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俺と推しと転生と。  作者: ひつじ
第一章 一人前の魔力使い
3/9

002.殺人予告



「……って、言うわけなんだけど」



「……」



「……疑ってらっしゃるようだけど、あの、ホントだよ? それかなに、俺がアホって言いたいの? いや分かってるつもりなんだけどね? ……と、とにかく怪しくないっていっぐぅぐああああ」



みしっと体が悲鳴をあげ、口からも雄叫びがあがった。

只今、カイトを拘束する少女へ身の潔白を証明したら、殺されかけてやばいなうである。



「黙ってなさい。でないと、即座に殺す」



「何時代!? そんな事したら無期懲役よ!? 俺のストーカー罪より遥かに高いけど?」



叫び、ツッコミを入れながらも、カイトは今の状況を飲み込もうとする。

辺りは、自然に囲まれた森、といったところだろうか。この状況とは裏腹に、小鳥のさえずり、虫が跳ねる音が鼓膜を癒やす。

背中には、ずっしりとした頼もしい存在。弱々しく振り返ると、自分は大木にもたれていたことが判明した。かろうじて動かせる右手で幹に触れると、不思議と落ち着いた気がした。この絶体絶命、かつ摩訶不思議な状況だというのに。



「たしか俺は……レバーを回して……なんだ、これ、悪の組織にここまで運ばれたか? え、もしや転移ってやついでえええっええ!」



「黙れと、そう言ったはずよ。あと、『聖神なる大木』に触れるな」



「でへ、すいません」



「気持ち悪い、失せろ」


ますます力がかかり、強引にカイトと大木が離される。地面に叩きつけられ、ミシミシと体が鳴った。そろそろ限界、意識が覚醒し、現実を受け止める覚悟ができる。


先程から、と言うか目覚めて数秒後から、カイトはこの少女に拘束されている。

経緯は簡単。小学生の頃、「知らない場所で迷子になったら、大声で助けを呼びましょう」という教えのままに、名前と住所、タイプを叫んだまでだ。すると即、比喩なんかではなく光の速さでこの少女が駆けつけてきたのだ。

しかし、冷徹に、カイトをゴミかなにかのように見据える少女に、へらへらと「どうも」という気にはならない。

それより今は、この拘束を解く方法を考えなければいけない。でなければ、死ぬ。間違いなく、死ぬ。ゴリゴリ男子の数百倍の威力、いや、それをゆうに超えそうだ。

少女は、カイトを敵かなにかと勘違いしたらしく、ガッチリと拘束、縛り付けている。


なぜか、髪の毛で、だ。


どういう仕組みか知らないが、黄金に輝く髪は、少女が駆けつけた時は腰ほどだったのが、今は十メートルはゆうに超える長さに伸びているのだ。そして、しめ縄のような強度で、カイトを殺しかけている。全く意味がわからない。


ーーそして。



「あのーー……」



「言葉を発するなと、告げたはずだ」



「うがっ……」



増す痛みにあがきながらも、カイトは少女の顔を見つめた。


ーーーこれは。



「……ゆ」



「なんだ」



カイトは、ゆっくりとつばを飲み込み、



「ゆ、ユイ様!!!!」



「はあ?」



少女は眉を寄せる。しかし、そんなことは構わなかった。なぜなら。



「さっきからずーーっと思ってたんだけど、ユイ様そっくりなんだけど!!! もしかして、さっきの女の子!? そうなの!? まさか会いに来てくれたの!?」



そう。我が推し、ユイにそっくりなのだ。

変質者のように、タイプを大声で叫ぶカイトのもとへ駆けつけた時の、髪の長さ、色、ツヤは、まさに、推しであるユイそのものだった。

髪の触覚(と呼ぶのだろう)は、淡い桃色に染まっており、可愛さを増し増しさせている。また、透き通るような淡い空色の目。真っ白な肌。細い脚。そっくりそのままユイだ。数日で色褪せ、しわしわになるほど熱血して観察した広告を思い出す。



「……でも、そうだとしたら、俺は、『マジカル』の中にーーぐはっ」



こき、というあまりにも軽い音。続いて、激痛が体中を駆け巡った。



「……戯言。先程から、不快なんだけど。次なにか言葉を発したら、首の骨どころでは済まないから」



首の骨を折られた、という事実を飲み込む間もないほど、カイトは激痛に嗚咽をあげる。喉の奥から痛みは手を伸ばし容赦なくカイトを襲った。口から血が流れる。息をすることすら許されない、今までに味わったことがない激痛。視界がぶれ、焦点が定まらなくなる。


ゆらぐ視界の中、ユイ似の少女は、桃色の触覚に触れる。ぴり、と空気が固まるのを感じ、カイトは身を震わせる。



「ぐ……ゆ、ユイ様似の方……そろそろ、放して、くれ、ても、いいんじゃ……」



「……ここを発動してもいいのだけれど、あっさり死なせるのも癪」



「助ける気、ゼロ……がぁっ」



あえぎながらも訴えるカイトに、少女は辛辣に言い放つ。



「代償を消費するのがもったいない。なにかもわかってないっていうのに」



口調が、独り言のように変わる。


ーー発動? 代償?


首から走り続ける痛みをふと感じなくなる。意識が朦朧とし、頭がぼんやりとし始める。これは、幻聴なのか。

そもそも、ユイのような超絶美少女がいるわけがないのだ。

そして、この少女はユイではない、とカイトは思う。ユイはもっとかわいくて、優しいはずなのだ。こんなに意地悪で、殺人鬼みたいな怖い顔はしないだろう。


きっと、これは夢だ。この痛みも、きっと作り物だ。大丈夫、大丈夫。

ただ、理想の姿を反転したような性格の推しに会えたという、儚い夢なだけだ。



「……死になさい」



「あ……」



カイトは意識を手放した。





=============================




ーー世界に明るさが戻る。


暗闇だった世界が、段々と明るく輝く。



「あら、お目覚め?」



いきなり響いた美声に、一瞬目眩がする。カイトは、うっすらと目を開きーー



「っうわあ! 近っ!?」



すぐ側に美少女の顔があり、カイトは飛び起きた。頭が急激に冷やされる。

ユイ似の金髪の少女に髪で締め殺された記憶が蘇る。しかし今、カイトは肌すべりのよいベッドの中。謎の美少女付き。



「って、待て、俺、死んだんじゃ……てか、さっきのは……夢、か? なんだったんだ……?」



「やあだ、首の骨折れたくらいで死なないわよお。治癒魔力で、ある程度戻ってるわよ。それに、夢? 何を言い出すの」



その美少女は、くすくすと笑った。わけがわからないが、どうやら、死は免れたようだ。

安心し、力が抜ける。そして、美少女を存分に眺め回す。黄緑色のボブヘアーに、セルリアンブルーの丸い瞳。かわいさと美しさを足して2で割ったような、バランスの良い美少女、というやつだ。



「……てか、待て、待て待て待て。治癒魔力だあ!? まさか、まだ夢の中? まず、こんな美少女、現実にいるわけないよな。なら、夢か! さっきの続きか!? じゃあ、ユイ似の少女もいるのか! どこだ!?」



「なあに、急に元気になっちゃって。そんなにめずらしいかしらあ」



「そりゃ……てか、お前、誰だ!? ……わっ!?」



急に、美少女がぐいっと顔を近づけきて、カイトはぎょっとする。カイトと美少女の顔の距離、およそ五センチ。ドキドキを通り越して恐怖が込み上がる。



「ままま待って、美少女にふぁーすときす取られるとか夢のまた夢なんだけど、実際やられるとなると……」



「んー、何の話い? キス? しないわよ」



美少女は、そういうと静かに立ち上がった。



「女の子にキスなんて初めてだしい、うまくできる自信ないしね」



「……!? え、あ、あの、俺、おと……」



言いかけたカイトを遮るようにして、美少女はため息をつく。



「というか、私、男の人は苦手なのよね。見ると、気づけば首を切っちゃってたりい」


「とんでもないサイコパス!!」



実は俺、男子なんですよねーあはは、と言いかけていた自分を、カイトは慌てて引き止めた。口にしていたら、カイトは有無なく首をもぎ取られていただろう。なぜか、カイトにはそれがわかった。この美少女はほほえんでいるが、全く目が笑っていない。

この美少女からは、美しさとともに、冷たい『殺気』を感じるのだ。それに、自分の状況が、未だによくわかっていない。



「あなた、名前は?」



「み、三雲、カイト!! タイプは脳内のユイ様みたいなかわよい女子っ!!」



「あらあ、おかしな自己紹介。たい、ぷ? すんごく素敵ね、いいじゃない、いいじゃない、たいぷ」



「いや、絶対意味わかってないでしょ……」



「ふふふ。ーーそれでえ、カイト」



さりげなく話をそらしながらも美少女は、カイトの胸ぐらを軽くつまんだ。

そして、一気に引き上げた。



「ーーーぐっ……!?」



ものすごい力だ。軽くつかんだその真っ白な手には血管一つ浮かび上がらず、まるで軽いものでも持

ち上げているようだ。

美少女の顔が、カイトの顔にぶつかるほど近づく。



「な、に……」



美少女の手に持ち上げられるようにして、カイトは宙ぶらりんになっている。自由がない。カイトはなんとか脱出しようともがく。



「な、んのつもりだよ……っ」



美少女はその様子を見て、唇を持ち上げ、微笑みながらも告げた。



「なんのつもりって……殺す以外のなにがあるのかしら」



カイトの力が滑るように消える。



「さて、裏切り者さん。死に方に希望はあるかしら」



無機質な金属音が、部屋に響き渡った。


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