空蝉巻~思いは止まず~
帚木巻と空蝉巻は一つに纏めてもいいのではないかと思います。同じシーンの続きだから、ここで区切るのは中途半端ですよ。でも、別巻なんですよね。
『眠れないままに、
「<我>(私)はこんなに人から嫌われたことは今までないのに、今夜初めて男女の仲はうまくいかないものだと思い知った。恥ずかしくて生きてはいられないという気持ちになったよ。」
などと言うと、小君は涙まで流していた。
無理に探し求めるのも体裁が悪いだろうし、本当に気にいらないことだと考えているうちに夜が明けて、まだ薄暗いうちに邸を出た。
女も、とても心苦しく思う。光る君からのお便りもすっかり絶えている。
光る君は懲りてしまわれたのだと思うにつけても、
(このまま何事もなくお気持ちが醒めてしまうなら、残念なことでしょう。けれど、強引で困った御振る舞いが絶えないのも辛いことでしょう。適当なところで、こうして終わりにしたいものです。)
と思うが、やはり平静ではいられず、物思いしがちである。
光る君は、気に食わない女と思いながらも、絶えず心にかかり、体裁が悪いほどに気落ちして、小君に、
「辛くもいまいましくも思うのだが、無理に忘れようとしても、心が従わずに苦しいのだ。折をみて、対面できるようにはからってくれ。」
と、いつもおっしゃるので、小君は厄介に思ったが、このようなことでも、お側に置いて命じてくださるのは、うれしく思えた。』
光る君、今まで拒否されたことないんですね。臣下になったとはいえ、帝の覚えめでたい皇子だし、光る君だし、皆さん容易く落ちてしまったんでしょうね。現代の学園ものなら、女子の取り巻きがわんさといることでしょう。
それにしても、けっこう繊細でいらっしゃるようです。
女君も『憂し』と思っているようだし、ここまで行くとなんだか気の毒なので、女君が結婚する前に出会っていれば良かったのに、と思います。でも二年前というと光る君は十五歳。はたして恋を語るようなことはしていたんでしょうか・・・
『小君は、どういう機会に光る君をお連れしようと待ち続けていたところ、紀伊守が任国に下り、邸は女だけになった。
道も良く見えない夕闇の頃、女達もくつろいで過ごす時分に、自分の牛車でお連れした。人目のない方面から車を引き入れて、光る君をお下ろしする。子供だから、宿直人なども特に気を使ってこないので、気が楽である。
東の妻戸に光る君をお待たせして、自分は南の隅から、格子を叩いて声を上げ、中に入った。年配の女房たちが、「外から丸見えです。」と文句を言っている。
「どうして、こんなに暑いのにこの格子は下ろされているのですか」
と小君が尋ねると、
「昼から西の対の御方がいらして、碁をお打ちなのです」
と言う。
光る君は、それなら向かいあっている姿を見たいと思って、そっと歩みだして、簾の隙間に入った。
さっき小君が入った格子はまだ閉じていなくて、隙間が見えるので、近寄って西の方を見通すと、そばに立ててある屏風も端のほうが畳まれていて、暑いせいか、目隠しのはずの几帳もまくり上げられていて、たいそうよく見通せる。』
光る君がどこにいるのかよく分からないのですが、寝殿の南東の隅から室内を覗き込んでいるようです。格子の外で簾の隙間???格子の外にも簾を垂らしていたのでしょうか。夕闇の中、篝火を灯していなければ、外にいる人間の姿は見えづらかったでしょうが、近くを通りかかる人がいたら見咎められたかもしれません。見つからなくて良かったですね。
それにしても、冷房のないこの時代、女性達は姿をさらさないために戸を閉め切って室内に籠らなければならないなんて、不便ですね。




