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第02話 始業式

4月6日。

都立星が森高等学校

23区内にもかかわらず、小高い丘にある緑あふれる学校である。

カラス多い。野良猫もそこそこ。この前タヌキが出たらしい。

だがしかし。

「2年目だからもう馴れたけど、やっぱりきついな」

高校の裏門に続く、あけぼの坂と名付けられたこの坂。

坂の起点の道端には、真ん中に右斜め上へ続く矢印、20%という数字が記載された黄色い道路標識が、いざ往かんとする往来人の気力を削ぐ。

しかし登るのだ、なぜならそこに山(学校)があるから。


なお、僕の住処からは遠回りになるのであまり使わないがーー駅に近い方には正門があり、やっぱり坂があって。

正門をくぐった先にある敷地内の通称さくら坂。こちらの坂は、実に走りたくなる坂である。


正門と裏門の導線が交わるとき、物語が始まるーーーただの昇降口でした。

その脇に、新学年のクラス割りが掲示されていた。

僕のクラスは…2年H組。

2年H組に指定されたなにも入っていない下駄箱に下足をいれ、上履きを履く。

その時、正門からやってきた女の子がちょっとバランスを崩してこちらにもたれ掛かる。

このときはちょっと支えるだけでよかった。

……物語、始まってしまうのでないか? いやない。


そして我らのクラス。2年H組へ。なんと3階だ。

あれだけ坂を登らせておいて、さらに階段を昇らされる。

新1年生はその上の4階。否が応でも足腰が鍛えられるでしょう。

はい、鍛えられました。せいせいします。


これから1年お世話になる教室へ足を踏み入れようとしたその時、先ほど支えた、前方を歩いていた黒髪の女の子の頭が視界から離れた。

前へ倒れるのを必死で抵抗しているようだ。

僕はとっさに彼女の体の前へ腕を伸ばし抱き抱える格好に。


その位置が悪かった。

このおもち、今日より前に接触した覚えがあるようなないような…


「大丈夫? けがはない?」


あくまで事故。あくまで紳士的に。これは不可抗力。


「はい、また助けられちゃいました……」

意味深な一言を添え、彼女の席へ、そして彼女の友人との再会を喜んでいた。


「サトル、今年もよろしくな」

出席番号が1つ前で前の席の男、乙坂聡おとさかさとるに声をかける。

去年同じクラスだった級友だ。

「それにしても、さっきはナイスキャッチだったな」

先ほどの事案を振り返っている。たまたまだと謙遜して返す。

右手にはまだあの感触が残っている。何の感触かは…聞くだけ野暮ってものだ。

それでも意識してしまうもので、思わず先ほどのおもち……いやいや、助けた彼女をみてみる。

どうやら先ほどの友人と話が弾んでいるようだ。

まぁ、その友人も勝手知ったる人物ではあるのだが。

黒髪ロングに色白の肌。いかにもお嬢様ですよーというスタイル。

うわ、目があってしまった。彼女はすぐさま目線をそらす。


「なになに? 助けた彼女がきになりますか?」

乙坂は情報屋っぽい言動で近寄ってくるものの、たいてい情報などもってはいないことは長年のつきあいで知っているので

「い、いや?」

と語尾を上げつつ素っ気なく返す。

すぐさま学校のチャイムがタイムリミットを告げ、クラス担任が登場。

この後は始業式といった学校行事が淡々と消化されていった。



そして放課後。

といっても今日は実質始業式のみ。午前で学校は終了だ。

「きょうちゃーん」

クラスメイトの女子が僕の名前…愛称かな? をかけつつ、朝助けた女子を連れてやってきた。

「今年はクラスメイトだね! よろしく!」

ショートボブの栗毛の彼女は 鳴海楓なるみかえで

中学校時代からの腐れ縁。中学生からだから幼なじみとは言わない……昔なじみかな。

我が校が誇るオーケストラ部でバイオリン担当。

始めて1年というバリバリの初心者だったがメキメキと実力をつけてきた期待のホープ。

オタマジャクシで真っ黒クロスケな譜面と毎日格闘している。

「突然ですが、他己紹介します!」

皆一斉に頭の上にクエスチョンマーク大量発生中。

…自己紹介の他人紹介版か、と気がつくのに一間かかってしまった。


「まずはこちら。今朝きょうちゃんが助けた彼女、水沢ほたるさん」

「何度も助けていただいてありがとうございます」

ペコリンと頭を下げる。まだ緊張しいなのか、表情が固い。

「私とは1年の時にクラスが一緒でーって助けたの今朝だけじゃないの?」

どこかで助けた覚えはないのだが、と思いつつも「まあな」とはぐらかす。

「そしてこっち。加賀美響哉かがみきょうや、イケメンでなくいたって普通で絶賛帰宅部の残念なやつ」

説明に悪意がにじみ出てると抗議の意を表明するが、そこは昔なじみ。ひらりとかわされる。

「ま、まぁよろしく」

「よ、よろしくおねがいしますです」

耳が赤い…湯気が見える…清楚系で近づきがたいイメージだったが、話すとカワイイ人だな。


ほたるは電車通学で、3駅先から通っている。商店街で有名な街だ。

ってなんでこの個人情報を隣の楓が答えているのかが不思議だ。

「ちなみにスリーサイズは上かr」

「楓ちゃんダメ!」

とっさに口をふさぐ。

んー残念。でもそのお持ちのものの感覚を僕は知っている……のか?




「はぁ、なんで校歌を生演奏をバックでしなきゃいけないのよ」

楓は明日の入学式の部活紹介(という名の丁稚奉公)にご不満の様子。

在校生は部活動責任者とオケ部・コーラス部全員以外はお休みということになっていた。

「ほらせっかく後輩ゲットのアピールチャンスなんだからさ、文句言わずにー」

プリプリしている楓をなだめる。

「うー緊張してきた……」

「前日から緊張してどうするんだ」

どことなく顔色が優れない楓は前日練習に向かうとのことで、一同はここで解散となった。



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