表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

第3話 夢花火(2) 夏花火⑥


「待てえ!!!!!」

夏の祭りの雑踏のなか、声高く響くは少女の叫び。極秘任務の強襲作戦、その最中であるはずの、ハルカとツバサの追いかけっこは現在いまだ続行している。

「うふふ!つかまえてごらんなさーい?蝶のように舞い蜂のように刺す…キャシアスクレイ!!」

旧時代の偉人の名前を失礼ながらも口に出し、ひらり、ひらりとハルカの追撃かわしてあちら、こちらへ跳ねて跳び、逃げ回るのは幼女艦長。この作戦のみならず、外宇宙探査艦プレジデント・オバマ、その命運を握る責任者、その本人がこの調子では遠からぬ日に地球ごと全滅するのは避けられまい。

「いいから返せ!ブラ返せ!!!」

真っ赤になって追いかけ回すハルカの前にずいと突き出す、毛むくじゃらの手ビーバーハンド。その掌には三本のりんごあめが握られている。

「おい!買うのか買わねえのかァ。何がァ、やりたいのか。紙面騒がせて何がやりたいんだコラァ!お前、飲むなよ?吐いたの。買うなら早く買え!!!」

痺れを切らした店番ビーバー、ほれほれほれとりんごあめ、突き出し早く買えやと主張す。あ、すいませんと立ち止まり手を伸ばすハルカ、目と目が合って、互いにあ!と叫びをあげる。見覚えある顔知った顔。

「お、お前昼間の!!?」

「『バービー組』さん!!?」

なんたる偶然、出店の主は昼間ハルカの一行と揉め事起こした『バービー組』の三人ビーバーその三人。口々に。

「何しにきやがって!」

「嫌がらせか!?」

「痛くしちゃうぞ!!」

と各々叫ぶ。地球人であるハルカには当然、ビーバーの見分けなど出来ないが。三人並んだ人相悪いヨタったビーバー三人組なぞ『バービー組』の他にあるはずがなく不測の事態の発生に、ただただハルカは混乱す。

「ごごごめんなさい!わざとじゃなくて!その、私いま極秘任務の強襲作戦中で、あ!いや、なんでもないです!あの…そう、私!あの子にブラ盗まれちゃって!追いかけなきゃいけなくて、さよなら!!!」

慌ててその場を逃げ出すハルカ、しかし当然その手は悪手。

「待てコラァ!!!!」

『バービー組』の三人組は店番さっさと放り出し、逃げるハルカを追いかけまわす、攻守逆転逃げ一手。

「ほれほれハルカちゃんステップステップ!リズム良くね?蝶のように舞い蜂のように刺せ~?あぁダメダメダメ、あれじゃキャシアスクレイじゃなくてスタンハンセンだぜ。ハッハァ。」

肩を竦めてダメ出しをするのんきなツバサの目の前で、『バービー組』に捕まるハルカ。

この騒動の原因を作ったのは明らかにツバサなのであるが。いつの時代も理不尽なことに、責任というのは責任者ではなく下々の者に振り掛かる。

「手こずらせやがってこのやろう!!」

「またぐなよ、またぐな!?」

「痛くしちゃうぞ!?」

羽交い締めしたハルカをいまにも痛くしちゃいそうな『バービー組』たち。危機一髪のハルカを救うはこれまた聞き覚えのある声音。

「なんでェ…まァ~た揉めてんのか?ホント仲いいなァお宅らは。」

やれやれやれと雑踏を割り、青い着流し、眩い笑顔、現れたのは男前。昼の騒動の時と同じくまたもやナイスなタイミング、まるで計ったタイミング。いかにも楽しげ雲太郎、魚屋青空雲の太郎がマアマアマアと割り入る。

「あ!」と顔を見上げるハルカ、「良ちんぽ!」と駆け寄るツバサ、それを「いけめん!!」と突飛ばして寄る空気と化していためぐりん。

「祭りの夜に揉め事はご法度だぜ?『バービーちゃん』たちよ。」

ニカッと輝く笑顔に白い歯、プリプリプリと尻を振り、寄り添うめぐりん倒れるツバサ、羽交い締めされているハルカ。

予想以上によくわからない場面に困惑雲太郎、一瞬次の言葉につまるがとにかくハルカを放させようと『バービー組』へ一歩寄る。ハルカの胸元透けるブラウス、小さくポッチと浮かぶ突起に気づく青空雲太郎、瞬時に顔を曇らせて。

「手前らこの子に何しやがった!!!」

正義の怒りを爆発させる。

「まだなにもしてねえよっ!!!!」

ビーバー三人コーラス叫ぶ 、楽しく愉快な夏の宵。


「なッはッは!悪ィ悪ィ!何が悪いって『バービー組』サンたちの悪人づらが一等悪ィ!そっちのその子を『てごめ』にでもしてるもんかと思わず俺ァ勘違い…いやすまんかった!正直すまんかった!」

カラカラと。

明るく笑う男前、殺気立ってた『バービー組』らもうっかり思わず毒気を抜かれ赦してしまう、そんな顔。『勘違いじゃしょうがねえな』とすっかりこの場の雰囲気に飲まれ、すごすご屋台へ戻ってく。

「なるほどナァ…このへんの仕切りは『バービー組』サンたちかい!なら、任せといても安心だ!年に一度の夏祭り、しっかり盛り上げてくださいよ『バービー組』サン、いよっ男前!宇宙一ィ!」

「おだてんじゃねえやい、バーカ!けっ!」

「おぅおぅ当たり前だァ!俺らァ誰だと思ってやがる?祭りの仕切りは『バービー組』サンに任せてとけってんだ!!」

「色男は女のケツでも追っかけてな!シッシ!」

お互いに交わす憎まれ口の、軽い言葉のジャブの応酬。魚屋青空雲太郎、いつでも快活雲太郎、しかして対する『バービー組』らも塩撒きつつもどこか楽しげ、そうとも今宵は夏祭り。祭りの夜に喧嘩はあっても憎み恨みは端に置け、老若男女に身分の上下、幸せなヤツも不幸な輩も皆が楽しめ祭りの夜だ。ヒャーウィーゴー!

「…来てくれたんだなお嬢ちゃんたち!何て言うかその…見違えたぜ!」

いとも嬉しげ雲太郎、僅かに頬を紅く染め、おそらくとても言い馴れぬ、女性の容姿を誉める世辞。もちろんツバサもめぐりんも、昼間と変わらぬ浴衣の姿。だがそこはそこ夏の宵、祭りのぼんぼり照らされた浴衣姿は危険マジック、三割増しの美人に見えてその目を逸らす雲太郎。『まあ!』と湯気出しときめくめぐりん、対してツバサは獲物の視線の変化に素早く反応し、逸らした視界に先回り。視野いっぱいに近づきウッフン悩殺ポーズで迫り寄り、思わず太郎は後退り。一歩退がったその腕を絡めてめぐりんキャッチミー。哀れ爽やか雲太郎、あれよあれよと女のペース、夏の祭りの雑踏のなか美少女?ふたりに挟まれて、連れてかれることネコに捕まり咥えられてるねずみの如し。

「あっ…待っ…?」

案の外でどんくさいハルカ、ひとりおろおろ屋台の前で三人組は既に豆粒、人混みの向こう呑み込まれていく。

「…で。りんごあめの代金。」

ぼそっと呟くバービービーバー。

「私だけ食べてないよ!!!」

地団駄を踏み不憫なハルカ、呑気な三人追いかけダッシュ、祭りの中へと消えていく。


「(困ったなあ…完全にはぐれちゃったんですけど!?)」

人の濁流、人の壁。あっちに押されてこっちに引かれ、右往左往し流るるうちに、気づけばハルカはひとりでポツン。神社とも。寺社ともつかぬ、微妙に解釈間違った、マイクロビキニの半裸マッチョの仁王像が護るる社。そこはかとなく日本チックで過分に東南アジア風。暗がる森に囲われて、遠くに喧騒祭りの灯り。韻を踏んでル俺たちのことディスってル。

「ディスってないし!それでこれどういう状況!?どこここ、ツバサちゃんたちどころか、いつの間にか誰もいないし!!」

ひとしきり。ギャーとわめいてみたもの、この状況ではいた、しかたなし。どうにか連絡取ろうにも、こういう時のための携帯端末は愚かな上司によって没収済みだ、おまけにハルカはノーブラである。鬱蒼とした杜の木立、僅か溢れる隙間の灯り。まるで異世界ひとりきり、心細くなるハルカの胸の無防備さがそれに追い討ちかける。

「(どうしよう…。)」

途方にくれるハルカの肩を闇からニュウと伸びた腕、不意に掴んでハルカは悲鳴、ギャァアとあげて腰抜かす。

「嫌ァ!許してください嫌ァ!!許してください私その、『初めて』なんです!『初めて』はやっぱり私好きな人とじゃないと、あ!違うんですノーブラなのはこれ『誘ってる』んじゃなくて!私!そういう者じゃありませんのだ!?」

なぞと意味不明な供述を繰り返し。訳もわからずバタバタと、手足まわして暴れるハルカ。困ったように見下ろしているのは闇に溶け込むような黒。真っ黒な浴衣に真っ黒な髪、生真面目そうな整った顔つきのわりに浴衣の胸には大きなドクロのスパンコール。善いモンなのかならず者だか微妙なラインの相手にハルカ、とりあえず、『(あ、けっこうイケメンだ?)』なぞとちょっぴり思ったりする。

「すまない。驚かせるつもりはなかった。実は連れとはぐれてしまってな。この星は私も『初めて』なものですっかり迷ってしまった次第、地元の方かと思い声かけたのだがそうか、貴殿も『初めて』であったか。」

微風にそよぐ風鈴のように爽やかな声が手を差し伸べる。引っ張りあげてもらいつつ、ハルカは誤解に基づく自分自身の意味不明なる供述が、うまいこと話かみ合って、特に深く考えられずに流されたことに安堵して、次第に落ち着き取り戻す。

「とりあえず…ですけど。お祭りの会場の方に戻りませんか?たぶん…本部っていうか。お祭りの運営の人がいるところ、あると思うんで…それで放送かなんかしてもらって、探してもらった方が…?」

言いかけハルカは自分が極秘の強襲急襲二面作戦、その根幹となる奇襲攻撃、任務の途中と思い出し、『なにピンポンパンポン会場中の皆さんの注目集めて異星人が潜入してますよって大々的に宣戦布告してんだテメーは!!?』なぞと上司(ツバサ)の理不尽な叱責、受ける流れが頭に浮かび、「(あ、やばい今のなし。)」、慌てて訂正しようとするも、黒の男は『なるほど』と、得心をして既に闇増す杜の奥へと歩を進めている。

「えっあの?『そっち』は森ですけど…。お祭りは『あっち』…。」

気まずげに。真反対を指差すハルカ。

「む…?そうか。」

あくまでも。生真面目な顔に生真面目な対応、『ふざけてやってる』訳ではなくて、おそらくは『素』でどっかしかがズレている。そんな相手の背中を見ながらハルカは、『(この人イケメンだけどひょっとしてちょっと色々…残念?)』なぞと首を傾げつつ、不思議なデジャヴュに襲われていた。


杜の暗闇、砂利の道。白く浮かんだ細い小道を踏み進んで行く足音ふたつ。人の感覚とは不可思議で、往路と復路、目指す目的あるとなし、光の加減に音の加減、ひとりで歩くかふたりで歩くか、そういう違いで同じ道でもまったく違って見えるもの。『(あれ?こんなところ通ったっけ…?)』ハルカは思うが目指す目的祭りの灯り、その方向に進める道はもとより他にあるはずもなし。砂利、砂利、玉砂利ふたりの足音、砂利、砂利、白砂利杜の静寂。ふたりの立てる足音と、息遣いだけ響く道程、永遠続くようにさえ思う、切り離された虚空間。

突然に。風、空を裂き、ヒュルルと上がる明らな異音、一瞬遅れのドドンパン。杜の暗闇木立の茂み、ふたりの周囲の闇の暗黒、雷光が如く照らされて、ふたりはふたりのお互いを見る、互いの姿を視認する。いかれた和風のこの星に、明らかそぐわぬ制服女性徒。いかれた和風のこの星に、馴染むと言えば確かに馴染むが着こなせない感見るから溢れる浴衣姿の長髪長身。ふたりを照らす夜空の火玉は祝福の華か、運命の輪か。

「花火…!はじまっちゃいましたね…。」

しばし無言。呆然と空を見上げるふたり。天宙に咲く花一瞬に散り、パパパと降りくる火の粉は花弁。夏の夜空の風物詩。本能的に人は皆、その音のまえ光のまえに思わず魅入り歩を止める。

「うん、もういいや!あの…よかったらここで、私と一緒に花火みませんか?みんなで見るのも楽しいけど…こういう静かなところで、独り占めみたいで!ちょっと、いいかなって思うんです!」

言い終わるか終わらないかのうちに、ハルカの言葉のタイミング、待っていたかのようにド!ド!ド!と本格的な打ち上げ爆音。風と大地と天宙とを揺るがし夜空に二番、三番の星。次々上がって照らすハルカの満面の笑み、透けた胸元。

「私、ハルカって言います!あの、お名前は…?」

「私か。私は…。」

ドドンド。一際大きい打ち上げ轟音。力を溜める数秒静寂。その日いちばん大玉が、天宙高く垂直に、昇りつめゆく準備期間。

「黒崎。黒崎だ。」

名乗りと同時に天宙が爆ぜ、暗黒の騎士を白く照らした。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ