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硝子玉  作者: たくひあい
3/4

おまけ

     ◆◇




「ピエロって好き?」




そう、クマに、

九ノ津まことに聞かれたことがあった。


ボクは嫌いだと言った。

クマも、嫌いだと言った。


目の前の白い子は、道化のような白さに、共感のようなものがあるのではと勝手に思っていたボクは、驚いた。


「わからない、泣いてるか、ですよ、笑うか」


そう言って、キャフフフ、と独特の笑いかたをした。




それはまるで、自分のようで、挑発されているみたいに感じるのだという。     ◆◇




「人外って好き?」




そう、ぼくは、

九ノ津まことに聞いたことがあった。


ネネちゃんはと聞かれたから嫌いだと言った。

九ノ津まこと……クマも、嫌いだと言った。


目の前の白い子は人外じみた白さがあり、共感のようなものがあるのではと勝手に思っていたボクは、驚いた。


「だって、畏怖されて、恐怖されて、萎縮されて、


痛ましいよ。


痛ましいのは、私たち自身、自分だけでもおなかいっぱいだよ」


そう言って、キャフフフ、と独特の笑いかたをした。




それはまるで、自分のようで、挑発されているみたいに感じるのだという。






2.楽しいお話(1/5)


やっとあなたから、

解き放ってあげられた。

敵、って言ったのよ。

敵なの。





「長い夢だったな」


夢に出てきた『彼』

の死の間際の彼の部屋にあった紙にあったのは、まるで孤独なんてないというような、言葉らしい。

 綺麗事に騙される『彼』が嫌いになった。

孤独はどうやったって美化できないという、皮肉の言葉。



「それでも孤独は孤独だよね、踊君。

何を言ってるのか、って全否定できなくちゃダメダメ」


死んでいる彼の写真を何度も破る。自殺を選ばないだけ、彼は強かったなというのが私の感想だった。

感情に惑わされて自殺なんかする人でなくて、本当によかったと思うのだ。


「くまさん。くまちゃん。どっちだっけ……? どっちだっけ、どっちだっけ」


記憶が混濁している。

毛先の少しカールした、ふわふわした毛並みの彼は、私の腕の中で、首から携帯電話をぶら下げたまま曇った目をしていた。

「くまさん。くまちゃん。どっちだっけ……? どっちだっけ、どっちだっけ、どっちだっけ、どっちだっけ」


 広い、畳の上の敷布団を畳んで起きる。


物と、私だけがある部屋。

愛なんて 汚い絵の具をつけないで純粋な目で見ることができる。

他人の感情なんて、汚い絵の具をつけない、単品として見ることが出来る空間。


 ロミオとジュリエットとか好きそう、と言った友人には悪いが私はドラマチック的な意味ではそれほど好きではない。

愛や恋も。


確かに、ロミオとジュリエットみたいに毒薬を飲んでみたい気持ちはある。他人の愛情を放り出して、死んだ相手の顔を眺めたら、どんな気分だろうと考えたことはある。

『恋』というきみの悪い病気にかかった、その存在から『打ち勝った』話だと思えば、私は前向きな展開だと思うのだ。


私を心配そうに見上げたくまちゃん、に私は頷いた。


「そうね。私は 『恋』 というものを砕くことも、素晴らしいことだと思うの。心は、自分で持ってなくちゃ。他人にあげたりしてはいけないわ」




 私も、心中するふりをすれば、誰かを殺せたのだろうか。

ロミオとジュリエットみたいに。

ううん、私なら、ちゃんと毒を飲み干したい。


一人生き残ったロミオがうろたえる様を見られないのは残念だけれど、死ぬ間際も人はうっすらと意識があるらしい。

声くらい聞けたなら、天国で大爆笑するのだ。


恋愛脳、グズ、間抜け。

たった一人私が死んだくらいで役立たずになるような姿はみっともなくて情けなくて、とてもつまらない見世物だろうな。


だけど『勝ち』だわ。

恋愛脳から逃げ切るための、数少ない、解答例。

 あぁ、そうだわ。

バンジージャンプ という儀式があるけれど、あれにも似たような部分がある。

やっぱりああいう話、好きなのかしら。


くまちゃんが、腕の中から私を見つめる。


「ううん」


くまちゃん、


くまちゃん、


くまちゃん、


「あなたは、しなないから。心中さえ出来ないのよね」


残念なようで安心するような、不思議な感じだ。






 ああ、私もいつか、誰かと毒を飲み合うのかな……

そして飲んだ毒を眺めながら「恋愛バーカ。お前みたいにそれしか頭にないやつは死ぬ方がいい」と告白して、目を閉じたい。

恋う人殺しになれないから、私は今日も、一人と一人。


100年後の地球では病院に、恋、の治療が生まれているだろうか?

つーか生まれろ。

今日は最高気温。

暑くて眠れず、縁側に向かう。庭にある丸い月が池に反射していた。




  私の名前は音海なえ。

少し前までは女子高生だった。くまちゃんの首に下げている携帯電話の画面には、夜中の時刻が表示されている。

学校に行くのなら、すでに寝なくちゃならない時間だ。

##AR##2019/02/24 02:09




――だけど、私に咎める人は居ない。

だからこうして、二人で(または、三人で)、こんな夜更けに月を眺めている。


大人の贅沢。


携帯にはメールが来ていた。

ぶかぶかのコートを着た、童顔の知り合いからだった。

またいつか遊びたいねという返信をして、小さくのびをする。

その知り合いとの間に、いつか、が来るかはわからない。

ただでさえとても素敵な彼と居て、四六時中べったりだと聞くけれど……

それ以上に、その知り合いは交流が少ない人間に関する記憶を他人以上にあまり長く留められないか、ごっちゃになるらしい。


##AR##2019/02/24 02:26


 そういえば、あとりちゃんとは最近会っていないけれど……元気だろうか。

ふと、思い出したのは別の知人。彼女は昔の、クラスメイト。ある事件のときに私が助けたのだったか、助けられたのだったか。

 「事件」はひとつ終わり、また始まるから、事件に本来終わりなどない。お話のなかに区切りがあるだけ。

錯綜する思考を持て余しながら私は息を吐き出した。



 棚から一枚の封筒を手にとる。

「選ばない」を選ばなかった時点で負けなのかもしれない。

『これ』を捨ててくることなどいつだってできたのだから。

受け取り主の権限、感情に突き動かされた私の、責任。



「『招待状』ねぇ……」



 明らかに、何かに巻き込まれそうな予感。

平穏なパーティを期待するといつもそうはいかないのだ。


「戦争を起こすために、呼んだようなものよね」



 ある場所へ招待、を受けた私は、彼女らに再会するのだろうかと重苦しいような楽しみなような予感に唸っていた。

行かない、を選ばないのは意地かもしれない。しかしこの感情を捨てる選択肢も持っていなかった。



「主催者に絶対言ってやらなくちゃ。あとの不安なことなんか……どうにかして、潰せるわよ」


 目の前のことに冷静な判断を奪われたのか、それとも、私はどこか、何も見えていなかったのか。

 部屋に戻って、私は机に置いたままだった型紙を改めて見た。

『なえごん』 という喋る怪獣を作る予定なのだけど、右肩が大きすぎて、バランスが悪かったから設計しなおすのだ。


なえごん1は、接触不良で、時折、単語をひとつふたつしゃべり、また黙る。

あとは『アヴェマリア』をいつも中途半端に歌ってくれるんだけど、途中でよく甲高い音になり、止まってしまうのだ。

私となえごん。

なえごんは、私ではないけど、なんとなくの愛着からそんな名前になった。

BOT作成機で自動で喋る『なえごん』を作ってみたりもした。ギャアー、とか、数分~数時間ごとの文字列が表示されるのだ。

名前認識機能を使わないと、なえごんの宣伝にならないから、『名前出してね!』とテンプレも織り込んでいて、結構若い子に人気があった。

作家のプロフィールは、今人気のラノベ作家みたいに書かないのも沢山いるんだけど、キャラクターとなれば別。


 私はプロフィールも作った。


なえごん

なかにはおっさんが入っていて西南にある無人島からやってきた。魚に海を使った情報屋をさせる自営業。


結構クールでしょ?


フォローよろ☆




 BOTのほうのなえごんの人気はわりとあって、最近はいろんな人に話しかけられてた。


『論破ー論破ー!』


床に置いてたパソコンを覗いてみて、びっくり。


「あら。『ギャアー』が進化したわね」


 その青い怪獣はニコニコしながら『論破』と鳴くように変わっていた。


今まで、ギャアー、という台詞がメインだったのだけど、誰かに教えてもらったのかもしれない。

論破して、どうしたいのだろう?


見守っていると定期の呟き『貴方の名前を教えてね!』が上がってくる。


匿名可能なSNSで、名前を出せと言うのはなんだか矛盾にも感じるけれど、『誰から』言われたかを把握した上じゃなくちゃなえごんの宣伝にならないから仕方ない。


みゆきちゃんだとしたら、


「みゆきちゃん、覚えたよ!」

と認識機能が働きみゆきちゃんについてよりコメントしてくれる仕組みなんだけども。


実際匿名が多数だから、その『空情報』のが多くてなえごんの

《名前把握したい機能》の処理が、空情報のスペースになんか絡んだようで。リターンさせる負担と空回りする《名前把握したい機能実行予定ぷろぐらむ》の狭間でなえごんのエラーが起きてしまっていた。


##AR##2019/04/18 02:26

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