第十七話 王女様と面会する 下
「えっと……」
ルナセーラは不意打ちで言葉が出ない。
(レオランドのどんなところが好き? ……急に聞かれても困る!)
その様子を見たレオランドは、意を決したように口を開いた。
「俺が婚約者になってくれと頼んだんだ。……彼女に一目惚れして」
「いいえ。私はルナセーラに聞いているの。だって、婚約者になると承諾したからには、何かしらの好意があるはずだもの」
二人の視線がルナセーラに集中する。レオランドの顔には「無理して返答する必要はない」と書かれているような気がした。
でも、今の気持ちを自分の言葉で話したい。
「きっかけは、魔法の勉強に熱中しすぎたことを心配した両親からの勧めでしたが……。今は一緒にいると心地がいい存在です」
「心地がいい存在ね。いい子を捕まえたじゃない、レオランド。今まで浮ついた噂の一つもなかったから心配してたのよ」
「心配してもらわなくてよかったのだが。ルナセーラがそんな風に思ってくれたことは、嬉しい」
気心が知れているのかレオランドの王女への言及は容赦ない。
「うふふ。来てもらってよかったわ」
「だが、婚約が正式になるのは彼女が魔法学院を卒業してからだ」
「待ちきれないって顔をしているわね。レオランドは」
「なっ……」
レオランドは一瞬言葉を失うが、すぐに気を取り戻したようだ。
「……そうだ。正直なところ待ちきれない。だが、ルナセーラのペースに合わせたいと思っている」
「へええ〜。愛しているのね。ルナセーラはキョトンとしているけれど、彼の愛が重すぎることはない?」
「え? 私⁉︎」
油断していた。話が飛び火してきたことに、ルナセーラは戸惑いを隠せない。
そんなにキョトンとしていただろうか。
「レオランドから想われるなんて、どんな女の子でも嬉しいと思っちゃうんじゃないでしょうか……」
「そうなのか⁉︎」
一般的な女の子の気持ちを代弁しただけなのに、レオランドは嬉しそうだ。
ルナセーラはレオランドに想われている自分を想像する。
とろける笑顔をしているレオランドの横にいる自分。
ルナセーラ自身の表情を思い浮かべようとした瞬間に、思考が停止した。
(もしかして私、ものすごく恥ずかしいことを言ってるんじゃないの⁉︎)
セドリフだった自分が言ったと思うと、恥ずかしさで一杯になった。
「ま、まあぁ……」
曖昧な返事をして誤魔化すことにした。
「あら、紅茶が冷めてしまったわ。新しいのを用意させるわね。……あっ」
王女は自ら立ち上がろうとすると、何かに躓いたようでバランスを崩した。
ルナセーラはスッと手を差し伸べる。
「大丈夫ですか、マリアーナ様」
「まぁ……」
ルナセーラは王女の手を取って話し掛けると、王女は驚いた表情を浮かべた。
倒れそうになったから手を貸しただけだ。それなのに、王女はルナセーラの顔をマジマジと見つめてくる。
「私、唯一の王子様と心に決めていた方がいたけれど、ルナセーラに変えようかしら!」
「……どういうことでしょうか?」
「ルナセーラは王子様みたい。私、すっかり貴方のファンになってしまいました」
「ファン!?」
セドリフのファンだったが、ルナセーラの真摯な対応を見て、すっかり好きになってしまったのだと言う。
「ルナセーラ、マリアーナ様をたらし込むのはやめてほしい。俺の婚約者になる予定なのだから」
「た、たらし⁉︎ そんなことは……」
王女に失礼がないように行動していたら、無意識でセドリフっぽい行動になってしまった気がする。たらしているつもりは、これっぽっちもないのだ。
「ねえ、もっとルナセーラのことが知りたいわ。好きな食べ物は何?」
マリアーナの興味はルナセーラに向かったようだ。
「甘いものは割と好きですね。チョコとかクッキーとか」
セドリフの時には甘ったるいと感じた食べ物でも、今はちょうど良く感じる。味覚は違うようだ。
「まあ。なら、もっとお菓子を持って来させるわ」
侍女を呼ぼうとしたマリアーナをルナセーラは止める。
「大丈夫ですよ。まだ沢山お菓子がありますので」
お皿の中にはチョコ、クッキーだけでなく、キャラメル、マカロン等、あふれんばかりにお菓子が並んでいる。
あまりに豪華で、見ているだけでお腹いっぱいになりそう。
「遠慮深いのね。……ルナセーラ、私専属の騎士にならない?」
「光栄なお言葉ですが、私は専属の騎士になるには、体術の技術が足りません」
魔法騎士団の精鋭に比べたら、体術はまだまだだ。
セドリフの魔法騎士団時代の訓練メニューを、女性の体力でもできるように組み替えて鍛錬している。セドリフは体力がなく、魔法で強化していた。柔軟性の強化等、しなやかさに重点を置いたメニューは、女性の筋トレと相性が良い。
「あら? 素早い身のこなしは、鍛えているからなのかと思ったのだけれど」
「マリアーナ様。多少は鍛えていたとしても、やはり第一線にいる魔法騎士団の方には劣ってしまいます。専属の騎士は、私には荷が重いのではないかと」
「そんなぁ……」
「無理を言って、ルナセーラを困らせるな」
「でも……」
見かねたレオランドがルナセーラを擁護しようとすると、王女はよよよと泣き崩れる。
「マリアーナ様の友人として、またお茶しませんか」
ルナセーラの提案に、王女は「いいの⁉︎」と顔を輝かせる。
「こうしてお話できたこと、大変光栄でした。セドリフ様の研究は素晴らしいです。またこのような機会がありましたら、喜んでお伺いします」
城を出る頃には日は陰っていた。
城門まで送ってくれたレオランドはふと立ち止まる。
「疲れたんじゃないか? マリアーナ様がはっきりと物を言う方だから、大変だっただろう」
マリアーナ様の天真爛漫ぶりは前世で慣れていたが、知らないふりを貫くことにする。
「話してみたら気さくな方で、緊張が抜けました」
「そうか。俺の前では無理をして言わなくてもいいんだぞ」
「そんなことは……」
「そういえば、城下町に魔法騎士団御用達の魔道具屋がある。今度一緒に行かないか」
「魔法騎士団御用達の……魔道具屋!」
なんて魅惑的な言葉なのだろう。
楽しそうだ。ぜひ一緒に行きたい。
「ぜひ! お願いします!」
「俺も久々に顔を出してみたかったからな。楽しみにしているよ」
楽しみが一つできた。
ルナセーラは魔法学院の宿舎までの道のりを、鼻歌混じりで帰っていく。
王室図書館の代替案として言ってくれたのではないか、と気づいたのはレオランドど別れてからだった。




