ブレイン
好きな人を忘れないでください
目が覚めるとそこは病室だった
真っ白で無機質な病室のベッドの上だった。なぜここにいるのか分からなかった。全身が圧迫されるような感覚、視界いっぱいの天井。体の至る所に包帯が巻かれていた。
◇
夏が出番を終えたと勘づいてきて身支度をととのえる頃、家族で草津へ長年の夢であった温泉旅行に向かっていた。
父が車を運転し助手席には母、後ろに僕と妹といういつも通りの楽しい旅行だ。とてもウキウキしていた。
◇
何も覚えていない
先生から話を聞くと僕は交通事故で下半身が動かせなくなってしまったそうだ。そして、記憶も失ってしまった。最後に先生が言った一言を理解するのに時間がかかった。
どうやら僕には妹がいるらしい
父と母、
亡くなってしまったそうだ。
顔も声も思い出せない
ただひたすらに、何も無い脳みそ、
つまらない日常が過ぎていった。
何も思い出せない
冬がそろそろかと準備運動をし始めた。と同時に僕はリハビリというものを始めた。
今日もこの時間が来た。初めは毎日同じことの繰り返しでとてもつまらなかった。でも最近は少し楽しみなんだ。気になる人が人が出来た。
僕よりひとつしたの綺麗な看護師さんだ。僕の面倒やリハビリをお手伝いしてくれる、とても優しくて良く話しかけてくれておかげで病院での生活が少し楽しいと感じるようになった。もっとも、楽しいという言葉を完全に理解はしていないが、、、
彼女は時々家族を失ったこと、記憶を失ったことに共感してくれているのか涙を流すことがあったが、僕はその看護師さんの笑顔に惹かれていった。
冬がそろそろ本気を出してきた。窓の外には白い粒が空からたくさん落ちていた。
それは雪だと教わった。いつもの看護師さんだ。看護師さんの初恋の相手の話をしてくれた。高校時代に一目惚れしたそうだ。意を決して気持ちを伝えようとしたのが今日のような雪が降った日だという。
話を聞いているとなんだか胸のあたりが波打った。自分だったら良いな、この気持ち伝えたいな、不思議に思った。
僕は一体どんな顔をしているのだろうか、この気持ちを表す言葉を僕は知らなかった。
僕はひたすらにこの気持ちをどうしたら良いのか考えていた。看護師さんは告白して付き合うことになったところまで話すと少し黙り込んでしまった。
ただ、告白も、付き合うも僕にはよく分からなかった。
どれくらいたっだろうか僕はなんと声をかけたらいいか分からなかった。すると突然看護師さんが口を開いた。
会いたい人はいますか
僕は少し困ってしまった。
覚えていないから、何も
でも答えはすぐに出た。
「あなたには、毎日でも会いたいです。」
僕の素直な気持ちだった。看護師さんの顔を見るだけで気持ちが落ち着く、看護師さんの笑顔を見るだけでなんだが心がざわつく、
看護師さんが部屋から出ていくと会いたくなる、短い言葉だったが僕の溢れ出る気持ちはこの一言で十分な気がした。
すると看護師さんが泣き出してしまった。
あれ、なにかまずいことを言ってしまったか
なんだか、不安になってしまったが、そんな不安もすぐに消えた。
「一目惚れしてからずっと好きでした。
付き合ってくれませんか」
さっきまで話していた。初恋の相手への告白の言葉だった。
気がついたら
僕も泣いていた
「俺も好きだ。」
あの頃と同じセリフだった。
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