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俺と推しと転生と。  作者: ひつじ
第一章 一人前の魔力使い
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007.聖神の空間術師


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……よし、百回です」


「ごめんにゃさいごめんにゃさいごめんにゃさい…あああ、ひゃっかい!」


数分後、前に二人の美少女をかがませ、カイトは悪人面をしていた。許す代わりに、『ごめんなさい』を百回する、という罪滅ぼしを与えたのだ。


「うむ、よろしい。嘘はダメなんだぞー」


「……あの……なんで私だけごめん、にゃさい、なの?」


ユイが息切れしながらも尋ねてくる。


「あーっとね、それはユイがかわいいからね!! 萌えるんよ、萌え萌え」


「それは、私がかわいくなくて、萌えないということでしょうか。この国の女王に向かって、かわいくなくて、萌えないと」


「ちょちょちょちょ違う違うまさかまさか」


左手に触れようとするルアネスの右手を必死に抑えながらも、カイトは弁明する。


「どちらかというと、ルアネスはかわいいというより美しいというか……」


「なるほどです」


ルアネスが単純で良かった、とカイトは安心する。


「あら、嘘の気配がするのですが、気のせいでしょうか」


「いやいやいやいやいやいやいやまさかまさかままま」


疑うようにこちらを見つめるルアネスに、カイトは手足を高速で動かし、無実を証明する。


「てか、さっき『この国の女王』って言ったよな。ガチで女王なの?」


話題を変えるためと、単純に気になっていたことを聞く。


「確か、はじめ自己紹介を受けたときは魔力協会の女王、って言ったよな。国の女王なの?」


すると、ルアネスは何でも無いというように首を振った。


「ええ、私はこの国、ミアリアスの女王。また、この魔力協会の女王でもあります。しかし、初めて合った者に国の女王なんて伝えると、斬られる可能性だってあったので」


「いやいや、もしその状況なら、多分死ぬのは俺だけど……てか、この国の名前、ミアリアスなんだな」


ルアネスの強さは、先程から見ているし、知っているつもりだ。俺のような凡人を倒すのは簡単なのだろう。


「うふ、とにかく、あなたの魔力がわからないことには、あなたを追放しなければなりませんからね。早く分かってください」


「さっきの話の後にこれ言われたら、説得力ありすぎて怖い」


追放だけは避けようと、カイトは必死に考える。


「そうだ、考えるときの必須アイテム!!」


そう言い、カイトはポケットを探る。


「いでよ! マイ・エンジェル、ユイーーっっっ!?!?」


ユイが印刷された広告の紙を誇らしげに出した瞬間、天と地がひっくり返った。

視界が、壊れたテレビの画面のように虹色になり、チカチカとする。


「ぐあああぁあああっ!?」


意識が途切れる寸前に、カイトの足が地面を感じ、重力が遅れてカイトに押しかかる。

踏みとどまれず、カイトは前につんのめ、何かにぶつかって倒れた。


「きゃ!?!? カイトさん!?」


すぐ近くから愛しい声がし、まだぼやける視界がぶわっと晴れた。


「待って、俺に何が起こった!?」


くらくらとしながらも、カイトは状況を把握しようとしーーー即時、真っ赤になった。


目の前に、ユイがいた。ピントが合わないくらいの近さに、だ。俺は、ユイの上に覆いかぶさるように倒れていたのだ。

目の前に、ユイの桃色の唇。床につくカイとの手と、無防備に力が抜けたユイの手から感じる体温。胸の膨らみが、カイトに当たる。


「ユ……っ!?!?」


カイトの中の男が目覚めようとした瞬間、頬にすざましい衝撃が走り、痩せ気味なカイトの体は軽く吹っ飛んだ。


「い、ば、馬鹿……」


ユイが上半身を起こした状態で、真っ赤な顔をしていた。


「いや、あの、急で、あのその」


カイトは焦り、両手をワイパーのように振った。



「あら。ラブラブなんですね」



ルアネスの容赦ない後押しに、ユイはますます赤くなり、


「も、もう!!! き、嫌いーっ! 女の子なのにーっ!!」


しゅるしゅると黄金の髪が伸び、カイトを呑み込もうと襲ってきた。


「ぎゃーっ、助けて!!!」


半泣きで、まだガクガクとした足を走らせ、カイトはユイの拘束から逃げる。



「まあまあ、いいじゃないですか。……カイト」



ルアネスの指先がユイに向けられ、ユイの髪が静止する。



「あ、わ」


「さんきゅー、ルアネス……!」


なんとか逃げられたことに、カイトは安堵する。


「とにかく、あなたの魔力が分かったからいいじゃないですか」


「え……?」


カイトはぽかんとする。


「魔力? 俺、なんにもしてないけど!?」


「いえ、その拳を開いたら分かります」


カイトは、気づかぬうちに強く握りしめていた拳を恐る恐る開いた。


「あ、ユイの広告の切り抜き……?」


「違います」


あっさりと否定され、カイトはますます頭をひねる。


「ほら、握ってるじゃないですか。ーー『聖神なる大木』の、葉を」


ハッとして、カイトは手のひらを見る。ユイの広告とともに、小さな星型の葉が握られていた。


「あれ、これ……確か、ガチャガチャの周りに生えてた葉っぱじゃ? 紛れ込んだのか……?」


「これは、紛れもなく『聖神なる大木』の葉です。金色の葉脈が見えるでしょう? 絶対の絶対に、そうです」


ルアネスは何度も力説すると、カイトを見た。


「つまり、あなたの魔力は『ワープ』、発動条件は『聖神なる大木』のどこかに触れること……なのでしょうね。きっと、葉などの分離したものも大丈夫、とかでしょう」


「な……なるほど……ってか、ルアネスもワープ出来てなかった!?」


「いえ私は、時間を進めて未来に飛ぶことですから、かなり違いますけどね」


「そう……かあ?」


「ええ。つまり、ワープは数秒の中で出来ますが、私の能力だと、そこまで行くという未来へ飛ぶわけですから、その分老けます」


「それは……俺の魔力の方が良さげだな」


納得するカイトに、ルアネスは近づき、


「動かないでくださいね」


「へ?」


カイトの右手を物理的に止め、ルアネスはその乳白色の手をカイトの手に重ねた。


不意に、手が焦げるような痛みに、カイトは悲鳴を上げた。

実際、手からは黒い煙が上がり、焦げた匂いがする。


「大丈夫です、魔号を焼き付けているだけですから」


「が……い、や、め……」


口から涎を垂らし、瞳孔を震わせながらも、カイトは必死に痛みから逃げようとする。

ユイに首を折られた時よりも、ウズリカに首を傷つけられたときよりも、それらを遥かに超えるような激痛。


「ーー『聖神の空間術師』、魔号12番。この国に命と魔力を捧げることを、ここに命ずる」


すると、焼けて黒く焦げたカイトの手の甲に、くっきりとマークが浮かんだ。おかしなマークだった。死神のシルエットに、天使の輪っかと羽が生えたマーク。


「……これで、命名式は終わりました。……これからよろしくお願いしますね」


ルアネスは、カイトの焦げた手を取って、微笑む。



「……あ、のな、あ」


「はい? どうされました」



「この焦げた、めっっちゃ痛い手……どうしてくれるんだよおぉー!?!?」



カイトの絶叫が、庭中に木霊した。





=============================




「では案内しますね。あなたは、取り敢えず級名無しの状態からスタートです」


「……」


数十分後、カイトは魔力協会の宮殿の中に連れてこられた。大きさは、カイトの通っていた高校の2倍はゆうに超える大きさだ。もちろん中も壮大で、城と言っても過言ではない。というか、それを超える豪華さだ。


「……こんなに金があるのか?」


「ええ、私達魔力使いは、国の象徴のようなもの。英雄ですよ、英雄。税金なども頂いていますしね」


なんてこともないようにルアネスは語る。これまで、気絶するたびに別々の部屋に担ぎ込まれていたため、渡り廊下や吹き抜け、ホールなどは全く見ていなかった。そんなカイトにとってこの異様な広さは、異世界感をますます感じざるを得ない広さだった。


「あなたは魔力使いとは言え、下っ端なので……申し訳ないのですが、2階の狭めの部屋になってしまいます」


横で、私2級、私7階、と自慢するように囁いてくるユイをさりげなく無視し、カイトは頷く。


「ああ、正直何でも有り難い。ほんとは野端で野宿コースだったし」


「じゃあ、犬小屋にしますか?」


「やっぱ性格悪いね、お前!」


包帯が巻かれた右手を、ルアネスにぺちんと当てる。この手には、長い葛藤と物語が繰り広げられた。

どうやら、この焦げた手は時間が経つと治るらしく、ルアネスが手の時間を進めてくれたのだが、誤って(?)80年後へと飛ばしてしまったのだ。しわくちゃになった手を見て絶叫するカイトに、ルアネスが今へと戻してくれたのだが。

しかし、時間を操ることは、数回かつ短い時間ならば安全で便利なのだが、何度も使ったり、長い年月飛ばしてしまうと、人体に影響があるらしいのだ。カイトは、2度タイムワープした挙げ句、80年もの時を旅してきたのだ。これ以上繰り返すと消滅する危機があると言われたため、こうして気休めに包帯を巻いているわけだ。


「しっかし、疑わしいんだよなあ。ほんとに間違えて80年飛ばしたのか?」


「ふふふ、素敵な推理ですね」


定型文の逃げ言葉に、カイトは唇をへの字に曲げる。


「私はわざとだと思う!」


「だよねユイ!! さすがユイは分かってる!」


ユイの声に、カイトはこくこくこくこくと首を動かす。


「だって、カイトが馬鹿だから!」


「今ので台無しなんだけどね!?」


ユイはくすくすと笑い、歩を進めた。


「なんでみんなこうなのかね……」


愚痴をつぶやくカイトに苦笑しながらも、ルアネスは立ち止まった。


「さて、着きましたよ。本当に狭いんですけど」


その部屋は、角部屋のようだった。大きな朱色の扉は、威厳が合って格好いい。


「鍵はこれなんですけど……」


そういい、ルアネスが鍵を鍵穴に差し込む。

ぎい、という音と共に、扉が開きーー



「う、っそだろ……」


学校の教室10個分程の、十分すぎる、広すぎる空間が広がっていて、カイトは空いた口を塞げずにいた。



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