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源氏物語ってこんな話だったんだ  作者: 紫月ふゆひ
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空蝉巻~恨めしくも恋しき空蝉~

『小君を車に乗せて二条院に帰ると、今夜のなりゆきを話して、

「稚拙であったぞ。」

と小君をたしなめて、あの女の心を不満に思う。小君はお気の毒で何も申し上げられない。

「ひどく嫌っているようなので、この身がすっかり嫌になってしまった。他人行儀であったとしても、好ましい答えぐらいくれないものか。伊予介にも劣るわが身が残念だ。」

などと、不愉快に思っている。

 そうは言いながらも、持ち帰った小袿を衣装の下にひき入れて、休むことにした。

 小君を御前に寝かせて、さまざまに恨み言を言い、一方ではまた睦まじく語らっている。

「お前は可愛いけれど、あの冷淡な人の弟だから、いつまでもこの気持が続くか分からないね。」

と、真面目におっしゃるのを、小君は、たいそう辛いと思っている。


 しばらく横になっていたが、眠ることは出来ない。硯を用意させて、わざわざ手紙を書くというわけではなく、畳紙(たとうがみ)に手習いのように書き流した。


 空蝉(うつせみ)の身をかへてける木のもとに なほ人がらのなつかしきかな

(蝉が殻を脱いで飛び去るように、薄衣だけを残して去ってしまった貴女だが、抜け殻の残る木の下にいると、やはり貴女の人柄がなつかしく思われますよ)


 もう一人もどう思っているだろうとは思ったが、いろいろと思い直して、言付けはしなかった。

 例の薄衣の小袿は、あの人の香が染みついているので、いつも身近に置いて見ていた。


 小君があちらに行くと、姉君が待ち構えていて、厳しく叱られた。

「呆れたことです。どうにかごまかしても、他人(ひと)が思うことはどうしようもないのに。本当に困ったことです。こうも思慮が幼いことを、(光る君は)どのように思っていらっしゃるでしょうか。」

と言うので、小君は恥じ入っている。どちらからも責められて苦しく思ったが、光る君の走り書きを取り出して見せた。姉君はそれを取って見て、あれこれと思い乱れるのだった。 』



お姉さんに叱られるのは仕方がないとして、この年にして上司の無茶ぶりに付き合わされる小君くん。気の毒に。

そもそも人妻相手に、どうして色よい返事をくれないんだ、というのが間違ってるよ、光る君。



『西の対の君(紀伊守の妹)も、なんとなく恥ずかしい気持ちがして、自分の部屋に戻った。他に知る人もないことなので、人知れず物思いに沈んでいる。小君が歩き回るのを見るにつけても胸が塞がるばかりだが、お便りもない。酷いことだと気づくことも出来ず、ませた心にも、なんとなく悲しく思っているらしい。


 冷淡な人(空蝉)も、落ち着いているように見えるが、軽々しくもない光る君の御様子に、「昔のままのわが身ならば」とか、「昔にもどることはできないけれど」などと耐えがたいので、この畳紙(たとうがみ)の隅の方に、


 空蝉の()に置く露の()隠れて 忍び忍びに濡るる袖かな

(蝉の抜け殻の羽に置く露が木の間に隠れてしまうように、ひそかに涙に濡れている私の袖ですよ)

と書く。』



この女君は、帚木(ははきぎ)さんでも良かったんでしょうが、やはり空蝉(うつせみ)の方が印象が強かったのでしょうか。作者は帚木とも呼んでいますけどね。

「うつせみ」と言う言葉には、「現身(うつしみ)」とか「この世」という意味もあるらしいです。空蝉という字とセミの抜け殻の意味は後から付け加わったものだとか。なんだか不思議です。確かに空蝉さんは、一時の夢に流されずに現実的な考え方をする人ですね。


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