帚木巻~雨夜の品定め・左馬頭の語り②~
『「もう、家柄も、まして容貌など問題ではありません。たいそう捻くれている残念な性格でなければ。ただひたすら真面目で穏やかな人を、生涯の伴侶と決めるのが良いですね。
それ以上の才能や気立ての良さがあるなら幸いで、少し不十分な面があったとしても、無理に要求を加えることはしますまい。
安心できる落ち着いた性質が芯にあれば、表面的な情緒は自然と備わってくることですから。」』
なんか無難な結論に落ち着きました。
生涯を共に過ごすなら、一緒にいて安心できる人が良いですよね。なので、これは理解できます。
がしかし!これで終わりではありません。まだまだ続くのです。
夫婦の望ましい在り方や、女性の望ましくない振る舞いについて、さらに延々と語ります。
左馬頭さん、手短にお願いしたいです。
『「恨み言を言うべき時に我慢して、表面上は平静を装いながら、自分の胸に収めきれなくなると、言いようもなく物寂しい言葉や哀れな歌を置き、思い出の品を後に残して、深い山里や辺鄙な海辺などに身を隠してしまう女もいます。
まだ童であった時、女房などが物語を読むのを聞いて、たいそう気の毒で、思いの深いことだと涙さえ落としたものですが、今思うと、たいそう軽々しくわざとらしいことです。
男には深い愛情があるだろうに分からないふりをして、目の前に辛いことがあるからと、逃げ隠れて男を動揺させ、その本心を見ようとしているうちに、一生の後悔となる。大変つまらないことです。
『思慮深いことよ』などと周囲に褒めたてられて、感情が高ぶると、そのまま尼になってしまうのですよ。
出家を思い立った時はたいそうすっきりした気持ちで、俗世を振り返ろうなどとは思いもしません。
『まあ、なんと悲しいことでしょう。ここまで思いつめて決心なさったのですね』などというように、知り合いが訪ねて来たり、まだ愛情の残っている男が出家をききつけて涙を落とし、召使いや年配の女房などが、『ご主人さまは深い愛情をお持ちでしたのに、あなた様は惜しいことをされました。』などと言ったりすると、みずから短くした額髪を触って泣き顔になるのですよ。
後悔が多いようでは、仏もかえって不純であると御覧になるにちがいありません。
俗世の濁りに染まっている間よりも、半端に悟った状態では、かえって悪道にも漂うだろうと思われます。
前世からの縁が浅くはないので、尼になる前に探し出して連れ戻したとしても、その時のことが恨みとして残ることにならないでしょうか。
悪くも良くも連れ添って、どのようなことも見逃していく仲こそ、前世からの宿縁も深く、愛情も深いというのに、(出家騒動など起こしては)自分も相手も不安な心持ちとなり、しこりが残るに違いありません。」』
要約すると、
「不満があるならその時言ってよ。溜め込んだ末に、とんでもない行動に出ないでさ。言うべきことは言って、不満があっても何となく流していく方が、安定した夫婦になれるんだよ。」
てことでしょうか?
何でも言い合える仲は大事です。喧嘩をしても乗り越えていければ、絆は強くなるかもしれません。
でも、この不満の原因て、浮気ですよね。
そこまで追い詰める男もどうなの?『心ざし深からむ男(愛情の深いであろう男)』ってあるけれど、それ、本当?
いや~、どう見ても愛情薄いでしょう。
『「また、男がよくあるような浮気をしたからと、恨みを露わにして別れるのも、また馬鹿げたことですね。浮気をすることがあっても、男が当初の愛情を大切に思っているなら、夫婦であり続けられるものを、いざこざを起こせば男女の仲は絶えてしまうのです。
総じて、何事にも穏やかで、嫉妬はしても仄めかす程度で、恨み言を言う時にも、憎らしくないようにそれとなく言えば、それによって男の愛情も増すことでしょう。多くの場合、浮気心も妻によっておさまりもするのです。
しかし、あまり寛大過ぎて、男を放任しておくのも、自然と軽い女に思われるでしょうね。繋がぬ舟はどこへ行くか分からないという例えもありますので。そうではございませんか?」
と言うと、中将は頷く。』
・・・めんどくさっ!
浮気は大目に見た上で、ほどほどにやきもち焼いてくれってこと?!
ワガママな!
現代でもこんな人いそうですが。
逆の立場ならどうでしょう。妻の浮気に対して、自分はそう振る舞うことが出来るよ、と言うなら、この人はそういう主義なんだな~と納得しますけどね。
『中将は、
「さし当たって、素晴らしいとも愛しいとも思う人に、あてにできないという疑いがあるのは問題でしょう。自分の心に誤った感情を抱かず、大目に見ていれば、いつかは態度を改めて添い遂げることもあるだろうと思いますが、それも必ずしもそうではない。ともかくも、仲違いするような時があっても、気長に我慢する他ないようですね。」
と言って、妹の姫君は、この議論に当てはまっていると思うのだった。』
『をかしともあはれとも心に入らむ人の 頼もしげなき疑ひあらむこそ 大事なるべけれ』
原文に出てくるこの「人」は、男性側か女性側か、どちらなんでしょう?続く一文の、いつか態度を改めるのは誰?
大筋は変わりませんが、ニュアンスが変わってきます。現代語訳では、両方のバージョンがあったのです。
私は男性だと思います。妻が夫を愛しいと思いながら、すぐに浮気をしてあてにならないとも思い、それでもいつか態度を改めるのではと期待している、と。
逆ならば、夫は妻を愛しいと思っていて、でも嫉妬からツンケンした態度を取られ、それでも大目に見ていれば、いつか態度が軟化して仲直りする、となるんでしょうか。浮気しといて偉そうなんですが、左馬頭と中将くんならあり得るかも・・・。
紫式部さん!どっちですか?!
それにしても、作者に浮気者と断定された頭中将ですが、妹のことは気になっているようです。夫の浮気に対して、理想的な妻の振る舞い方をしている、と思いながら、その夫の反応を窺っています。
肝心の光る君は、都合よくここだけ転寝していて、聞いてませんが。
『「木工にしても、絵にしても、書にしても、ちょっと趣向を凝らして目に付くようなものもありますが、本物の名人の作は、やはり全く違うものです。ちょっとした芸事でさえそうなのに、まして人の心は。なにかの折に気取って見せるような、見た目だけの愛情を、頼みにすることはできませんよ。
その最初の例をお話ししましょう。」』
最後はざっくりカットしましたが、左馬頭さん、上辺に騙されず本質を見極めろ、と言いたいようです。
ようやく一般論が終わり、またもや都合よく目を覚ました光る君を交え、ここから体験談に入ります。




