ありふれた、そんな転生?
1.転生の条件は死してなおソラの興味を引く者のみとする
2.転生する際に5つ転生者の望む条件を叶える
3.5つの条件は何があっても覆されないものとする
4.転生する際に転生先のENDをソラから指示される
5.ENDを迎えるまでは何があってもその世界から抜けることはできない
6.転生者には必ず1人の従者が付き従うこととする
7.転生先で1度ENDを迎えると4つの選択肢が提示される
7-1. その世界に死ぬまで留まる
7-2. その世界でもう1度転生し直す
7-3. 別の世界に転生する
7-4. 人命を全うする
8.常に「意志」を持ち行動せよ
9.ソラが転生者に対して興味をなくした場合その場で人命を全うする
プロローグ
「あ〜…ねみぃ…」
赤く染まる教室の中、そう独りごちた。廊下の方からはいくつもの音が重なり不協和音を奏でている楽器の音が、校庭からは統率が取れたような、それでいてどこか気の抜けているような運動部の掛け声が残響を伴い耳に届いていた。
「………帰るか。」
その音を知覚した瞬間どうにもやるせないような気だるい気分の中に沈み込み、気づかぬうちに意味のないつぶやきが声に出ていた。
部活を中退した身としては、彼ら彼女らが頑張っているような姿、音はどうにも虚しく感じてしまう。だからと言って彼らのことを鬱陶しいとか、残念な奴らだとか思う気持など微塵も湧いてこないのだが。
むしろ彼らのことは羨ましいとさえ感じている。自分とは違い、生きる上で目標があり、毎日すべき何かに追われているのだから。
「…帰ろ。」
益体もなくそんなことを考えていると、その考えこそ無駄なことではないかと感じ、もう1度意味のないことを呟いていた。次の瞬間には荷物をまとめ、カバンを持ち席を離れる自分がいる。
客観的に見たら相当痛いやつだな…。とかそんなことを考えながら教室を出て帰路に着く。
「…まだ4時か。」
校舎を出てスマホを見るとHRが終わってから、まだあまり時間が経っていないことに気がついた。
…ん〜?もっと長い時間教室に1人でいた気がしてたんだが…気のせいか?まぁ、スマホが4時って言ってるんならそれはそれでいいか。早いに越したことはないし。そんなことを考えつつ駅へと足を動かした。
電車に揺られること約30分。そこから徒歩で約5分。馴染みのある喫茶店についた。扉をカランコロン、と音を立てながら入店する。
「こんにちはー。赤坂です。ただいまです。」
カウンターにそう声をかけながらスタッフルームの方へと続く扉へ向かう。
カウンターからは返事が聞こえる。
「あら、ジンくんおかえり〜。今日もよろしくね〜。」
と、どこか気の抜けたような、それでいてとても澄んでいる、綺麗なソプラノがそう言った。
「お願いします。着替えてきますね。」
「は〜い。いってらっしゃ〜い。」
声の主とそんなやりとりを交わし、スタッフルームへと入っていく。
先の声の主はこの喫茶店の店主である竹内さんといって、基本的にこの店を1人で切り盛りしている女性だ。
年齢は24とまだ若く、どちらかというとお姉さん。って感じがする。そして、この喫茶店に入った男性10人中8人に口説かれるくらいにとても綺麗な容姿をしている。
なぜそんな人が1人でこんな店を持っているのかというと…俺にはわからない。少しはいつか聞いてみたいと思っているが、自分の境遇が境遇がなため、そう言った話をなかなか切り出せないでいた。
…まぁ、別に聞いても聞かなくても業務に支障はないし、現状に満足しているので無理に聞こうとは思わないが。
そんなことを考えているうちに着替えが済み、厨房へと入っていく。
「竹内さんただいま。今日もよろしくお願いします。」
「あら、赤坂くん。ふふ、おかえり。今日もよろしくね。…ねえ〜?何回も、『竹内さん』じゃなくて、『あかね』って呼んでって言ってるのに〜。前は呼んでくれたのに、何で呼んでくれないかな〜。」
「はは、竹内さんを下の名前で呼ぶなんて、下宿させてもらってる身で畏れ多いですよ。」
半分嘘である。竹内さんを下の名前で呼んでしまったが最後、この店の客、主に男性客からどんな視線を向けられるか…。ここに下宿し始めてまだ間もない頃、純粋だった俺は何も疑わずに竹内さんのことをあかねさんと呼んでおり、その間男性客からの目線がとても怖かった。あれはもう殺人を犯せる目だった。割とガチで。そんなことがあってから俺はもう何があっても竹内さんは竹内さんと呼ぶことにした。
「そんなことより、調理の準備始めますね。」
「しょうがないか〜。は〜い。お願いね〜。」
竹内さん自身も俺がもう名前では呼ばないと諦めているのか、あっさりとその話題から手を引いた。
その声を背に俺は調理場へと向かう。この喫茶店での俺の役割は割と多い。
料理も作るし珈琲も淹れる。注文も取りに行くし会計もするし掃除もするし倉庫の片付けもするし業者への注文もするし食材を取りに行ったり買いに行ったりもするし店の金回りの清算だってする。…改めて考えると本当に仕事多いな!
まぁでも、そのくらいはやって当然だ。この仕事も竹内さんが俺に強要しているわけではない。8割方自分自身で増やした仕事だ。
どうしてそんなことをしているかというと俺がここに住み込みで働かせてもらっているからである。何を隠そうここは喫茶店兼竹内さんの家だ。それが何を意味するかというと、まぁお察しの通り。
世間一般の男子高校生から見たら、なんて羨ましい!と思うかもしれない。
だがそんな感情は間違いである。竹内さんをそんな対象として見ることはできないし、何より男性客にこのことがバレたらと想像するだけで悪寒がする。
そんな中で一緒に暮らしているのだ。何も羨ましがられることなどないだろう。そんなことを考えながら料理の下準備をしていく。
カランコロン
涼しげな音を立てて扉が開いた。客が入ってきたのか、それとも…。
「ただいまです!サラです!」
竹内さんとは違い、少し幼げで高めのソプラノが耳に届く。
「あら、サラちゃんおかえりなさい。今日もよろしくね。」
「はい!頑張ります!ジン先輩もただいまです!」
「おーう、おかえり。着替えて厨房回ってきてくれ。」
「了解です!」
敬礼のポーズをとりながら笑みを浮かべる後輩の姿がそこにあった。