1話.今んとこ日常物だけど、転生は?
1話.今んとこ日常ものだけど、転生は?
カランコロン
扉の鳴る音がする。
「いらっしゃいませ〜」
「いらっしゃいませー!」
種類の違う2つの声が同時に響く。竹内さんとサラの声だ。店内の時計を見ると、時刻はもう19時を回っていた。この喫茶店が一番忙しくなる時間帯だ。
「ジン先輩、ショートケーキとパンケーキ1つずつお願いします!」
「了解。これ先に3番テーブルに。」
「かしこまりです!」
「竹内さん。これ3番と5番カウンターにお願いします。」
「は〜い。ありがと〜。」
「サラちゃーん、注文いいかー?」
「はい!ただいまお伺いします!」
「ジンく〜ん、オムライスとハンバーグ2個追加で〜。ナポリタンも2個お願い〜」
「了解です。」
「バイトくーん!注文聞いてー!」
「今行きます。少し待っててくださいね。」
「まつー!ジンくんのためならいくらでもまつー!」
大盛況だった。常連さんもたくさんいて、俺もサラも顔と名前を覚えられてるくらいだ。
まぁ、それもそのはず。この店、駅に近くて立地悪くないし、美人店主と看板娘がいるんだから人気も出るはずだ。
そしてかく言う俺も…俺は断じて信じてはいないがイケメンバイトとして知られているらしい。俺は絶対に信じないが。
「はいサラ、ケーキ完成。持ってけ。」
「ありがとうございます!」
「竹内さん。オムライス、ハンバーグ、ナポリタンです。お願いします。」
「ありがと〜。」
他の人にどう思われてるかは知らないが、料理の腕にはそこそこ自信がある。小さい頃からずっと1人で作ってきたから、そこらへんの男子高校生よりスキルは高いはずだ。竹内さんも料理のことは俺に一任してくれている。
そのため、サラが接客メイン、竹内さんがコーヒー等の飲料メイン、俺が食品メインで回している。が、たまに
「ジン先輩!すみませんホール足りないです!」
サラが少し焦ったように叫ぶ。
「了解。そっちいくわ。竹内さん、料理お願いします。」
「りょうか〜い。任せて〜。」
手元や足元は忙しそうに動きながら、口調は穏やかなまま竹内さんが返事をする。俺はそのまま竹内さんに厨房を任せホールへも出向いた。
サラよりは俺の方がこの店で長く働いているため、勝手がわかっている。そのため、あまりにも忙しくて回らないときはこういうこともある。
こうなってくると、さらに注文が入る。
「おっ、あかねさんが料理してんぞ!」
「よし。あかねさんの手作りだ。いつもより食べよ。」
「あかねさんの手料理、見逃すわけにはいかねぇ!ジンくん、注文よろしく!」
「はいはい、ただいまただいま。そんな焦んなって。あかねさんは逃げないぞ。」
こういうことである。まぁ、気持ちはわからなくない。あかねさんの手料理と聞いたらそりゃ食べたくもなるだろう。なんにせよ売上が上がるのはいいことだ。とりあえず、注文とるか。
カランコロン
軽やかに音が跳ねる。その音を聞いたのを境目に店内の空気が一気に弛緩する。
「ふぅー!今日も乗り切りましたね!魔の時間!」
サラが額の汗をぬぐいながら言う。ちなみに魔の時間とは19〜20:30、この店が最も忙しくなる時間帯のことだ。
「あぁ。お疲れ様、サラ。だいぶ動けるようになってきたな。すごいじゃないか。」
「え、そ、そうですかねー?」
俺が感心して褒めると、サラは満更でもないように微笑む。
「あぁ。本当にすごいと思うよ。」
「そ、そうですか!そうですか!ありがとうございます!先輩!」
もう1度褒めると、今度は途端に破顔し、満面の笑みを浮かべた。
「2人ともお疲れ様〜。まだ閉店じゃあないけれどね〜。今のうちにご飯食べちゃって〜。」
竹内さんが俺たちに微笑みかけながら言う。
「わかりました。いただきます。サラはなんか食べたいものあるか?」
エプロンを装着しながらサラに聞く。
「ジン先輩の作ったものだったらなんでも!」
「了解。それじゃあ今日は...」
冷蔵庫の中を見ながらまかないを考える。がしかし
「あー、今日食材届く前日だったか。あんまり残ってないな...。」
この後客が来たら少し危ないレベルで食材がなくなっていた。予想以上に客が入ったからか...。まぁ、何かしらは作れるだろう。
「...よし。今日はもうシンプルにオムライスだな。」
「オムライスですか!」
サラが目を輝かせながら言ってくる。そんなに喜ぶものか?と思うがそれも毎度のこと。
サラは俺が作る料理を大抵目を輝かせながら美味しそうに食べてくれる。そんなに美味しそうに食べてくれるなら作る会があるってもんだ。
「楽しみです!もうお腹は空いてますけど、さらに空かせて待ってますね!」
「ああ。すぐ作るから少しだけ待っててくれ。」
「はい!」
「ふふっ、2人とも本当に仲がいいわね〜。けっこうけっこう。」
そんな俺たちのやりとりを見て竹内さんが言ってくる。
「......まぁ、唯一無二の俺の後輩ですし。それに、サラですから。」
「...うん。そうよね。サラちゃんだから、よね〜。ジンくんってそう言う子よね〜。」
竹内さんは少しニヤついてサラを見る。それにつられて俺もサラを見るとサラは顔を少し赤くして恥ずかしそうに微笑んでいた。
思い返すとさっきの発言は少しキザだったかもしれない。この3人でいるとつい気が緩んで普段口に出さないようなことも言ってしまう。まぁ、今更恥ずかしがる相手ではないのでいいのだが。
「...ほら、サラ。パパっと作っちゃうから、テーブルの片付けでもしといてくれ。」
「えっ!?あっ、うっ、うん!わかった!片付けてくるね!」
俺がそう言うと、サラは脱兎のごとく駆け出し奥のテーブルへと向かう。慌てすぎて少し敬語が崩れてしまっていた。
「ふふっ、可愛いわね〜。」
「...えぇ、本当にそうですね…。」