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源氏物語ってこんな話だったんだ  作者: 紫月ふゆひ
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紅葉賀巻~新春から二月、若宮誕生~

『宮中から左大臣邸へお下がりになると、姫君(葵の上)は、例によって、端然としてご立派な様子であるが、優しげな雰囲気はなく窮屈に思われるので、

「せめて今年からは、すこし世間並みの夫婦のように態度を改めていただけたら、どんなに嬉しいでしょう。」

など申し上げるが、わざわざ女の人を側において大切にしていらっしゃる、とお聞きになってからは、ますますよそよそしく、気づまりに思っていらっしゃるようだ。ただ、強いて何も知らないようにふるまい、君がお戯れになるご様子に対しては、意地を張りとおすでもなく、少しばかりでもお答えになるのは、やはり他の女性とはとても違うのである。

 四歳ほど年上でいらっしゃるので、落ち着いていて、女盛りでもあり、非の打ちどころはないようにお見えになる。

(この人にどんな欠点があるというのだろう。自分のあまり良くない浮気心のため、このように恨まれるだ。)

と、自然と思い知らされる。

 大臣の中でも、帝のおぼえもこの上ない方が、皇女との間に一人もうけて、大切にお育てになられた姫君の気位の高さは大変なもので、すこしでも粗略に扱われると「失礼な」とお思いになるのを、男君(光る君)は「なにもそこまで」ということになるので、それが、ご夫婦の心の隔てともなるのだろう。


 左大臣も、光る君を薄情だと思いながらも、お目にかかる時には、恨みごとも忘れて大切にお世話をなさる。


 翌朝、お帰りになるところに、左大臣ご自身が名高い帯をお持ちになる。衣の後ろをととのえるなど、気の毒なほど気を使っておられる。

「この帯は、内宴などの折にこそ。」

など申し上げると、

「それには、もっと良いものがございます。これはただ珍しいというだけのものでして。」

と言って帯をお締めになる。

 そうして万事整えてご覧になると、生きがいが感じられ、たまにでも、このような人を出入りさせてお世話するのだから、これ以上のことはあるまいと思われる。


 新年の参賀といっても、多くの所に行かれるわけではなく、内裏、春宮、一院(いちのいん)ぐらいで、そのほかは藤壺の三条の宮に参られる。

「今日はまた格別美しくお見えになりますね。」

「お年を重ねられるにつれて、恐ろしいまで立派におなりですこと。」

と、女房たちがお褒めするのを、藤壺宮は几帳の隙間からほんの少し御覧になって、あれこれ思いめぐらすのだった。』



元旦の日は、朝廷へ参上して帝に拝謁したり、節会(せちえ)(宴会)が開かれたりします。

さすがにその夜は、光る君も他所へは行かず、正妻のところで夜を明かします。

翌日は、新年の挨拶回りです。

ここで一度だけ、一院(いちのいん)という人が出てきます。

院が複数いる場合、最も早く院になった方を一院(いちのいん)と呼びます。例えば先々帝が一院(いちのいん)だとして、先帝が生きていれば新院と呼ばれていたはずですが、先帝は亡くなっているので、現在の院は一人だけのようです。細かいことは書かれていないので、何代前の帝なのか分かりませんが、朱雀院に住んでいるのは、一院(いちのいん)なのでしょう。

この後、七日の白馬節会(あおうまのせちえ)を過ぎて末摘花さんのところを訪れて、梅の花を見ながら若紫ちゃんと戯れたりするのです。

左大臣の姫君(葵の上)は・・・ますます心が離れていきそうですね。


この時代、大切に育てることを『かしづく』と言いました。まるで臣下が主に仕えるかのようですが、娘に良縁を望む親たちは、いずれ自分より上位になるかもしれない娘を、それはそれは大事に養育したのです。娘であっても敬語を使ったり、上座に座らせるところは、後の世とは違うところでしょう。

おそらくは后がねとして育てられた左大臣の姫君も、誰より尊重されるのが当たり前の環境で育ったのです。その様子を『おごり』と表現されていますが、思い上がりとか気が強いとかではなく、気位が高いのです。内親王より高いかもしれません。だから相手が皇子でも簡単には気を許さないし、こそこそ浮気するのも気に入りません。一夫多妻制だから多少は仕方がないにしても、正妻である自分がないがしろにされているのは、やはり許しがたいのです。

でも、元々は従順でいるように教育を受けているので、光る君を見下しているわけでもありません。なかなか難しい人ですが、凛とした誇り高い女性なのですね。

だから、正妻としてきちんと尊重し続けていれば、わだかまりは溶けていたかもしれません。光る君はようやく、自分が悪いんだなあ、と思い至ります。会話もあまりなさそうなのに、存在だけで悟らせる葵の上ってすごいですね。

ただ、葵の上の方が年上なので、こうなる前に歩み寄ってあげても良かったのでは・・・とも思います。



『ご出産予定の十二月も過ぎて、今月はきっと、と宮中の人々もお待ちして、帝もそのおつもりでいらしたが、何事もなく過ぎてしまった。御物の怪のしわざだろうか、と世間の人も騒ぐので、藤壺宮はとてもやり切れない思いで、このことによって、身の破滅になるだろうと思い嘆かれて、ご気分も苦しく体調もすぐれないでいらっしゃる。

 中将の君(光る君)は、いよいよそれと悟られて、御修法(ごずほう)など、それとなくあちこちで行わせなさる。

(世は定まらないものではあるが、あの方とも、このようにあっけなく終わってしまうのだろうか。)

とお嘆きになっていたところ、二月十日すぎあたりに、皇子がお生まれになったので、宮中の人々も、藤壺宮にお仕えする人々も、お喜び申し上げる。


 藤壺宮は、長らえるのは辛いことだと思われるが、弘徽殿の女御などが、呪うようなことをおっしゃったと聞いて、かえって気を強くお持ちになり、少しずつ快方に向かわれた。


 帝が、いつ若宮を見られるかと、この上もなく心待ちにされている。

 人知れずお悩みの光る君としても、とても気がかりで、人目のない時に三条宮に参られて、

「帝が待ち遠しくお思いですので、まず私が拝見して奏上いたしましょう。」

と申し上げるが、

「まだ見苦しい時ですから。」

と言ってお見せにならないのも、無理もないことだった。

 それというのも、滅多にないほど生き写しでいらっしゃるからであった。

 藤壺宮は、罪悪感にひどくお苦しみで、

(誰が拝見しても不審に思う生まれ月の狂いを、どうして変だと思い当たらないだろうか。些細な欠点でさえ探し回る世の中であるのに、最後にはどんな評判が漏れ出すのだろうか。)

と思い続け、わが身だけがたいそう辛く思われる。』



ここも、現代語訳の解釈が分かれるところです。

「若宮を見て、光る君そっくりなのを不審に思う。」

「誰が見てもこんなに出産の予定がずれたのをおかしいと思う。」

どちらもありそうなんですが、『あやまり』とあるので出産が遅れた方にしました。


出産前の藤壺の宮の心情のところでも、『身のいたづらになりぬべきこと』というのが、

「このお産で死ぬかもしれない。」

「密通が明るみになって身の破滅になるかもしれない。」

の二通りの訳があります。これも、どちらもありそうですね。


二か月近くも出産が遅れるなんて、現代の日本ではありません。大抵の場合は、予定日がかなり正確にわかっていて、二週間超えないうちに誘発してでも出産にします。でないと胎内環境悪くなるので。初期のうちに確認しないと、正確な予定日出せませんけどね。

ここでは、物の怪のせいになってます。物の怪って便利です・・・。



『まれに命婦の君にお逢いになると、光る君はお言葉の限りを尽くされるが、何のかいがあるはずもない。

「前世の縁をどのように結んだからと言って、今生でこんなにも二人の仲が隔てられてしまったのだろうか。納得できない。」

 命婦も、藤壺宮が物思いしていらっしゃるご様子などを拝見しているので、

「お気の毒に、お二人とも、御心の休まる時がありませんね。」

と、ひそかに申し上げるのだった。

 光る君はどうしようもなくお帰りになるが、藤壺宮は、世間の噂がわずらわしく、命婦にすら、以前のようには気をお許しにならないのであった。』



王命婦さんは、二人の嘆きぶりを、子を思う『心の闇』と言っていますが(平安時代の『心の闇』は、先行きが見通せずに思いまどうこと)、ちょっと違う気がします。光る君は親心には遠そうですし、藤壺の宮の心を占めていたのは『心の鬼(罪悪感)』です。心の鬼って初耳ですが、現代でも使うようですね。

子供を無事に抱くことができて、本当は、一番幸せな時間のはずなんですが。


藤壺宮は、光る君のことを愛しているのでしょうか。

もし帝の妻でなかったなら、添い遂げたいと思っているでしょうか。

帝に対しては、敬意と穏やかな愛情を持っているのだと思います。光る君に対しては、どちらかと言えば、弟を見守る姉のような気持でいたかったような気がします。

物思いにしても、許されぬ恋に身を焦がしている光る君に対し、藤壺宮は、罪を犯すことへの恐れや、名誉が傷つくことへの恐れが強いと感じるんですよね。

光る君にとっては本命の恋なんですが、どうにもすれ違ってますね。


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