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第3話 夢花火 (2) 夏花火⑥


今宵夜空に夏咲き誇る。咲いては散りまた咲いて散り、休む暇なき華吹雪。大小中小リズムよく、ドンときたならパッと散る。パッと散りまたドンと咲く。音と光の交響楽曲夏の暑さのエネルギー、集約させて一気に爆ぜる熱雷のような工の華。地球によく似たこの青の星、微妙に解釈間違えた日本文化の虚のなかにありこの花火だけは迫真の、空描きだす萌ゆる大輪。菊花梅花乱れ咲き。夏に桜花の狂い咲き。いまが祭りのハイライト、今宵いちばん大舞台。

世界でいちばんナンバーワンの晴れの舞台の天宙の下、仲良くならんで男女三人、石段腰掛け夜空見上げる。浪漫チックなふいんき抜群、隣に座るいけめんを、うっとりステキと眺めてはしなだれかかってアピールめぐりん。いけめん挟んで点対称、夜空花火を見上げつつ、皆の注目空にあり、地上疎かいいことに、いけめん懐コカンさわさわ、チカン行為を行うツバサ。当のいけめん雲太郎、かしずくふたりを適度にあしらい花火が照らす満面笑顔、夏の日の空に浮かぶ太陽のような、嘘偽りのない笑顔。

「いいよなァ…花火っ!ってぇヤツは。うまくいえねェんだけどさ…そう、『スキ』なんだよ。知ってるか?花火っ!ってぇヤツは、何百年も何百年も俺らのじいさんのじいさんやじいさんたちが研究して、研究して研究して、キレイな色が出せるよう、デッカイ音が鳴らせるよう、カイリョーにカイリョーを重ねて作ってきて出来たモンなんだってな。何~の役にも立たねえ、ただ音が鳴って光るだけのモンなのにな。そういうさ、『皆を楽しませる』ためだけのモノに、みんなが一生懸命になるのって…俺は『スキ』だよ」

わりと早口雲太郎。そもそも元来、深く考え言葉を選ぶタイプではない。思い付くまま気の向くままに、青空流れる白雲がライクにただただ自分の『スキ』を伝える、それが青空雲太流。

「はん。ナンだそりゃちんぽ。口説いてんのか?そんな中学生男子丸出しな口説き文句でお股濡らして、ステキ~!結婚してぇ~!抱いてぇ~!キャー!ってなるほど(オレ)様軽い女じゃねーのだ!」

さわやか男子の作った空気、ハンと笑って台無しにする見た目は幼女、中身はオッサン、謎の艦長ツバサさん。逆隣ではめぐりんが、お股濡らしてステキ~!結婚してぇ~!抱いてぇ~!キャー!と瞳を潤ませている。痛々しさに思わずウッとさすがのツバサが一歩退く。

「そんなんじゃねーよ。ただ、な。こうしてさ、老いも若きも、善いも悪いも、『敵も味方も』関係なくだな?並んで石段腰掛けて仲良く同じ花火っ!見上げて、ああ、花火っ!っていいなぁーとかアホみてーに口開けて思ってる、こういう時間ってスッゲー大事だと俺ァ思うんだ。うまく言えねえんだけどよ…『スキ』、だよ。」

「ああ。(オレ)様も『スキ』だ。」

ツバサと青空雲太郎、ふたりの視線は交わらない、しかして重なる心と心、互いに交わした『スキ』という言葉。なんだかとってもいいふいんきだ、めぐりんなんだか蚊帳の外、二十代後半(アラサー)思わず訝しむ。

「こうやって皆が見上げてる花火っ!の真下でさ、あそこな、あそこ。あそこじゃ今でも一所懸命、一生懸命汗水垂らしてこれはヘジャだァ、モンタロだァ、次、次はそう六勺だァ!なァんていって、みんなが見上げる花火の為に必死で走り回ってるワケでさ。みんなが観てる、その中心にいるってェのにその姿さえろくにみせずにその存在さえ気づかれずに、ただただみんなを楽しませるため、ただただあそこで頑張っている。俺ァさ、そういう男になりてぇ。そういう存在でありてえんだ。憧れなんだ、花火っ!てェやつはな。」

「わかるわかる。下々が(オレ)様の為に精一杯働く姿を観ながら飲むおビールはカクベツよな。おビールうめえー。」

プシッ!と缶の開く音。いいこと言ってる雲太郎、隣でいつの間にやらおビールガブガブ飲んでる台無しツバサ。「ひょ~くか~!ゲェプ」と満足そうに口元拭う姿に唖然、ポカンと固まる雲太郎。逆隣では空気のめぐりんヤケになったかこちらもおビール、垂直に立てガブガブビール。女性への。憧れ幻想打ち砕かれる、ゲーテ台無しエリーゼ台無し。

「…で?なんだっけちんぽ、聴いてなかったわ、ごめん。」

ごめんと口で言うわりに、悪びれもせぬ泡つき口元。頭抱えて雲太郎、数秒何かを考え込むが。花火がヒュルルと上がってドン散るパララと火の粉がわたりを照らす、憂げな表情浮かべてようやくツバサの方へと向き直り、意を決すように言葉を紡ぐ、花火の照らす男前。

「『だから』…こういう夜は、守っていかなきゃならねーんだと思う。どんなことがあっても。例え。『どんな敵が攻めてきても』、だ。」

打って変わった寂しげな声、その中に、確かに固い決意の芯。『ほほぅ?』と微笑みツバサもわずかに真面目なトーンで問い返す。

「『どんな敵が攻めてきても』………か。」

「ああ。『どんな敵が攻めてきても』……だ。」

夏の夕闇花火の宵、仲良く並んだ敵味方。お互いお互いお互いに、好意と敵意の宣戦布告。すっかり空気のめぐりんは。

「(はいはい、どーせ私は二十代後半(アラサー)ですよ、花火で青春な若者たちの空間に馴染んでませんよ、こんなピッチピッチ浴衣着て存在がもう痛々しいですよ。飲まなきゃやっていられねー。)」

次々とおビールを飲み干し、足元の空きカンピラミッドを順調に積み上げていくのだった。


「あっ。」

「ぁあ!?」

異口同音に飛び出す『a』の字、発音としては同じであるが、片方は驚き気後れスタンス、一方は訝し責めるスタンス。花火が終わり帰り道。杜の奥から出てきたハルカとハルカを探しにきたツバサ。ばっちりピッタリタイミング、うれしはづかし鉢合わせ。

あくまで秘密任務中、重要な作戦行動中に迷子になったその挙げ句、暗がりから『知らないいけめんの人』と連れだって帰ってきたなら誤解されてもしかたなきこと。瞬時に状況判断したハルカ、「ちが!そうじゃなく」と言い訳開始。まあ!と顔を赤らめめぐりん。爽やか快活雲太郎と品性下劣なオッサンツバサはやるねぇやるねぇこのこのこのと二人をからかって、つっつき肘打ちヒザゲリチョップ。次第次第に重さを増して、ドッガドッガと肉を打つ音。

「ちょ…ツバサちゃん痛い…痛いって!!」

完全に。油断させてのガチ打撃、反撃体勢構築できずハルカは亀になるしかない。そんなハルカの髪を掴んで乱暴に顔を引き起こす、ツバサの顔はマフィアのソレだ。

「おいこら。(オレ)様の考案したチョー極秘潜入作戦、チョー重要任務中になに『いけめんの人』としっぽりしけこんでやがんだ?オレたちも突き上げ花火ドドンパとイこうぜってやかましいわ。いったいお前、何してくれちゃってくれちゃってくれちゃって、くれちゃってくれちゃってくれちゃって、くれちゃってくれちゃってくれちゃってやがんだこのヤロウ。いまこの瞬間にもシホちんたちはお天宙(そら)の上で命をかけて戦ってんだぞ恥を知れ。このくされビッチが。」

セクハラパワハラ混ぜこんだ、最低上司の理不尽な物言い。そもそもチョー極秘潜入作戦、チョー重要任務を最初から台無しにしているのはツバサ自身ではないだろうか。そしてその頃お天宙(そら)の上ではシホたちの奇襲は見事に失敗、撤退を余儀なくされている。

それもツバサのせいではないのか。しかして通信手段を奪われ哀れ宇宙の状況を知るよしもないハルカには、こう言われてはグゥの音も出ず申し訳なくうつむくしかない。

「チョー極秘潜入作戦?」

「チョー重要任務…。」

「あっいやその!えっと…花火すごかったですよね?花火もう、なんかもうすごくて!あんなすごい花火私、初めてでその、すごかったです!?」

いけめん二人は訝しげ、はて?と首を捻る様子に慌ててごまかす健気なハルカ。

『いけめんの人』と暗がりから出てきて『初めて』『すごかった』なぞの連呼、誤解されないはずもなく。年増めぐりんンマァと赤面、やるじゃねえかと黒崎をつつく、さわやか青空雲太郎。言葉のあやに気づいたハルカは耳まで真っ赤、あわてて否定、『違うくて!』『違うくて!』と繰り返している当の黒崎はというと、話の流れを理解できずに(帰りたいな)と言った顔。

「まったくハルカちゃんてば。お祭りだからって浮かれスギぞ?(オレ)様言ったでしょ、しらない『いけめんの人』にけつ振ってついていっちゃダメですよって。あ、言ってなかったかにゃ。とりあえずブラくらい着けろ。」

ほーれほれとハルカのブラをブラブラ揺らして自慢気ツバサ。あ!と胸元確認ハルカ、ノーブラなのを思い出し。

「帰せ!!!!!!!!!!!!!」

ハルカとツバサの追いかけっこは小一時間ほど続いて終わる。祭りの熱狂まだ冷めやらぬ、暑さの残る夏の宵。


「いやぁー今日は楽しかった!楽しかったわ、ありがとな!!」

楽しい祭りもいつかは終わる、『楽しかった』にいつかは変わる。半纏姿のビーバーたちがえっさほいさと出店の撤収、祭りの会場解体工事。あれだけ(ビーバー)集まった、祭りの夜も今や閑散、あっという間の閑古鳥。向かいに立って三対二、祭りの最後は別れのあいさつ。

「わ、私も楽しかったです!良かったらその!これ、私の連絡先…。」

さわやか太郎にめぐりんの、手渡そうとする紙切れを、パッと奪ってツバサどや顔その場で八つにビリビリ破り、フッと一息吹き飛ばす。

「(おい。何してくれてんだこのガキァ?)」

「(しらない人に部隊内通信の連絡先教えんなよ、コンプライアンス違反で契約切んぞ?え?契約社員さんよ。)」

お互い胸ぐら掴み合い、力が均衡ツバサとめぐりん。動いた方がやられる状況、健気なハルカが〆に入る。

「あっ…私も!今日すごい楽しかったです、誘ってくれてありがとうございました!!」

百点満点美少女あいさつ、出し抜かれたるツバサとめぐりん、『しまった!』という顔をあげるもまさしくアフターカーニバル。こういう時にナチュラルに、言葉が出るのは『良い子』の特権。悪い子幼女艦長とやさぐれ二十代後半(アラサー)の出る幕はなし。

ニッカと笑った雲太郎、『またな!』と他意なきさわやか笑顔。対するツバサも『ああ…【また】な!』、こちらは含みのある嫌な笑顔。手を振り別れる二人と三人、夏の祭りの僅かな時間、交わりあった両者の刻はふたたび分かれてそれぞれの途へ。

当たり前のようにいけめん二人と共に歩いてゆくツバサ。ピンクの浴衣の首根っこを乱暴に掴み。『お前はこっちだ』、ハルカとめぐりんが引き摺り戻していった。






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