004.はじめまして、あなたを推してます
「頼む……全て、教えてくれ!!」
「あの、カイト……私のこと全部教えて欲しいとか……正直に言わせてもらって、気持ち悪いです」
「ち、違う! そういう変態な意味じゃなくて!!! てかめっちゃ傷ついたよ!? グサッ」
「あっ、えと、あの……?」
数分後。
カイトの脳は、とうとう限界に突入。これ以上たまると噴火するおそれがあるということで、美少女ーールアネスに、全てを聞き出そうと思ったのだ。
「ってことで。まずだな、なんで俺を助けてくれたんだ? てか、はじめに助けてくれたのは誰なんだ? 俺、ユイ似の女の子に殺されかけてたんだけど」
「『聖神の大木』の側に倒れていたあなたを捉えるよう命令したのは私ですが、殺せとまでは言っていません。そして、あなたが殺される寸前に、引き上げて治療するよう命令したのも、私です」
「悪役なんだか救世主なんだかはっきりしないな……」
引き金を引いたのも、治療したのもルアネスなわけだ。カイトはげんなりする。
「あら失礼な」
形の整った眉をひそめ、ルアネスはため息をつく。
「そりゃあ、面識がなく、さらに『聖神なる大木』に触れられるものなど、陰謀者くらいですから」
「さっきから、『聖神なる大木』って聞きまくってる気がするんだけど、それも何?」
「あなたはボケているのですか。それとも脳内で爆発でも起こったのでしょうか?」
「それ、侮辱でしかないよ!?」
ルアネスの容赦ない指摘に、カイトは精神的ショックを受ける。
「まあ、いいでしょう。きっと頭でも打たれたのですね。……『聖神なる大木』とは、この国の象徴でもあり、神であり、守護神でもあるのです。どうですか、思い出しましたか?」
「……アア、思い出したヨ」
その場を取り繕いつつ、カイトは次の質問へ移る。
「ってことでだな、次の質問だ、ルアネス! ここはどこだ?」
「……ここは、アルグリンという街です。魔法協会の本拠地でーー」
「待った! 魔法協会って、なんだ!? もう、わけがわからん……」
「あの、落ち着いて……」
頭を抱えるカイトに、ルアネスが焦ったように声を出す。直視はできないものの、対応や仕草、気配で美しさを感じ取る。
「ーーああ、うん。少なくとも、さっきまでいた街は、アルグリンなんてお洒落な名前ではない。ってことはーー」
彼の故郷でもある、先程までいた街は、山吹街といった。大してお洒落でもない。どこにでもありそうな名前。
少なくとも、アルグリンなんて名前ではないことだけは確実だ。つまり。
「ーーーやはり、転移だ」
「……てんい、ですか?」
「ああ、転移。あのレバーを回したら、飛んできちゃったっていう……」
「……はあ……?」
ルアネスの唖然とした顔に、カイトは軽く吹き出す。というか、笑わずにはいられなかったのだ。
「俺、ガチで転移しちゃったんだ!? こんなの一生に一度の経験。楽しまなきゃ損ってやつだ」
ここまでくると、認めなければならない。自分は、怪しいガチャガチャのレバーを回し、この世界に転生してしまったのだ。
カイトはポジティブシンキングを発動し、前向きに考えることにする。こうとなれば、聞きたいことも沢山出てくる。
「話を止めてごめん、もう大丈夫だ。で、魔法協会っていうのは?」
「……えっと、なにが大丈夫なのかわかりませんけど、続けますね。魔法協会とは、『魔力』を持つものーー『魔力使い』が集められた場所です。ここで魔力使いは、その力を極めるために特別な教育を受けるのです。そして、私はそこの女王なわけです」
「……魔力」
ーーこの言葉はさっきから何度も聞いていて、聞こえないふりをしていた言葉だ。
この言葉を、前から知っている気がする。いや、確信した。
カイトは、この言葉を知っている。
「色々聞きたいことはあるんだけど」
カイトはそう言い、すうっと息を吸った。
「ーーーここに、ユイという女はいるか」
もしかしたら、いや、もしかしなくても。
ここは、『マジカル』の世界、なのかもしれないのだから。
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とんとん、とノック音が響く。
「はい」
その声に、カイトの緊張は絶頂へ。
「ルアネスです。入ってもいいかしら」
「る、ルアネス様、ええもちろん……って」
部屋の扉が開き、光が漏れる。
その空色の瞳がカイリを映した瞬間、扉の先にいた少女の体がこわばった。
「……それって」
「ええ。ーー私が引き取った、『裏切り者』のようなものです」
「いや、つい数分前、違うって証明されたよね?」
裏切り者予備に不服さを感じながらも、カイトは目の前の少女と向き合った。
転生直後に見た少女。いや、それよりずっと前から知っている少女。
「ーーーユイ」
カイトの足は、ゆっくりと進む。指をそっと伸ばし、少女に頬に触れようとしーー
「さ、触るなーっ、陰謀者がっ!!」
ばちーんと叩かれる、カイトが伸ばされた指。
「えーえっとですね、」
女王としての威厳はどこへやら、ルアネスは大袈裟に身を引く。
「……こちらが、『黄金の拘束』。ユイ、魔号6番、2級魔力使いです」
推しとの初対面は、こうして最悪な形で歴史に刻まれた。
ーー数分前。
「……ええ。ユイなら、います。魔号6番ですが」
ごくりとつばを飲み込み、カイトは初めてルアネスを直視する。
「い、るのか」
「ええ。……しかし……」
ルアネスの歯切れが悪くなり、カイトは彼女を急かす。
「ちょっと、死んだとかじゃないよね? なんどそんな歯切れ悪いわけ!? どーして!」
「まあ、落ち着いて。……ユイはかなーり、男を嫌っているんです」
ルアネスは、困ったように眉をひそめた。
「だからカイトさんも、かなり酷い対応を受けるんじゃないかと。あなたがユイに拘束されていた時にでもわかったのではないでしょうか? 相手が女子ならば、あんな手荒な真似はしませんし、乱暴に魔力を使ったりしないのですが」
「っ待て待て。お前、俺が男だって分かるの?」
話を強引に止め、カイトは疑問を提示する。これまで、見た目でカイトを男子だと判別した人はゼロに等しい。口調は完全に男子なのだが。
「ええ。そのような気配を感じましたから」
「俺のオーラってすごいのな!? いや、それを見破るお前がすごいのか!?」
自分のオーラに自惚れしながらも、再びカイトは口を開く。
「いえ、1級や超級の魔力持ちならば、大体はわかりますよ」
「なんだ、その級」
「魔力使いのレベルです。下から順に、6級、5級、4級、3級、2級、1級、超級です。いわば、5,6級が初級、3,4級が中級、5,6級が上級、超級は超級です」
「最後だけ適当だな……。まあとにかく、ユイは、男子嫌いってことか。あれ、この台詞、どっかで聞いたような?」
「なぜまとめがそれなのか、全くわかりませんが。……ああ、ウズリカですか。彼女は……ユイと違って、ある理由があり男子が嫌いなので、ユイとは違いますよ」
そう言い切ると、ルアネスは口を閉ざしてしまう。「これ以上は話さない」と決め込んだ顔つきだ。これ以上突っ込むのは無理そうだと、カイトは話の矛先を違う方向へと向ける。
「と、とにかく、だな。……ユイに、会いに行くことはできる?」
「……あなたを敵ではないとは判断しましたが、さすがに我らの宝である『魔力使い』とよそ者を会わせるのには、気が引けます」
ーーこうなったら、あれを使うしかない。
構えのポーズをとり、ルアネスへと向き合う。
「な、なんですか……」
丸い目に最大限の愛らしさを含み、両手を胸の前で合わせ、治してもらったばかりの首を軽く傾ける。
んん、っと咳払いをし、カイトは、小さく息を吸った。
「ルアネスちゃん……」
「……?」
「おねがーい??」
老若男女問わず一撃瞬殺の必殺技、『おねだりポーズ』を、最大限のカワボでぶち込んだ。
ルアネスがカイトを連れてユイの部屋へと足を向かわせるのに、そう時間はかからなかった。
プロローグ含めて五つ目の投稿です。
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