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源氏物語ってこんな話だったんだ  作者: 紫月ふゆひ
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若紫巻~嵐の夜~

『尼君の忌みの期間が過ぎて、京の屋敷に戻られたとお聞きになったので、しばらく経ったある夜に訪ねていかれた。

 ずいぶんと不気味に荒れた所で、人気も少ないので、どれほど幼い人は恐ろしいだろうと思われる。


 いつもの御座所に光る君をお通しして、少納言が、ご様子などを涙ながらに申し上げるので、光る君の御袖も涙に濡れている。

「父宮にお預けしようといたしましたが、亡き母君がとてもつらい思いをされましたのに、まったくの幼子というわけでもなく、かといって、まだはっきりと人の意向を理解できない、中途半端なご年齢では・・・。多くの御子たちの中で、侮られながら過ごされるのではないかと、亡くなられた尼君も、始終思い嘆いていらっしゃいました。仮そめであっても、このようなありがたいお申し出は、後々のお気持ちはどうであれ、大変うれしく存じ上げるべきでございましょうが、姫君はお年よりも子供じみていらっしゃいますので、たいそう心苦しいのでございます。」

「どうして、繰り返し気持ちの深さをお伝えしているのに、遠慮するのだろうか。その幼げな在りようが、しみじみと愛おしく思われるのも、前世からの約束事ゆえだと、私には思われるのだ。やはり人づてではなく、直接申し上げたい。」

と対面を請われるが、少納言の乳母は、「畏れ多いことです。」と申し上げながらも、物慣れた様子でお断りする。


 姫君は、祖母上を恋しく思って泣き伏していらしたところ、遊び相手たちが、

直衣(のうし)を着た人がいらっしゃっています。父宮でございましょう。」

と申し上げるので、起き出しなさって、

「少納言や、直衣(のうし)を着ている方は、どちらですか?父宮がいらしたの?」

と寄っていらした御声は、たいそうかわいらしい。

「父宮ではありませんが、だからといって知らぬふりをしてよいものでもありませんよ。こちらへ。」

とおっしゃる声を聞いて、あのご立派だった方とおわかりになると、まずいことを言ったと思われて、乳母の側に寄り、

「さあ、あちらへ行きましょうよ。」

とおっしゃる。

「いまさらに、どうして隠れるのですか。この膝の上に休みなさい。もう少し近くへ。」

とおっしゃると、乳母が、

「だから申し上げたのです。このように世間慣れしないお年でいらっしゃいまして。」

と言って光る君の方に押し寄せると、姫君は無心で座っていらっしゃる。手をさし入れて探ってみなさると、柔らかな御召し物の上に、髪がつやつやとかかり、髪の先はふさふさしていて、たいそう美しいことが想像される。』



え、変態・・・とか思ってはいけません、たぶん。

御簾(みす)越しだからいけないんです。面と向かって頭を撫でてあげれば、優しいお兄さんが子供をかわいがっている図になるんです。

もし学園ものかオフィスもので、憧れの先輩がヒロインの髪を触っている場面だったら、胸キュンに違いないんです!

とてもそんな雰囲気になってないですけど!

だってよく知らない人ですからね。人見知りして当然です。

なのに乳母殿まで・・・押しやらんであげてください。今まで会わせまいとしていたのに、来ちゃったからもういいや、みたいに。



『手をおとりになると、姫君は、慣れない人がこのように近づいてくるのが恐くて、奥に引きこもろうとなさるので、御簾(みす)の中にすべり入って、

「今は、私があなたを大切に思う者です。嫌がられますな。」

とおっしゃる。乳母が、

「あら、なんとまあ困ったこと。とんでもないことでございますよ。」

と、とても困っているので、

「いくらなんでも、このように幼い方をどうこうするものか。この世に二つとない私の思いの深さを、最後まで見届けるがよい。」

とおっしゃる。


 (あられ)が降って風は荒く、恐ろしい夜である。

「どうして、このように人も少ない心細いところで、お過ごしになれるだろうか。」

と涙ぐんで、

「御格子を下ろしなさい。なんとなく恐ろしい夜になりそうだから、私が宿直人(とのいびと)になろう。皆、近くに参れ。」

と言って、たいそう馴れた顔で御帳(みちょう)の内へお入りになる。あまりに予想外のことに、誰も彼もあっけにとられている。乳母は困ったことに思うが、事を荒だてるべきではないので、ため息をつきながら控えている。


 姫君は、本当に恐ろしく、どうなるのだろうと震えていて、たいそう美しい御肌も、なんとなく寒そうに粟立っているが、光る君はその様子を可愛く思われて、単衣(ひとえ)だけで包みこむようになさる。ご自分でも奇妙に思われるところもあるが、姫君が興味を持ちそうなことを、しみじみとお話になる。子供ながらも、そのご様子はとても優しそうだとは思われるが、やはり気味悪くもあり、寝入ることもできずに、身じろぎして横になっていらっしゃる。』



御帳(みちょう)というのは、天蓋付きの寝所です。ベッドというよりはマットレス付きの布団、というくらいの高さです。上も四方も布に覆われていて、東西南北を意識して置かれます。北側以外は布(帳)を巻き上げておき、几帳を置いて目隠しとします。枕は南側、刀は枕元に置くという決まりがありました。

「休む・寝る」というのを、古語では『大殿籠(おおとのごも)る』と言います。今までも出てきたのですが、寝所のある建物に入ることかと思っていました。動詞だったんですね。

ここで、光る君は若紫ちゃんに対し、『大殿籠れよ』と言っています。でも、若紫ちゃんは寝ていられる状態ではないです。

それはそうです。よく知らないお兄さんが添い寝しているんですから。

遠くから見れば憧れの君でも、近くに寄れば、面識のない良く知らない人です。不安でおちおち寝ていられません。

外の嵐と、添い寝してくるお兄さん。どっちが怖いかと言えば・・・お兄さんだと思います。



『一晩中風が吹き荒れるので、

「まったく、こうしておいでにならなかったら、どんなに心細かったでしょう。」

「同じことなら、釣り合う年頃でいらっしゃったら・・・」

と、女房たちはささやきあっている。乳母は気がかりなので、すぐ近くに控えている。


 風がすこし吹き止んだので、夜がまだ深いうちにお帰りになるのも、さもそういう事があったような顔であるよ。

「とてもお気の毒な御様子が、以前にもまして気がかりでならない。私が明け暮れ物思いにふけっている所にお移ししよう。それほど怖がられなかったのだし。」

「父宮も、御迎えにと申されていらっしゃるようですが、四十九日を過ぎてからと存じます。」

「父宮は、頼りになる方ではあるが、ずっと離れて暮らしてこられたのでは、疎遠に思われるだろう。私は、今はじめてお逢いしたが、深い愛情は父宮にも勝っている。」

と、姫君の髪を撫でつつ、振り返り振り返りご出発された。』



それほど怖がられなかった??

怯えて震えてましたけど・・・。

光る君、一気に距離詰めすぎです。どんなにイケメンでも、普通は怖がります。


「とてもお気の毒なご様子」とした部分は、原文では『いとあはれに見たてまつる御ありさま』となっていて、現代語訳が「気の毒な」だったり「愛おしい」だったりします。もしかしたら両方かもしれません。

これも読者の受け取り方次第ですね。



『霧が一面に立ち込めている空も並々でない風情である上に、霜が真っ白に降りて、これが本当の色恋なら情緒深いはずなのに、そうではないので物足りなくお思いになる。

 内密にお通いの場所が、この途中であったのを思い出されて、門を叩かせなさるが、聞きつける人もない。しかたがないので、声のよい供人に命じて歌わせると、下仕えの者が出てきて、つれない内容の返歌を伝えて家の中に入ってしまった。それから誰も出てこないので、帰るのも情緒がないが、空が明けていくのもきまりが悪くて、邸へ帰られた。

 可愛らしかった人を思い浮かべ、ひとり笑いしつつ横になっていらっしゃる。

 日が高くなってから起きて、手紙を送りなさるのに、書くべき言葉もふつうの恋文とは違うので、筆を取ったり置いたりして熱心に取り組んでおられる。おもしろい絵などを描き送りなさる。』



色々と失礼ですね。

真夜中に訪ねるって、普通に迷惑じゃないですか?

いくら恋人でも、とっくに寝てるし、迎える準備なんてできてないでしょう。

しかも、他所からの帰りに、ついでに立ち寄ろうかな、なんて。

断られて当り前です。


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