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第3話 夢花火(2) 夏花火④


どこまでも青く澄んだ空。夏の太陽照り返す、熱気が高く天まで昇って群立つ雲を押し退けたのか。翳なき眩い空の下、沸きたつ地にも太陽ひとつ。拍手喝采に囲まれながら、照れくさそうに男前。いなせな着流し、天秤棒を脇に抱えて、どうも、どうもと手を振り応える。


「あ、あの!ありがとうございました、助けてもらブベッ!?」

不逞のビーバー三人組、『バービー組』に意味もわからず絡まれていたところを救われた形になったハルカ。とりあえず謎の男前に礼を言おうと一歩踏み出したその刹那、邪険に彼女を撥ね飛ばし、男前に飛び付く桃色の人影。

「あぁ、あぁ!なんとお礼を申し上げれば良いものやら…怖かった!おありがとうございます、おありがとうございますぅ!!ぅへ、良ちんぽ!良ちんぽ!」

謎の男前にしかと抱きつき、うねうねと身体を擦り寄せるツバサ。「良ちんぽ」という謎の単語を繰り返すのは、だらしなく弛んだ歪んだ口元。汚物に対する条件反射。今にもよだれを垂らされそうになり、男前は反射的に顔を背ける。

ハッフハッフと小型犬のような荒い息を吐き、股ぐらを擦りつけつづけるツバサの身体。哀れ謎の男前、彼女の暴虐を止める得ものはこの場に存在しないと思われたが。その付いていてもあまり意味がないと思われるツバサの頭を後ろから掴み、かわいそうな男前から強引に引き剥がした者がいる。死角よりの、見事に不意をついた攻撃。ツバサは必要以上に大きくスッ飛び、ゴミの如くに宙を舞う。

「何をぱらてめX#@◎◎!?」

青き惑星、コードネームくされちょんまげマーチ星、乾いた夏の白い大地に投げ棄てられた幼女の身体、強かに地面へのキスを強要され、しばし動きの止まっ

たのちに。聴くに耐えない怒声を発して跳ね起きたツバサの動きが止まる。

目の前にいる背中。すなわちツバサを投棄した人物は、予想と違った浴衣姿で。短すぎる裾を気にすることなくプリプリと尻を左右に揺らし、男前を媚びた視線で見上げる。ハルカではない。意外にもそれはふだん控えめであまり自己主張することがなく、ノリで連れてきたはいいがこの星に降りたってからもほぼ背景と化していた外宇宙探査艦プレジデント・オバマのオペレーター。廻萌生(メグリ・メグル)の臀部であった。


想定外、突然のめぐりんの反逆に、怒る以前に困惑のツバサ。さすがのツバサがなにも言えずに、プリプリと振れる尻を見ている。臀部に刺さるツバサの視線、気付いているがあえて無視して、めぐりんが男前に擦りよっていく。

「助けて頂いてありがとうございました!私、廻萌生(メグリ・メグル)といいます…めぐりんって呼んでください!」

明らかにサイズの狂った小さい浴衣、その襟からまろび出んばかりに覗く胸の谷間をギュウと寄せ、めぐりんが深々と頭を下げる。そのままの姿勢でズリズリと足を上げずに歩を進める様、まるで古武道の達人の様相。相対する男前は謎の気迫にウッと気圧され思わず一歩あとずさる。

「それで、もし良ければお名前を…あと、好みの女性のタイプですとか!食べ物の好みとか必殺技とか身長体重、お住まい等の詳細なプロフィール!あ、あと、結婚観や将来設計等々、じっくり語り合いたいんでけど…。ひゃぁっ!?」

ブリブリとお色気を振り撒きながら男前に迫るめぐりんの臀部、後ろから掴む者がいる。ちょうど先ほどの仕返しとばかりにぐいと引っ張る小さな右手。

「おい。」

こめかみの血管をピクピキ震わせ、それと裏腹に上がった口角。明らかにやばい顔をした外宇宙探査艦プレジデント・オバマの幼女艦長、ツバサがメンチを切っている。

「この(オレ)様に逆らうとかすげえ度胸。2ポイントやるよ。」

ツバサが差し出す『2点』のプレート。めぐりんは素直に片手で受け取り、「ありがとう?」と不敵に笑う挑発的なその表情。

「(これからの人生に残された数少ないイケメンとの出会い…二十代後半(アラサー)なめんなよ。)」

顔は笑っているがその目はマジだ。


一触即発修羅場の空気、ハルカは男前に視線を送り、「助けてください」と目で訴える。促され、どうにも哀れな男前。頭をかきつつ場を収めようと、一歩前へと歩み寄る。

「俺ァ…そうだな、あー…、そう、うん。青空。青空ぁ…雲、太郎…ってとこか?」

澄み渡る空、輝く太陽、その眩しさに目を細めつつ。男前こと雲太郎、いと適当な名を名乗る。

「何ですかそれえ!?自分の名前なんですよね?」

「おぅ!まあ、つまり…そんなとこだ!俺ァ青空雲太郎、歯牙ねェ市井の魚屋さんだ!今日も今日とてイキが良い!お安くしますぜ?お嬢ちゃん!」

無邪気に笑う雲太郎、その白い歯に釣られるように。まともに名乗らぬ相手を訝しむより、ハルカはともに笑ってしまう。乾いた夏の空気のように屈託のないふたつの笑顔。ふたりを囲む観衆も、微笑ましくそれを見守っている。

「では改めて。ありがとうございました、お魚屋さんの雲太郎さん!あ、私はハルカ…にッぎゃァー!?」

深々と相手に頭を下げて、危険な角度になる臀部。その隙を逃さじと突き刺さる、幼女の小さな手によるカンチョー。古来より。幼児でも容易く大の男を撃破しうる手段として目突き・金的蹴りと並んで危険極まりない攻撃。まったく無警戒のところを不意に突かれた哀れハルカはその場に倒れ、身体を震わせ悶絶している。

(オレ)様を差し置いて良ちんぽといい感じになるとかすげえ度胸。2ポイントやるよ。」

伸ばした両手の人差し指を西部劇の拳銃に見立て、銃口の煙を掻き消す如くにガンマンよろしく息を吐く。無慈悲なツバサの投げたプレート、『2点』と書かれたふざけたメンコ。ハルカの16年の人生において、初めて人間に対して明確な殺意を覚えた瞬間であった。


何処までも抜ける青い空。天宙まで続くその頂きへ、一気に駆け上がって行くかのように。脳天まで突き抜ける激痛にハルカが言葉にならない呻きを上げる傍ら、ツバサとめぐりんは男前、青空雲太郎に胸を引っ付け腰を擦り付け、精一杯の好意を主張している。

当の男前雲太郎、通りすがりの魚屋は、執拗にキッスを迫ってくる汚物、ツバサの顔を迷惑そうに背けつつ

「ま、まあ…俺ァあ…そんな、感じだ!へっへへ。で、嬢ちゃん方は…?見ねェ顔だが!観光にでもきなすったかい!」

「(………?)」

気さくな笑顔、気のいいセリフ、その間のほんの一刹那。男前の目に鋭い光が灯った。それはいい加減鬱陶しい汚物に対する嫌悪であったか?否?それとも。傍目に見ていたハルカだけが、僅かな異変に気が付いた。

「(この人…?今、なんて…?)」

頭の中で引っ掛る、男前の台詞と男前の眼光。そう、このビーバーだらけの星にあって、地球人のハルカたちは明らかに異分子。「見ねェ顔だが」もなにも、本来いること事態が不自然なのだ。そしてそこへ見計らったように現れた、同じく人間の男前。当たり前のように接する人々(ビーバー)。考えれば考えるだけ少しばかり、偶然にしては出来すぎている。「何かがおかしい。」普通の考え方をする人間ならば、どこかで疑念を抱くはず。だが。

それを頭のなかで反芻し、違和感の正体に思い当たるには少々まわりが騒々しすぎ、ハルカの頭は単純すぎた。

「いやぁ~ン!(オレ)様たちぃ、地球から来たんですのぉ~ン♪」

「あ!私はペンタゴン星から…!ペンギンしかいない星なんですよ?ふっふ!この星はビーバーさんばっかりですね!なんだか私たち似た境遇、気が合いそう!!」

必要以上にべたべたひっつき、自己主張を繰り返しつつ。明らかに漏らしてはいけない機密(じょうほう)をさらっと流している雌2匹。その圧倒的スピード感が、ハルカの思考の力を奪う。これでは当然気づくべき違和感に気づけよう訳もない。ハルカの頭が特別に悪い訳ではないのだ。

「はあ、『地球』ねェ!聴いたことねェが、そいつァずいぶん長旅だ!」

晴れた笑顔に翳りを見せず、男前はただ、ひとこと『地球』。その重大なキーワード、聴いたまんまに繰り返す。

「な、嬢ちゃん方。この星は見ての通りのビーバー星、どうしてたってあんたらは目立つ、さっきみたいに絡んでくる、おかしな奴らも出ては来る。出ては来るんだが…。」

男前、ここで一旦言葉に詰まり、困ったように空を見上げる。何処までも抜ける夏の日の蒼。それを見つめるへの字の眉毛。浮かんだものは、いったいどんな心情か。

「…悪い奴らじゃねえんだ。チョッチばっかり喧嘩っぱやくて騒ぎたがりのところはあるがな。だから、ま、この星のことも。この星のビーバー連中のことも、悪く思わんでやってくれ。本当、気のいい連中なんだよ。嫌な思いさせて悪かった。正直、すまんかった。」

申し訳なさげに男前。この星へ降りた異分子(他所者)へ、ぺこりと頭をさげて見せる。

「そんな…!雲太郎さんは悪くないじゃないですか!!悪いのはお騒がせしちゃってる私たちの方です!頭上げてください!!」

慌てる地球の良心ハルカ。その発言は言外に、お騒がせしている原因であるツバサを責めているようにも聴こえるが、彼女にその意図はあったのだろうか。

そして同じく言外に、まるで男前が自身は『この星の連中』とは異なる立場にあるかのような言い回しをしていることに、彼女は気がつかないのであろうか。

「そうかい?へっへ!じゃあ、もうこの話は終わり、おあいこ様だ!」

夏の日の太陽のように一点の曇りもない笑顔。その真ん中がニッカと割れて、眩しく白い歯が光る。つられるようにハルカも微笑む、ふわりと周囲の空気が弛む。

「なんですかそれ!?ふふ!雲太郎さんって本当に変わった人ですね!!」

「おぅ!よく言われるぜ!魚屋青空雲太郎、どうぞご贔屓にってなもんだ、じゃ、あばよ!」

時代遅れの横ピースサイン。「あばよ」と一言、恥ずかしい台詞。それが別段嫌味でもなく、程よい加減に似合ってもいて。別れる時もまた唐突に、なんの遺恨も躊躇いもなく、さっさと彼はその歩を進める。

「あ…!」

「(お礼!もう一度ちゃんと言わないと!!)」

思わずその背を追うハルカ、無意識の一歩を踏み出すまさに、狙い済ましたその瞬間。顎に炸裂カウンター頭突き、ハルカの視界に星が散る。

「おぅ。(オレ)様を差し置いて良ちんぽとなに仲良くお話してんだ?この、何かあるたびにいけめんと親密になってリンダこまっちゃう乙女ゲー主人公の二流超人。」

歪んだハルカの視界に浮かぶ、罵詈雑言吐くピンクの輪郭。とどめとばかりにペッシと1枚『2点』のメンコが叩きつけられる。

「お、そうだ。嬢ちゃんたちー!今夜はこの星、年一度の夏祭りだからよー!良かったら来てくれよな、花火見ようぜー!!」

群衆、もとい群ビーバーの、沸き立つビーバーいきれの壁の、その向こうから男前の声。

「はぁーい!」と手を振るめぐりんの矯声、プリプリと動く豊かなヒップ、意識を失うその間際。

「(面白れェ。)」

ハルカは遠く頭上のピンクに、邪悪な笑みが浮かぶのを見た。











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