末摘花巻~虚しく暮れる秋~
『二条院にお帰りになっても、やはり男女の仲は思うようにいかないものよと思い続けて、高貴なご身分だから、これで終わりというのも気の毒だとお思いになっていた。
横になって休んだまま、あれこれ思い悩んでいらっしゃるところに、頭中将がいらした。
「朱雀院の行幸のことで、今日、楽人や舞人を決めることになり、大臣にも伝えようと退出してきました。すぐに帰参せねばなりません。」
と忙しそうなので、一緒に参内することにして、共に御粥や強飯を召し上がり、ひとつの車に同乗される。頭中将には、遅くまで寝ていたことをからかわれ、
「ひどく眠たそうですね。隠し事をなさっているでしょう。」
と、嫌味を言われる。
この日はさまざまな事が決定される日であったので、宮中で日暮れまで過ごされた。
お気の毒にも、夕方になって姫君のことを思い出されて、せめて文だけでもとお送りになられる。雨が降り出して億劫でもあるので、立ち寄ろうとも思われなかったのだろうか。
あちらのお邸では、後朝の文を待つ時間も過ぎて、命婦も、とてもお気の毒なご様子だと、つらく思っていた。
ご本人は、昨夜のことを恥ずかしく思われていて、今朝届くべき後朝の文が夕暮れになって届いたことも、かえって非礼とは思わないでいらっしゃる。
その文の様子では、 今夜はいらっしゃらないようなので、女房たちは胸のつぶれる思いがするが、「それでもやはりお返事を」と、皆でお勧めする。姫君はたいそう思い悩まれているご様子で、型通りにも返歌がおできにならないので、「夜が更けてしまいます」と、侍従がいつものようにお教えする。
口々に催促されて、古ぼけて灰色にくすんだ紫の紙に、それでも筆跡はさすがにしっかりと、少し昔の書風できっちりとお書きになっている。趣には欠けるので、光る君は、見る甲斐がないと放置されるが、どのように思っているだろう(きっと恨んでいるだろう)と想像すると、心穏やかではない。
後悔なさるものの、それでも最後までお世話はして差し上げようとお思いになるが、姫君の方ではその御心を知らないので、たいそうお嘆きになっているのだった。』
妄想も入って期待が大きかった分、反応が乏しすぎて、光る君はがっかりしているようです。手紙も、期待していたようなセンスはなかったようなのです。雨降ってるし行くの面倒だ、というくらいに気持ちが冷めてしまいました。
だって貴女がなかなか心を開いてくれないから、という歌を送っているんですが、相手のせいにするのはよろしくありませんよ。
命婦さんはちゃんと教えてくれてましたからね。
「お望みのような方ではないんですが…」って。
『左大臣は、夜に入って宮中を退出なさる。光る君もご一緒に左大臣邸にいらっしゃる。御子息たちは行幸を興あることに思われて、集まってお話になり、めいめいさまざまな舞をお習いになることを、その頃の日課として日々は過ぎてゆく。
さまざまな楽器の音がいつもよりも耳にうるさく、それぞれ技を競いあい、いつもの管弦の遊びとは違うご様子で、大篳篥や尺八など大きな音を吹きあげ、太鼓までも欄干の下に転がし寄せて御自身の手でうち鳴らして、皆で合奏していらっしゃる。
光る君はお暇がないご様子で、是非にと思われる所には人目を盗んで通っていらっしゃるが、あの姫君の所にはすっかりご無沙汰のままで、秋は暮れてしまった。
行幸が近くなって、舞楽の予行演習などでやかましくしている時に、命婦は参った。光る君は、
「姫君はどうしていらっしゃるか?」
などご質問なさる。気の毒だとは思っておられるのだ。命婦はご様子をお伝えして、
「ほんとうに、ここまで捨て置かれていらっしゃる御気持ちは、おそばで拝見している者たちまで心痛くなるほどです。」
と、今にも泣きそうである。
奥ゆかしい姫君と見せて終わりにしようと思っていたのを、台無しにしてしまったので、思いやりのないことだと、命婦は思っているだろう、と光る君はお考えになる。
姫君が物も言わずふさぎこんでおられる様子を想像するにつけてもお気の毒なので、
「忙しい時期なのだ。どうしようもない」
とため息をつかれて、
「情というものを知らないようなご気性を、懲らしめてやろうと思ってな。」
と微笑まれる、そのご様子が若く美しげなので、命婦も自然に笑みがもれる気持ちがして、
(人の恨みをかう、困ったお年頃ですね。思いやりが少なく、御心のままに勝手をなさるのも仕方がない。)
と思う。
この忙しい時期を過ぎてからは、ときどき姫君のところにもいらっしゃった。』
思いやりが少ないお年頃・・・というのがあるのかどうか分かりませんが、痛みを経験しないと他人の痛みにも気づかない、ということはあるかもしれません。要は、人生経験をどれだけ積んでいるか、ということですね。それなりに気遣う相手がいたり、成人して六年経ったりしていますが、帝の庇護下にいる十八歳ですから・・・
思い込みで突っ走っておいて、懲らしめるも何もないと思うのですが、最後まで面倒見ようか、と思ってるところは、たぶん当時の一般的な男性と違うところなんでしょうね。




