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第3話 夢花火(2) 夏花火⑤


突き抜けるような青い空。『天』にもし。『天井』というものがあるならまさしくそれを突き抜いて、遥か天宙遥ての果てまで、続いているかの如き夏空。輝く午後の陽射しの下に、天秤棒を肩に担いでヨッコラヨッコラ調子を取りつつ、機嫌よさげに口笛鳴らし、左右に振れる人影ひとつ。白い地面に伸びる影、ふわりふわりと揺れている。

その影の主は男前。青い衣の男前。先刻ガラのあまりよくない、『バービー組』の三人組と。遥か彼方の果ての果て、青い星から来訪者、その名も遥日奏歌(ハルカ・カナタ)とその一行。ふたつのおかしな集団で、降ってわいたる揉め事に、割って入った雲太郎。自称青空雲太郎。

その、青空雲太郎がヨッコラヨッコラ(かち)行く先は、ふざけたような天守閣。コテンコテンに典型的な、映画かコントのセットのような、地球より遥か数万光年隔てた惑星(ここ)に在るはずもない、ライクア風雲たけし城。ステロタイプの日本の城に、ステロタイプの粋な魚屋ヨッコラヨッコラ天秤担ぎ、当然のように入ってく。

「何用か!?」

これまた至極当然に。

城の門壁固める城兵、軽甲冑を着こんだビーバー、狭い眉間に縦皺寄せて侵入者へと槍向けて、魚屋に対し誰何する。

「屁です。」

「よし、通れ!!」

摩訶不思議。

どこから見ても一般人の、魚屋粋な男前。「屁です。」と一言応えた途端、衛兵即座に槍を引き、通してもらえる雲太郎。「屁です。」というのは何かの符合か、雲の太郎は御用業者か?変わらぬ調子でヨッコラヨッコラ天秤担いで進む魚屋、行く先々で「屁です。」「屁です。」、普通に門を通り抜けてく煌めく太陽夏の空。

幾重に並んだ門を抜け、本丸に至る魚屋の背後。夏の熱気に淀んだ空気が僅かに『そよ』と揺れ動き、瞬に轟と、渦を巻く。

「よぉ。来たな。」

振り向きもせずに魚屋は言う。これはふたたび摩訶不思議。風が巻いた背後にはまわりの景色にそぐわない、しかしてこれまたコントのような西洋甲冑、全身鎧。ファンタジーの世界から抜け出てきたような黒ずくめ、黒いマントを羽織った騎士が爽やかな顔で微笑んでいる。

「何用か?」

ニヤリと笑って天秤棒、槍のように突き出して。暗黒の騎士に魚屋が言う。

「貴公が会敵したと聴いてな。陣中見舞いというところだ。」

暗黒の騎士の爽やかな声、夏の日に風鈴を揺らす風のような、そよ風のように心地よい声。

「(『屁です。』って言えよ。)」

太陽のような輝く笑顔を僅かに曇らし、眉毛を下げる雲太郎。

 



ふざけた惑星(ほし)のふざけた城郭(しろ)の、最上階の天守閣。上座に寛ぐ着崩し着流し、それは青空雲太郎。そちらはこの城、殿様の席、たかが一介魚屋の、座っていてよい席であろうか?当然の如く寛いでいる魚屋青空雲太郎、それを咎める者はなく、両脇護衛のビーバー武士も槍持ちピンと正座している。

対する下座は暗黒の騎士。必要以上に和風のこの星、あきらかに違う場違い異分子、韻を踏んでるディスってる。二人は親しい間であるのか場に存在する幾多の違和感、気にすることなく談笑している俺たちのことディスってる。

否、ディスっているわけではない。整った顔の爽やかメンズの親しげ楽しげ談笑は。不思議とこの場のふざけた雰囲気、コントのセットの空気にマッチ。観客がいればついつい心地が良くなってしまう心意気。ただ喋っているだけで好印象を人に与える、イケてるメンズは得である。

「黒崎お前さァ…その格好でここまで歩いてきたの?もう少しこう、場の空気っつーか、『ふいんき』ってやつ読めるようになろうぜ?それしか服ねーのかよ。」

上座の青空雲太郎。ざっくばらんな語りかけ、苦笑ため息ふっふと漏らす。

「私服か?持ってきているぞ。遠出をするときは必ず『お泊まりセット』を持つようにしている。」

黒崎と呼ばれた下座の男、空気の読めない西洋騎士はどこから出したか小学生の使用するよなナップザックを開けてごそごそ服を取り出す。

「『リスクマネジメント』が良く出来ていらっしゃることで…ぇ、え?」

上座の青空雲太郎。揶揄う言葉が途中で止まり、ひきつった笑みが顔に貼りつく。西洋騎士、黒崎が自慢気に取り出した私服は黒のレザーの謎の服、ベルトが100本くらい付いてる謎のセンスの謎の服。

「お前ってなんていうか…本当に。『残念』だな。おい、誰ぞコイツに合う浴衣でも持ってきてくれ。」

頭抱えて雲太郎、パンパンパンと柏手叩くとうやうやしくも頭を垂れた女中姿のビーバー婦人。小綺麗にピシと折り畳まれた黒い浴衣をスゥと差し出す。

「(どうも)」と受け取る黒の騎士、何とはなしにバサと浴衣を広げ広がる黒染め和服。大胆に。右の肩から胸へと大きな髑髏頭の染めデザイン。どうやらこの爽やかメンズ、そのどちらもが『残念』な、似た者同士であるようである。尾張名古屋は城でもつ。


「…それで?『どうだった』のだ。会ったのだろう…『敵』と。」

心行くまで残念ムーヴをかまして満足いったのか。小一時間ほどの刻を挟んで黒い浴衣の黒い騎士、黒崎と呼ばれた男は本題を振る。

「んあ。あぁ、そうさなあ…あー。なんかよくわからん展開が多かったが。ま、悪い連中じゃぁないみたいだったぜ。俺は嫌いじゃねえかな。」

天井を見上げ雲太郎。やや反応に困るといった様子見せつつ雲太郎。しかして彼の抱いた感想余すことなく正直に、思い付いたままの言葉で友人からの問いに応える。

「銀河を美と力で支配する(ビューティ)帝国(・エンパイア)が七星騎士第二席、青騎士ヘルダイン。その名において貴公が討たねばならぬ敵だとしてもか。」

黒の騎士は厳しい表情、厳しい声音で問いを重ねる。

(オゥ)よ。銀河を美と力で支配する(ビューティ)帝国(・エンパイア)が七星騎士第二席、青騎士ヘルダイン。この俺の名において討たねばならぬ敵だとしてもだ。ソレとコレとは話が別なんでな。」

上座の青空雲太郎。否、青騎士ヘルダインと名乗った男は先ほどまでの気さくな語り手、崩さぬながらも内に秘めたる好戦的なもうひとつの(かお)、僅かに覗かせ八重歯光らす。

「フ…いらぬ世話を焼いた。どうやらこの私の雪辱戦は叶いそうにないな。」

「そういうこった。万にひとつもお前さんにゃ番が回ることはねェ~ぜ。折角訪ねてくれたのに残念だったな。」

「こいつ。」

ハッハッハッハッハ。

二人の爽やかイケテルメンズは互いに心底愉しげに、カンラカラカラ笑いあってる俺たちのことディスってる。

否、ディスっているわけはなく。

同世代の親友同士、親しい旧知の者同士。遠慮気配りない本心の、言葉交わしてただそれが、互いに可笑しく笑いあう。男同士の理想の関係、中学生のマブダチ仁義。爽やかメンズのこの二人、どこかそうした幼いままの少年のままの感性で、生きているような印象を受けるがそれが意外と不快ではない。まったくもってつまりのところ、顔が良いのは得である。


「…それで。『感想』は本当にソレだけか?何か他になかったか?」

しばし笑いあったあと。黒の騎士こと黒崎が、訝しむように問いを発する。

「ああ。実はな…。なんていうか。何て言ったら良いのかよくわかんねんだけどさぁ…その、な。」

上座の青空雲太郎こと青騎士ヘルダインと名乗った男はもじもじもじと言葉を選び、困ったように台詞を紡ぐ。

「…なんか、スッッッッッッッゲェー!楽しかった。」

「わかってくれるか!な!な!なんか、ものすごい楽しかっただろ、あの者たち!!」

「ああ!なんだろうなあこの気持ち!!!」

黒の騎士は身をのりだして青の騎士の言葉に同意し、青の騎士は黒の騎士のその反応に同意を返す。残念爽やかイケテルメンズ、けっこういいトシした二方の、思春期男子丸出し会話。さながらクラスの可愛い女子の『好きなところ』を言い合うが如し。




青の惑星(ほし)、コードネーム:くされチョンマゲマーチ星を眼下に捉える機械衛星。生命あるものひとつとてない冷たい鉄の機械星。今この瞬間(とき)も粛々と『侵略者』から受けた損害の、回復に努める無人機械が甲虫(カブトムシ)型機動兵器を黙々とただ造り続ける。

その、生産(コンベア)ラインを見下ろしひとり、機械音だけ響く施設の生物の呼気さえ聴こえぬ無人の、静寂(しずか)の中にただひとり。長身痩躯の人影が生産状況表すパネル、そして隣のモニター見つめ、不愉快そうに立っている。

画面(モニター)の中では青の惑星、くされチョンマゲマーチ星、その首都ふざけた天守閣、最上階の城主の居間でイケメンキャッキャッと盛り上がる。婦女子の皆さん大喜びのサービスシーンを遠い天宙から冷たい瞳で眺めてひとつ、苛立ちまぎれのハフンとため息、見下したように嘲笑う。

「(『敵襲』と聴いて来てみれば。なんだあれは…腑抜けたツラしおって、見ておれんわ馬鹿どもめ。仕方あるまい。この我輩が、『戦い方』というものの基本を教示してやらねばな?)」

オカッパの髪、光る片眼鏡(モノクル)、下卑た嗤いが刻む皺。明らかに。好意的でないnotイケメン、その心中は悪意、謀略、もしくは爽やかイケテルメンズの仲間に入れぬ嫉妬心か。

紫のマントを羽織ったオッサン騎士、もとい、(ビューティー)帝国(・エンパイア)が七星騎士、紫勲騎士ヒルカ将軍の不穏な影が青の惑星、くされチョンマゲマーチ星に静かに差し、夏の日の時間は急速に、宵の闇へと包まれていく。




夏の空から心おきなく降り注いでいた目映き陽射し、その、燦射(サンシャ)の残り火の、ひとつひとつを内部に宿し。出店屋台に提灯(ぼんぼり)が灯る、祭りの夜が訪れる。

間違いなく江戸時代の日本を間違った解釈で再現している青い星、コードネーム:くされチョンマゲマーチ星の年に一度の夏祭り。その本命、花火までまだ間があるとはいえ周辺(あたり)は既にわさわさと、浴衣の影が集まりつつある。人々は、否、ビーバーたちは、これから小一時間ほど祭りの出店を回って楽しんだあと、盛大に上がる花火を見上げ、夏のこの日の思い出作り。日々の苦労を忘れて今宵は飲んで歌って踊って食べる。笛や太鼓も聴こえはじめて、いと愉しきは夏の宵。

「おぉ~!いいねえいいねえふいんきあるじゃん!浴衣持ってきてまじ良かった、(オレ)様ツイてるじゃァん?」

人混みはじめた雑踏で、無邪気に瞳を輝かせ、あっちに行ったりこっちに行ったり、心底祭りを楽しんでるのは桃色の髪のロリしい美少女。言わずと知れた外宇宙探査艦プレジデント・オバマの謎多き幼女艦長、ツバサである。

「ツバサちゃん!あんまりあちこち走ると迷子になるよ!?というか、作せん…あっ。『シホさんたちの方』は放っておいて本当に大丈夫なの!?」

駆け回るツバサをあっちにこっちに追い回しつつ、保護者視点と部下視点、ふたつの観点に振り回されて、いと忙しげなハルカが叫ぶ。抜けてはいるが、あんがい根元は真面目なハルカ。あくまでも『任務(お仕事)』中であること心の隅に引っ掛かり、とてもじゃないが上司(ツバサ)のように祭りを楽しむ気にはなれない。

「おねえちゃあん。リンゴあめ、買ってぇ…?」

そんなハルカを逆撫でるように上目遣いで袖をひき、潤む瞳をハルカに向けるツバサの必殺幼児退行。この、普段は横柄極まるくせに都合が良いときだけ幼女に戻り、自分の外見を最大限に利用する、ツバサの最強必殺技に、わかってはいてもハルカはついつい『おねえちゃん』になりきってしまい、「しょうがないなァ、1個だけだからねっ?」と屋台の列に並んでフッと、我に返って「じゃなくて!!」と叫ぶ。

「めぐりんさん!まだシホさんたちと繋がらないんですか!?連絡!!」

外宇宙探査艦、プレジデント・オバマの通信士(オペレーター)(メグリ)恵生(・メグル)ことめぐりんは「(えっ、こっち?)」、突然向いた怒りの矛先、方向転換驚きながらも本来自分の通信士(オペレーター)、すべき役職思いだし、すまなそうに首を横振り希望に沿えぬ旨を伝える。

「フッ愚か。ハルカちゃんがそう動くことなぞ(オレ)様とうに予測済み…貴様らァの通信手段は一時的に没収の上、電源を切らせて頂いております。極秘任務中は電源をお切りください!!」

勝ち誇ったツバサはお手玉、ポンポン跳ねさす巾着袋、ガチャガチャと鳴る気になる中身はまさしくハルカとめぐりんの、懐にあるはず携帯端末。「(いつの間に!?)」慌てるハルカはついでに自分のブラジャーがいつの間にやらツバサの手の内ひらひら踊るを見て驚愕。

「返せ!!!」と頬を紅潮させておいかけっこを繰り広げる。


一方。

噂の外宇宙探査艦プレジデント・オバマの艦橋(ブリッジ)では。

艦長代理、美貌のアールグレイ・シホンティが101回目のコールを非情の『ただいま居留守でございます。ウゼーから早く切れ。くそして寝ろ。』自動応答によって返され。受話器を机上に叩きつけつつ力任せに制帽の庇を、グググッと顔の前へ引き下げていた。











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