表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と推しと転生と。  作者: ひつじ
第一章 一人前の魔力使い
6/9

005.女王様の目論見


「すぐに、出ていって」


異世界で、推しの部屋にて。

出だし早々推しに睨まれ、カイトはすくみ上がる。


「まあまあユイ、そんな怒らないで……」


「……っ、ルアネス様、申し訳ございません。しかし、どうしても男は苦手なのです」


辛そうに俯くユイを見て、ユイにも男を嫌う深い理由があるのではないかと感じる。


「ユイ、その事なのですが……」


しかし、カイトは、ある戦略を持ち出した。

カイトは、ユイに一歩近づく。ユイは、腰掛けたベッドの中で小さくなり、カイトを睨みつけた。


「ーーユイ、俺は」


「……な、に」


ユイの瞳に不安と恐怖が映る。カイトは息を吸込み、最大の切り札を口に出した。


「ーーーし、なんだ」


「……は?」



「俺……女子なんだよね!!」



ユイがぽかんとし、カイトを見つめる。あまりにも見つめるものだから、カイトの頬が赤く染まる。

そう。これが、カイトの戦略、名付けて『男子が嫌いなら女子になれば接近できるんじゃないか戦法』なのだ。方法は簡単。女子になりきる。それだけだ。

カイトの顔は、誰もが納得する女子顔だ。これならいける、とルアネスにも(しぶしぶ)了承してもらい、今に至る。

その結果はどうなのかというと、ユイは大きな目をさらに大きくし、唖然とした顔だ。


「じょし……」


「えーと、うん、そう、女子。ルアネスと同じくペチャパイなのは見逃してほしいんだけど、正真正銘、女子!!」


「女王に向かって一言多いんです、殴りますよ」


「もう殴ってるじゃん!!」


カイトの横腹をかなりの強さで叩くルアネスをなんとか引き離し、カイトはユイに向き合う。ようやく見ることができた、最愛の推し。彼女と接近できるのならば、カイトは虫にでも鬼にでも女にでもなるつもりだった。


「……」


ユイは黙ったままだ。いたたまれなくなり、カイトは何歩か後ずさった。


「あの、ごめん、そんな迷わせたり困らせたりする気は……ーーーーっ!?!?」


瞬間、天と地が動転し、カイトの魂が世界を百周して返ってきた。


何が起こったのかもわからず、カイトは息をするのも忘れる。

体が浮くように軽く感じるが、その胸には重くて柔らかくて暖かいものが抱きついている。


「ーーごめんなさい、さっきは捕まえたりして……」


すぐ近く、カイトの胸の中から、甘えたような、可愛らしい声がする。


「許して、くれる?」


推しが、自分に抱きついて、いた。



「ーーーーっっ」



体がふうっと後ろに倒れる。



「んわっ、大丈夫!?」


さらに強く抱きしめられ、鼻血がじんわりと垂れるのを感じる。


どうやらカイトの戦略は、成功したようだった。

いや、大成功、大きな花丸付きのようだ。




=============================




「そしてですね、話があるのです」


「……んああ」


鼻血大量噴出後、ティッシュを鼻に詰め込みカッコつかないことこの上ない姿と声で、カイトは応じた。


「カイトさん、大丈夫? 顔赤いけど」


「うあああだいじょうび!!」


横からする可愛らしい声に、カイトは飛び上がる。


「ふうん。おかしいの」


至近距離から、大きな瞳が覗き込み、またもや卒倒しそうになる。


ユイとの感動の出会いの後、ルアネスに『場所を変えて話すことがあるのですが』と言われ、ルアネスの部屋へと移動した。ようやく打ち解けられたユイと離れるのが嫌だというのと、美少女と二人っきりになるという精神的ショック(いい意味)に耐えられるか不安だったが、その悩みはあっさりと解決した。


「この話し合いにユイも参加してほしいのですが、可能でしょうか」


ルアネスの発言のお陰で、こうして今、部屋で三人向かい合っているわけだ。



「にしても、ユイさま……ユイ、ほんとにかわいい……なんなの……」



「女の子に言われてもなあ。でもありがと」


見ての通り、ユイはカイトが女子だと言った瞬間、ころっと態度を変えた。まるで別人みたいだと、すぐ横の椅子に腰掛けるユイを見つめる。


「……話をしてもいいですか?」


「は、はいっ!」


ルアネスからの冷たい視線に、カイトは瞬速で返事をした。


「それでですね、本題に入らせてもらいますが。……カイトさん。あなたが敵でないことはわかったとしてですね」


先程の愛らしさはすっかりと消え、辺りを凍らせるような美しさがルアネスを取り巻く。

魔力学院の女王らしく、ルアネスの瞳には迷いなどなかった。その瞳には何の感情も灯っていなく。


「あなたは、何者なのですか?」


「……っ」


一番聞かれて困ることをずばりと聞かれ、カイトは軽く唇を噛む。

カイトは脳細胞を最大限働かせた。


「……」


横で、ユイがカイトをじっと見つめている。つられてユイの方を見ると、ユイの顔に不安が浮かんでいるのが見えた。


ーー推しをこんな顔にさせるなんて、推し活失格だ。


それは嫌だ、とカイトは息を吸い込む。


「俺はーー三次元から来た」


「……?」


カイトはあえて、嘘ではなく事実を伝える。これ以上嘘を重ねたくない。

ルアネスは、カイトを見据える。まるで、心の中を見透かすように。

カイトは、言葉を慎重に選びながらも話す。


「嘘じゃない。三次元の世界から、来たんだ。こことは違う、新たな世界から」


「……根拠は」


「っえ……っと」


逃れられないような眼差し。きっと、言葉を間違えたら、追放されてしまいそうな、そんな恐ろしい光がこもっている。さっきとは打って違う気配。カイトは必死に証明する方法を考える。


「……あっ!!」


根拠を探すため体中を探っている途中、ポケットに入った紙に指が触れた。指で摘み、急いで引っ張る。


「……?」


「これが、証拠だ」


ルアネスは、目を大きく見開いて紙に見入る。覗き込んだユイも、驚きを隠しきれない様子だ。


その紙はーーカイトの宝物である、『マジカル』の広告だった。


「わ……私が、載ってる?」


ユイは、呆気にとられてつぶやく。


「……これは、三次元でプリントアウトされたものだ」


「ぷりんとあうと?」


どうやら、マジカルの世界では、カタカナは通用しないらしい。


「ああ、プリントアウトね。しかも色がついてる……三次元ってかなり進んでるのね」


ルアネスがつぶやく。カタカナは、ユイの頭の悪さが原因だったようだ。


「ユイ、あのだな、プリントアウトってのは、えーっと……印刷、みたいなやつ」


「いんさつ……」


しばらくキョトンとしていたユイだったが、印刷という言葉で納得したのだろう。コクコクと頷く。


「印刷、か! あの高価な」


「? そんなに高くはないけど……」


確か、50円とかそれくらいだったはずだ。言うほど高価ではないことは確かだ。


「な、何言ってるの、カイトさん!? 印刷、超高価だけど……しかも、色なんてつかないよ?」


ユイが驚いた眼差しでカイトを見た。


「ええ、プリントアウトは白黒で、一枚で1000パル程はしますからね。なにしろ、刻印石が希少ですから」


「ーーぱる、ってのは、金の単位? ……だよね? それに、刻印石て……いかにもファンタジーじゃん……」


「ええ、パル。ご存じなくて? ……嘘の気配は感じませんので、本当に知らないのですね……やはり、別の世界から来たということでしょうか」


ルアネスの白い瞳から力が抜け、カイトは崩れ落ちる程の安堵感を覚える。


「……うん、そう。ちなみに、これは広告ってやつで、この世界についてまとめられてる。ユイとの出会いはここからだった……」


「えーと、なんだか気持ち悪い」


「ぐっ、傷んだ心にクリティカルヒット……」


ユイの率直な感想に胸を痛めながらも、カイトはルアネスを見た。


「……で。そんなこと、わかってたんじゃないのか?」


ルアネスの顔が僅かにこわばる。

どうやら、ルアネスには真実か嘘かを見極める『魔力』があるらしい。それならば、カイトの発言などから、カイトは陰謀者などではなく、害のない人物だと分かっていたはずだ。もしかしたら、カイトがこことは別の世界から来た、ということも。

それに、この話し合いにユイを参加させた理由が不可解だ。ユイがいたらカイトが暴れることなく話が進められる、という意味ならば意味は成すが、それはあまりにも無謀だ。そんな事に、わざわざユイを呼ぶ必要があっただろうか。


「ふふ,気づかれてしまいましたか。ーーー実は」


ルアネスは、薄い桜色の唇に笑みをたたえた。




「この国を守るため、あなたに『魔力使い』になってほしいのです」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ