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源氏物語ってこんな話だったんだ  作者: 紫月ふゆひ
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須磨巻~離京の別れ2~

『二条院にお帰りになると、光る君に仕える女房たちは、まどろむこともなく、世の変わりようをただ嘆いているようである。親しくお仕えしている従者たちは、御供に着いていく決心をして、それぞれ身近な者との別れを惜しんでいるからか、侍の詰所には人影もない。

 訪ねてくるのも重い咎めがあるので、かつては所狭しと集まっていた馬や車も跡形もなく、寂しい有り様で、この世は辛いものだと思い知らされる。

 台盤なども一部は埃がつもり、薄縁(うすべり)(縁取りのあるござ)は所々裏返してある。

(今でさえこうなのだから、まして自分がいなくなった後は、どれほど荒れゆくだろう。)


 西の対においでになると、姫君(紫の上)は御格子もおろさず一晩中物思いにふけっていらした。簀子などに、幼い女童(めのわらわ)たちがあちこち横になっていたのをご覧になり、年月が経てば、こうした人々も散り散りになってしまうのだろうか、などと考えなくてよいことも考えてしまう。

「そのようなわけで、昨日は夜が更けてしまった。いつものように心外なことを考えていたのでは?せめて都にいる間だけでも側から離れないでいようと思うけれど、こうして京を離れる際には、気がかりなことが色々とあるものだから、すっかり家に引きこもっているわけにもいかない。この無常な世の中で、情のない人だと見限られてしまうのも辛いものだから。」

「こんな悲しい目を見るよりも心外の事とは、何でしょうか?」

と、誰よりも悲しげに思いつめていらっしゃるのも、無理ないことである。

 父親王(兵部卿宮)はもともと疎遠に思っていた上に、最近は世間の評判を気にして、お便りもない。人の手前も恥ずかしく、かえって所在を知られないままなら良かったのにとお思いになる。継母である北の方などが、

「降ってわいた幸運も、束の間でしたこと。なんとまあ不吉な。可愛がってくれる人を、次々となくす人ですね。」

とおっしゃっていたのを漏れ聞いて、たいそう情けないので、こちらからもまったくお便りをなさらない。

 他に頼れる人もなく、なるほどお気の毒な境遇である。

「まったくお赦しがないまま年月が経つなら、(いわお)の中にもお迎えしようが、今すぐにでは、ひどく人聞きが悪いだろう。朝廷に咎められた人は、明るい月日の光さえ見てはならず、自由に振る舞うのはとても罪が重いのだ。過失はないが、しかるべき前世の宿業によってこのような事になったのだろう。まして愛しい人を連れて行くのは先例のないことで、ひたすら道理に外れた世の中だから、さらなる罪を加えられるかもしれない。」

など言い聞かせておられる。

 そのまま、日が高く上がるまでお休みになった。』



なんとなくしみじみした雰囲気に流されそうになりますが・・・

光る君に過失がない・・・わけではありません。

謀反の意図があるかどうか、ということなら白ですが。

自分で招き寄せた事態なので、素直に同情する気にはなれないんですよね。

それに対して、紫の上は本当にお気の毒です。兵部卿宮(おとうさん)は、密通事件を起こすまではよく遊びに来ていたはずですが、さすがに関わるのは危ういと思ったのでしょう。無理ないと思いますが、父親としては不甲斐ないです。



帥宮(そちのみや)、三位中将などが訪ねていらした。

 光る君は無位なので、無紋の直衣(のうし)をお召しになるが、かえって優美で、質素であるのがたいそう素晴らしい。

 髪を整えようと鏡台に寄ると、お痩せになられたお姿が、我ながらたいそう気品があって美しいので、

「すっかり衰えてしまったな。私は、鏡に映る影のように痩せているだろうか。」

とおっしゃると、女君(紫の上)が、涙を目にいっぱい浮かべてご覧になる。

『この身は遠く離れても、鏡に映る影は離れずにいますよ』と詠みかけると、『そうであるなら慰められるでしょう』と返される。

 柱に隠れて涙を見せまいとなさっている様子は、やはりこれまで知っている女性の中でもたぐいない人だと、思わずにいられない。


 親王はしみじみと心にしみるお話をなさって、日が暮れるころお帰りになった。』



男性の装束に織り込まれている紋は、位階によって細かい決まりがあったそうです。光る君は、官職だけでなく、位階も取り上げられたのですね。無品の親王よりは、という故院(おとうさん)の深い考えで臣籍に降ったのに、無位無官では故院(おとうさん)の配慮も台無しです。

確かに皇子に対してはやりすぎの処分なのかもしれませんし、光る君も忸怩たる思いでしょうが、自分で原因を作ったわけですしね。


それにしても、『我ながらいとあてにきよらなり(我ながらとても気品があってこの上なく美しい)』って・・・他人が言うならともかく、自分でそう思うものでしょうか。文章のつながりもなんだかおかしいように感じます。まあ、自分が見目良いの、分かってる人ではありますけどね・・・



『花散里のお邸が心細そうなので、いつもお便りを差し上げている。あの人(花散里)も、もう一度会っておかないと、悲しく思うのではないだろうかと、その夜はまたお出かけになる。たいそう夜が更けてからおいでになると、女御(麗景殿女御)が、

「こうして数の中に加えてくださって、お立ち寄りいただけますとは。」

と、およろこびになる。

 この君の御庇護の下でお過ごしになった年月や、これからますます御邸が荒れていくことだろうことを思い、御邸の中はひどく静かである。

 月がおぼろにさし出てきて、広い池や築山の木陰が深くなっているあたりが、心細げに見えるにつけても、人里離れた巌の中が、つい想像される。


 西面では、きっとお越しにならないだろうと、ふさぎこんでいらっしゃった。

 心に染みるような月の光が美しく静かに照る中で、光る君が身動きなさるたびに立つ匂いが、類なく香っている。そっと部屋の中にお入りになると、女君はすこしいざり出て、そのまま月を見ていらっしゃる。

 ここで御話をしているうちに、また明け方近くなってしまった。

「夜の短いことですよ。この程度の逢瀬も、もう二度とないかもしれないと思うと、無為に過ごしてしまった年月が残念だ。」

 月が沈んでいくのが、別れを示しているかのようで、しみじみ悲しく思われる。

 女君の色の濃いお召し物に月が映えて、まるで月まで泣いているようなので、光る君を月になぞらえ、その光を留めおきたいとお詠みになる。光る君は、いずれ罪は晴れるだろうからとお慰めになる。

 鶏もしきりに鳴くので、まだ薄暗いうちにご出発された。』



『あらゆる事について始末をなさる。

 時勢になびかず仕え続けている人々に、御邸の仕事の役目をお与えになる。また、御供としてついていく者たちを、お選びになる。かの地に持っていく道具類は、どうしても必要な物を質素にして、しかるべき書物類や文集などが入っている箱、そのほかは琴一張をお持ちになる。


 お仕えしている人々のことから、領有なさっている荘園や牧場、あちこちの土地の地券など、全て西の対(紫の上)にお預けになる。その他の御倉町や納殿なども、少納言を頼りになる者と見こまれて、親しい家司どもをつけ、取り仕切っていく心得など、さまざまにお言いつけになる。

 光る君つきの中務や中将といった女房は、「つれない御扱いであっても、拝見すれば慰められたのに、今後は何を支えに・・・」と思うが、

「命ながらえ帰ってくることもあろうから、待とうと思う人は、こちらにお仕えせよ。」

と、上下の区別なく、西の対にお呼びになる。


 若君(夕霧)の御乳母たち、花散里などにも、風情ある贈り物はもちろん、実用的なことにおいても、ご思慮が足らないということがない。』



上級貴族の豊かさの理由が少し分かりました。皇族も貴族も、位や官職に応じて朝廷から支給されるお手当はあるようです。下は千五百万から上は四億円ほどまで。それに加えて、富を生み出す荘園や牧場を多く所有する人は、何不自由なく贅沢ができるのですね。家などの維持費にどれだけかかるか分かりませんが、下級貴族でも余裕のある生活はできそうです。光る君は、無位無官となりましたが、私有財産が潤沢のようなので、多分生活には困ってないのでしょう。ただ、謀反の罪で流罪、ということになれば、そうしたものも取り上げられてしまうかもしれません。

こうした私有財産は、どうやら皇族であるより臣下になったほうが得られやすいようです。権力のある人には付け届けも多く、財産が増えやすいのです。

この時代、皇族は政治に関わることができないので、付け届けをしてもあまり意味はありません。有力な後ろ盾もなく相続もないのなら、上級貴族より生活は質素だったでしょう。

末摘花さんが、親王の一人娘なのに困窮していたのは、広大な邸や使用人の生活を維持できる収入がなかったからでしょうね。



尚侍(ないしのかみ)(朧月夜)に、無理をしてお便りを差し上げる。

「逢う瀬なき 涙の河に 沈みしや 流るる澪の 初めなりけむ

(逢うことができず、涙の川に沈んだことが、この身が流されるきっかけだったのでしょう)

それだけが、逃れることのできない罪でございました。」

 手紙を届ける道中も危ないので、詳しくは書いていない。女君はたいそう悲しくお思いになって、こらえても涙が溢れ、御袖で拭いきれないほどであった。


 涙川 浮かぶ水泡(みなわ)も 消えぬべし 流れて後の 瀬をも待たずて

(涙川に浮かぶ泡のように私も消えてしまいそうです。罪をゆるされた後の逢瀬を待つこともできずに)

 

 泣く泣く心乱れて書かれた筆跡はとても味わいがある。もう一度お逢いできないかと思うとやはり口惜しいが、光る君を憎いと思う縁者が多くて、並々ならず人目をはばかっていらっしゃるので、無理にはご連絡もなさらなかった。』



二人とも、懲りてないんでしょうか。

朧月夜さんは、許されたらまた逢いたいと言ってます。周りが見えてないようですね。

雨夜の品定めで、左馬頭さんがこんな事を言っていました。

「ここ七年あまりのうちに思い知りますでしょう。好色で浮気性の女には用心なさいませ。そういう女は間違いを犯して、相手の男の愚かな評判までも立てるに違いないのです。」

こういうことだったんですね。さすが、年の功です。

朧月夜さんは好色というわけではありませんが、立場があるのに思いとどまれませんでした。そして自分も恥をかくことになり、相手(光る君)を窮地に立たせることにもなりました。

そうならなかったのが空蝉さんや藤壺宮さまです。

そうしてみると、あのやたら長かった女性談義も、意味があったんですね。


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