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【日常を無駄に壮大にしてみたシリーズNo.1】水道水を飲む

作者: はいじん


不意に込み上げてくる。この込み上げてくる感情は一体なんだ……乾ききった世界を俯瞰しながら空っぽになった器を手に取り、潤いを求めて立ち上がる。聞くところによると、オアシスに辿り着くまでには北に向かって7歩程度歩かなければならない。しかし、ただ進むだけではなく道中に行く手を阻む巨大な壁が存在すると言う。幾多の人類がこの壁に絶望したと聞く。だが俺は違う、見たところ妙な仕掛けがあるようだ。俺からしてみればただの子供騙し。この妙な出っ張り……俺じゃなきゃ見逃してたね。どおりで人類が絶望するわけだ、壁は明らかに登れるような構造にはなってない。それに加えて上を見上げても左右を見渡しても壁の向こうにアクセスできるような抜け穴は存在しない。普通ならここで諦めるだろう。俺は一目見てこの出っ張りが怪しいと気付き、手に取った。これは……!!なんとなくその出っ張りを己の意のままに捻る。


開く……開くぞ……!!


やはり俺はただの人類ではなかったようだ。壁を難なく突破し、もうかれこれ3歩は歩いたことだろう。意識が朦朧とする中、ここまで辿り着いたことに優越感に浸る。既に限界が近いようだな……この程度で優越感に浸ってしまうとは……


そしてついに、5歩目に差し掛かった瞬間……全身の毛が逆立つような激痛が走る。新手か……こんな所にワナを……やはり俺以外にあのオアシスに辿り着いていた奴が居たか!やられた……壁を突破した優越感で警戒心が薄れてしまった。そうか、恐らく俺がこの壁を突破する事などお見通しだったという事だな。人類の深層心理をよく研究してやがる。恐らくここを突破した奴は俺以外に何人か居るはず、そいつら全員もれなくこの罠にしてやられている……その証拠に、この先に人が通った痕跡がない。恐らく罠に恐れおののき引き返したのだろう。無理もない。こんな過酷な道のりになるなんて思ってもみなかっただろう。残りの2歩で罠が無いとも限らない。その度にこんな激痛を味わうなら……いっその事そのまま干からびてしまいたい。俺も危うくそうなるとこだった。


だが俺は諦めない。


残るはたったの2歩。どんな罠が仕掛けられていようと俺は自分の足で必ずオアシスまで辿り着く。俺は恐る恐る1歩を踏み出す…………!無い!?何も無い!?勘違いか?俺は今本当に生きているのか?思わず疑ってしまう。自分の五感が今全て失われているのではないかと……それもそうだ、既に5歩も歩いている。自分が今この世に居るのかあの世に居るのかすら区別がつかないところまで来ている。惑わされるな……あと一歩……!


そして俺はついに辿り着いた。


はは……ははは……喜怒哀楽のどれにも当てはまらない笑いが込み上げてくる。自分でも感じたことがない感情だ。俺は自分自身をまだ過小評価してたのかもしれない。俺が辿り着けるなんて……何処かでそう思っていたのかもしれない。でも俺は辿り着いた。間違いなく。オアシスに。俺はまだ信じられないのか、目を擦り、数秒間目を閉じ、深呼吸をした。そして目を見開き目の前に広がる世界を受け入れた。


ふ……汚ねえオアシスだな。


安堵に満ちた微笑みで薄汚れたオアシスを見つめる。間違いない。ここだ。だが水はどこにも無い……あるのは金属の謎の管みたいな物体。まさか!ここから水が……?壁を突破した時の直感が再び芽生える。この出っ張り……見たことがある……そうか!!俺は瞬時に閃いた。あの扉の仕掛けと全く同じなら……そう思い出っ張りを強く握る


……!!


ビクともしない……何故だ?予感はしていた。そう簡単に行くもんじゃあねえよな。今までもそうだった。これまで数多の試練を乗り越えた。そんな俺がここで?いいや違う。乗り越えろ。こんな仕掛け……クソ喰らえだああああ!キュ


ブシャーーーーー


水……水だ……!!やった!やったぞ!!うおおおおおおおおおお。


意識が飛びそうになってた事なんて忘れてしまった。俺はひたすら叫び、浴びるように水を飲む。乾ききった俺の全てが潤って行く感覚。世界が潤いを取り戻し、コントラストが見る見るうちに高く、高く……彩られてゆく。俺の住む世界は、こんなにも美しかったのか……はは……ははは……歓喜に満ちた笑いが込上げる。俺はひたすら「Water!!」

と叫びながら更に自身を潤してゆく


Water!! Water!! Wateeeeeeeer!!!!!




そして壁から「ドン!」と言う音が鳴り響き、俺は静かに我に返ることとする。

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