問題ですよ。



『昼ごろ、西の対にお越しになって、

「気分が悪いようだけれど、どんな様子ですか。今日は碁も打たないでつまらないね。」

と言って覗いてみると、姫君はお召し物をひき被って横になっていらっしゃる。

 女房達は退きつつ控えているので、側に寄り、

「どうしてこのように気詰まりな態度なのか。案外つれないのだね。女房たちも、どうしたのかと妙に思うだろう。」

とお布団を引きのけると、汗びっしょりで額髪まで濡れていらっしゃる。

「ああ、ひどい。これはまったく大変なことだ。」

と、あれこれ宥めようとなさるが、本当にとても辛いこととお思いになっている姫君は、まったくお返事をなさらない。

「よいよい。もう二度と見ることはないだろう。ひどくばつの悪い思いだ。」

など怨み言をいって、硯を開けても中に何もないので、「子供っぽいありさまよ」と可愛らしく御覧になる。一日中御帳の中にいて慰めるが、なかなかご機嫌が直らないのが、ますます可愛らしいのである。』



引っ叩いていいでしょうか、光る君。もう、盛大に。

葵の上、夢枕に立って、視線で氷漬けにしてやってください。

当時の人がどう思ったのか知りませんが、この鈍感さは何なのでしょう。

ちなみにこの時、若紫ちゃんは推定十四歳。

ええ、犯罪ですとも。大人だって現在なら犯罪です。不同意ですからね。



しばし脱線します。不快な方は読み飛ばしてください。

性交同意年齢を十三歳から十六歳に引き上げるかどうか、喧々諤々の議論をしたのはほんの数年前です。そもそも議論が必要な問題だろうかと疑問でしたが、それ以前に今まで放置されていたのもおかしいのです。

今、何時代ですか?

某議員のとんでも発言もありましたが、議論がいったん保留になったときは、正気か?と思いました。無事に決まって良かった。さらに踏み込んで、「同意がなければ不同意」になったのは、日本においては快挙でしょう。当たり前のことなんですが、外圧がなければまだ先の話になっていたでしょうから。

結婚可能年齢も、去年まで女性は十六歳でした。明治時代はこれでも意味があったと思うのです。それより早く結婚する人たちも出産する人たちもいた時代です。そんな女性たちを守ることにはなったでしょう。

時代は変わって、十六歳は立派な未成年。いろいろと制限される未成年なのに結婚はいいのか、という矛盾は、長らく放置され続けました。怠慢です。

ちなみにこの時点で若紫ちゃんは未成年です。年齢的には成人扱いされている人もいた時代ですが、成人の儀式、してませんからね。



物語に戻ります。


『その夜、御前に亥の子餅を差し上げた。

 服喪中なのでおおげさにはせず、姫君のところだけに、風情のある檜の破子などをさまざまな色に作って差し上げるのを御覧になって、惟光を呼び、

「この餅を、このようにたくさん仰々しくではなく、明日の暮に西の対に差し上げよ。今日はよくない日であった。」

と微笑んでおっしゃる。惟光は勘のいい者なので、ふと思い当たり、詳しいことはお伺いせず、

「まったく、こうしたことの初めは日を選んで召し上がるのがよろしゅうございますな。ところで、餅はいくつご用意いたしましょうか。」

と、まじめぶってお聞きする。

「三分の一ぐらいでいいだろう。」

とおっしゃると、惟光はすっかり心得て立ち去った。もの馴れたことよ、と君はお思いになる。惟光は誰にも言わず、自分の手で用意するために、実家で餅を作っていた。』



亥の子餅は現在もありますが、うり坊に似せた形のお餅で、無病息災を願って亥の月(旧暦の十月)亥の日亥の刻に食べる風習がありました。宮中行事としてこれを配ったりもしました。なので日をずらしたら意味がないのですが、光る君はこれを三日夜の餅の代わりにしようとしたんです。結婚三日目に食べるのが三日夜の餅でしたね。惟光くんがピンときたのは見事です。できる男子ですね。光る君と付き合いが長いからかもしれませんが。

それにしても、まだ喪中なんですよ。

葵の上、やっぱり夢枕に立っていいと思います。



『光る君は、ご機嫌を取るのに困り、今はじめて女君を盗んできた人のような気持ちがするのもたいそうおかしくて、

「長年愛しいと思ってきたのは、今の気持ちの片端にも足りなかったな。人の心とは困ったものだ。今は、一夜会わずにいるのも我慢できないにちがいない。」

とお思いになる。


 仰せつかった餅を、惟光は夜遅くなってからひそかに持って参った。少納言は年配の女房だから、姫君が恥ずかしく思うだろうと深く心遣いして、娘の弁というのを呼び出して、

「これをお忍びで姫君に差し上げてください。」

といって、香壺を入れた箱を一つ差し入れた。

「たしかに、御枕もとに差し上げるべき祝のものでございます。決して、あだ(=いい加減)に扱いなさいますな。」

と言うので、不思議に思ったが、

「あだなること(=浮気)は、まだ存じませんが。」

といって受け取ると、

「まったく、今はそのような言葉を避けてくださいよ。まさか使わないでしょうが。」

と言う。

 若い女房なので、深く事情を悟ることもなく、御枕もとの御几帳から差し入れた。例によって、光る君が意味をお知らせするのだろう。


 女房たちは知らなかったが、翌朝、この箱を下げさせたので、側にお仕えする女房は思いあたることがいろいろあった。御皿の類など、いつの間に調達したのだろう。華足(けそく)もたいそう美しく、餅も特に心をこめて作ってあり、たいそう趣深く整えている。


 少納言は、まさかここまでと思っていたので、しみじみと勿体なく、行き届かぬところのない御心づかいに、まず泣かずにいられなかった。

「それにしても、内々におっしゃってくださればよかったのに。あの人(惟光)も、どう思っているのでしょうか。」

とひそひそ言い合った。』



周りの大人たちと本人の心情の差が・・・

二条院に連れてこられた時から、いずれ若紫ちゃんが光る君の妻なり妾なりになることは決まっていました。だから乳母殿はじめ、仕えている女房達はとっくに心づもりはできていたし、そうなったときに、本妻や他の愛人たちとの関係がどうなるかという心配さえしていました。だからこうして契りを結んだ後、真似事とはいえ正式な結婚の儀式に準じたことをしたので、乳母殿は感激したのです。

心構えができていなかったのは本人のみ。

・・・ダメじゃないですか。

頼れる後ろ盾のない若紫ちゃんですから、安心する乳母殿の気持ちもわかりますけどね、本人の気持ちは置き去りです。誰も寄り添ってあげてない。

こども時代が終わって大人の世界に放り出される若者は、多かれ少なかれ試練を受けるものですが、これはあんまりだと思うのです。

せめて事前に教えといてあげて欲しかった。選択肢がないのだということも含めて。

・・・若紫ちゃんが不憫です。

一応夫婦になったので、もう、紫の上、ですね。


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