000.プロローグ
「・・・・・・はあ」
ぐしゃ、と紙を潰す音がする。つぶされた紙の山。乱暴に叩きつけられ、紙が悲鳴を上げる。
脇目も振らず、その人は新たな紙に向かう。
暗やみの中、その人はかきつづける。
かいて、かいて、かいて、かいて、かいて、かきづつける。
手から血が滲み出し、血走った目をして、その人はかきつづける。
「・・・・・・」
やせ細った体。やつれて、骨ばった体は今にも折れそうだ。
それでもそのひとはかきつづける。かかなければならないのだ。
ふいに、ぱた、とか細い音がなった。
机から、その人が握っていたペンが転がり落ち、派手な音を立てる。
「もう……つかれた」
そう、その人はつぶやく。
目の下のくまが、痛々しいほどに黒ずんでいる。
「・・・・・・そうだ」
突然、その人はにたりと笑った。その姿は、奇怪そのものだった。
「・・・・・・が、・・・・・・れば」
その声は小さく、誰にも届かない。
「もしかしたら・・・・・・これで・・・・・・」
私が救われるかもしれない。
その人は、嗤う。狂ったように、嗤った。
ごとん、とインクが入ったビンがたおれる。漆黒が、散らばった紙に広がっていく。
その人は、そのインクを指ですくった。そのまま、黒く濡れた紙に書き付ける。
『最後にわらうのは、漆黒の創造神だろう』
そう乱暴にかきつけられた紙は、風に揺れて静かにはためいた。