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第3話 夢花火 (2) 夏花火 ②


むーかーしーギリシアのーイカレースーはー



あたまーがーイカレーてーとんでーえったー





白い砂浜、白い太陽、白く崩れる波飛沫、波打ち際に白が降る。青き星、コードネーム:くされちょんまげマーチ星の都から数キロ離れた小さな砂浜、白く清浄な世界の中で、浴衣の少女がくるくる回る。

桃色の髪をツインテールに束ね、桜模様の浴衣の下には何故か紺色のスクール水着。必要以上にロリロリしく、犯罪の香りを感じさせる謎の幼女はよほど浴衣が嬉しいのか、先ほどからずっと上機嫌に、くるくると歌い踊っている。

「あの…準備、できました…。」

岩の陰からいそいそと出た、浴衣の美少女…美女が上目遣いに見上げる。

豊満な肉体を薄手の浴衣に包み、必要以上に生地が薄手で明らかにサイズのおかしい浴衣に包み、遠慮がちに足を進める。

「わーお。」

桜模様の浴衣の少女…外宇宙探査艦プレジデント・オバマの謎の幼女艦長、ツバサが、美女の痴態に目を丸くして素頓狂な喚声をあげた。

「いいんじゃない?ちょ~っとばっかりパッツンパッツンのムッチムッチで刺激ティキすぎる気もするけど…うーん、あのヒゲが準備するの間違えたのかなあ?」

「…絶対わざとですよね、これ?」

浴衣の美女。

外宇宙探査艦プレジデント・オバマのオペレーター、めぐりんこと廻萌生(メグリ・メグル)は着衣の裾を精一杯引き下ろし、ちらほらと覗く眩しい太股、及びその奥の白い逆三角を隠さんと試みる。

青き星。

新たに降り立ったこのコードネーム:くされちょんまげマーチ星、この新天地でもめぐりんの受難はまだまだ続くようである。

「ほらほらめぐりん、頭隠して尻マルだし。そんなに下を引っ張ったら、今度は上がポロリしちゃうよ?パイポロ。」

「撮らないでくれませんか…。」

必要以上にごっつく、時代がかった大型のビデオ・カメラを構えるツバサに、めぐりんは精一杯の抗弁をする。その声色には既にこの状況と、人生に対する諦めがみられた。


「あの…。」

楽しくきゃっきゃウフフと戯れる二人の、頭の上から声が降る。

卵型のロボット、純白のpai1号機。頭頂部の出入蓋(ハッチ)から身を乗り出し、二人を見下ろす搭乗者(パイスライダー)

この空間にそぐわない、制服姿の女子高生、この物語の主人公である遥日奏歌(ハルカ・カナタ)ことハルカである。

「チッ…(オレ)様いまいーところなんだよ、なんだよハルカちん、くだらねー用件だったらぶっ(コロ)がすぞ。」

明らかに水を差された様子でツバサは卵型のロボットを見上げる。その足がpai1号機の足元にキックを入れるモーションに入っているのは、なにかの冗談なのであろうか。

この状況。ツバサが本気で1号機を『ぶっ転がし』かねないことを知っているハルカは、思わず言葉を詰まらせる。

「その…私も着替えた方が…?ツバサちゃん。町に潜入するための変装なんだよね?これ…。」

「あぁ!?」

ツバサがpai1号機に蹴りを入れ、(ガンッ)と硬質な音が響いた。

「テメーは制服でいいんだよ。なんのために女子高生雇ったと思ってんだ?アホが。」

語気荒くハルカを責めるツバサ。幼女のような外見からは想像もつかないドスの効いた声に気圧され、若干16歳、人生経験も社会人経験も薄いハルカはその頭に浮かんだ疑問、「(いやなんのために雇ったんだよ)」「(なに意味不明なキレ方してんだよ)」「(アホはお前だろ)」という至極まっとうな疑問の数々を言葉として口から出すタイミングを失ってしまう。あわれハルカはすごすごと、無言のままに操縦席(コックピット)の中へ引っ込むことでせめてもの抵抗の意思を示すことしかできない。


<(ハルカちゃん、ハルカちゃん。)>

むー、と納得いかない顔で俯くハルカに、画面(モニター)から囁きかける者がいる。pai1号機のAI、自称『灯台のルシフェル』こと黒いひよこである。

<(ハルカちゃん、大丈夫ちゃん。俺様ちゃんとわかってるちゃん。着替えたいんだよね?任せてちゃん。)>

いつになく優しい口調の黒いひよこ。つられるように視線を上げると、ピコン、ピコン、と画面(モニター)の端に宝箱のアイコンが瞬いている。

<(こんなこともあろうかと準備しておいたちゃん。開けてみそ、開けてみそ。)>

上司であるツバサから理不尽なパワハラ、及びセクハラ気味の言葉をかけられ、判断力の低下していたハルカは思わず反射的に指を伸ばし、画面(モニター)をタッチしてしまう。だがしかし。この画面(モニター)の中の黒いひよこは謎の幼女艦長であるツバサと同等の、いや、時にそれ以上に理不尽な存在。その言動には本来、最大級の警戒心を以て接しなければならない相手であるのだ。

「げぅ!?」

決して広くはないpai1号機の操縦席(コックピット)、その前方画面(モニター)の下に何故か設置されている和箪笥の引き出しが突然飛び出し、ドリフのコントのようにハルカの腹を直撃する。ふるふると震えながら引き出しを閉めようとするハルカ。その額に向けお約束通り今度は上段の引き出しが飛び出し、ゴンッと鈍い音を立てる。

何故彼女がこのような不憫な目に遭わなくてはならないのだろうか?この状況。頭上から金タライが落ちてこなかったことだけが彼女にとっての幸運だったと言えるのかもしれない。

<ごめんハルカちゃん、大丈夫ちゃん?>

座席(シート)に小さくうずくまり、頭と腹を押さえるハルカ、その頭上から黒いひよこの声が降る。

溺れる者は藁をも掴む。突発的に酷い扱いを受けているハルカは、すがるような気持ちで視線を上げる。

<これまでのハルカちゃんの戦闘データからいつか必要になると、くそタコ野郎を説得して搭載しておきました。なんなりとお使いください。>

黒いひよこの示す先、ハルカの視線のその先に、白く輝くパンツが1枚。決して広くはないpai1号機の操縦席(コックピット)に無駄に設置された和箪笥、その引き出しのスペースを贅沢に使い、白く輝くパンツが1枚。

箪笥にパンツ。この当たり前といえば当たり前の光景が、ロボットの操縦席(コックピット)の中にあるという非現実。ハルカの脳髄は数秒の間その思考を停止する。

<ハルカちゃん、大気圏突入のショックでまたおしっこ漏らしちゃってるもんね?着替えたいよね。俺様ちゃんと先読みして、ちゃんと準備をしておきました。出来る男はここが違う。誉めて誉めて。どうよ、どうよ。>

ずいずいと画面いっぱいに迫る黒いひよこ。その前には箪笥の引き出し、見覚えのある輝くパンツ。よくクリーニングされシワひとつないが、確かに見覚えのある己のパンツ。ハルカは無言でパンツを掴むと、震える声で黒いひよこに尋ねる。

「ひよこさん…これ、どうやって……?」

<ああ。タコ野郎に言ったら実に事務的に洗濯物の中から持ってきてくれましたよ。ったくあのヤロー、よ~く洗濯して殺菌消毒してアイロンまでかけちまいやんの。ほぼ新品じゃん、価値なくなっちゃうじゃん。気の利くフリして余計な真似しかしねー、まじつかえねー。>

ヘラヘラヘラと嗤う黒いひよこ。その顔面、pai1号機の画面(モニター)に、史上初のハルカキックによるクレーターが刻まれた。





「いやあ~、いいねえ、いいねえ、異国情緒が溢れているねえ!!」

浴衣の袖を嬉しげに、右へ左へと振り回しつつ、ツバサは踊るように街道を歩く。後ろからオロオロと慌てて追いかけるめぐりん、憮然とした表情で続くハルカ。洗い立てのパンツの爽やかな感触、吹き抜ける風の心地よさが、彼女の心を苛立たせている。

「そうかなあ…微妙に間違ってるというか……安っぽくない?」

辺りを見回し、納得いかぬと言いたげに、珍しく不満を伝えるハルカ。先ほどの一件で不機嫌なのも勿論あるが。日本人であるハルカには、この地球から遠く離れた青い星。コードネーム:くされちょんまげマーチ星の都。目に映る町並みのそのすべてが、どうにも許容しかねるモノであるのだ。

一見、江戸時代の日本を忠実に再現したかのような、時代劇のセットのような町並み。しかしその実、そこかしこに自販機が並び、コンビニがあり、日本人のハルカには読めない漢字の看板があり、挙げ句の果てには回転寿司。微妙に間違った日本文化というか、おそらくは江戸時代の日本を模したテーマパーク、それをモデルに造り上げたであろう町並み。勿論、宇宙時代の女子高生であるハルカに遥か遠い昔である江戸時代の正確な知識なぞあろうはずもないが。日本人であるハルカの脳には本能的にこの光景に対する違和感と、なんとなくバカにされているような嫌悪感が遺伝子レベルの記憶として刻まれているのか、どうにもハルカは不機嫌であった。

「ですよね…。」

同じく日本人であるめぐりんもそれは同様であるのか。はしゃぐツバサに対してその感想はいまひとつ、語尾を濁した言い方に見える。

「まあそう固いこと言うなって!こういうのはさ、なりきったモン勝ちというかー。せっかく浴衣まで着てんだし。ゴッコ遊びは真面目にやるから楽しいんだぜ?水平思考、水平思考、コメディーお江戸でござるでござる~。」

そんな二人の反応を他所に、すっかりテーマパーク気分のツバサ。この艦長はここにいる目的が、彼女自身の発案した二面強襲作戦のための潜入行動だと言うことをはたして覚えているのだろうか?

特にツバサの個人的な嗜好により着替えさせてすらもらえなかったハルカは、先ほどからふくれっつらで後につきつつ、違和感のある町並みの中、明らかに異物である女子高生姿の自分に少々、恥じらいを感じ歩いている。町の再現具合は置くとして。周囲を歩く者たちは皆、和服姿の撫で肩シルエット。それは同行するツバサとめぐりんですら同じであって、ただひとり、制服姿の自分がまるで、裸で歩いているような。突き刺さる好奇の視線を感じ、ハルカはいたたまれない気分で歩く。


「(こんなんじゃ…簡単に見つかって捕まっちゃうんじゃ…?)」

ハルカは必要以上に浮いている、どう見ても目立つ自分の身の安全と、作戦の成否を早くも案じているが。そもそもがこの作戦、最初から成功する見込みのあるものなのであろうか。その部分を考える時間と必要な情報がハルカに与えられていなかったのは、ただただ不幸と言う他にない。

もっとも、目立っているのはハルカだけではない。というのも、この町で和服を着て歩いているのは人間ではなく、やたらと姿勢の良いビーバーだ。地球より遠く離れた青い星、コードネーム:くされちょんまげマーチ星。その原住民である彼らの姿は、地球で言うところのビーバーそのもの。ジャストビーバー、ジャスティン・ビーバー。そのビーバーが何かの冗談、当たり前のような顔して和服を羽織り、日光江戸村のような町並みのなか、背筋を伸ばして闊歩している。このふざけた光景の中にいくら浴衣を着ているとはいえ、絶対的に異なる美少女三人。トラブルの起こらぬはずもなく、むしろ、彼女らのその出で立ちは時代劇の主人公一行よろしく、積極的にトラブルを呼び込み、待ち構えてさえいるような。


「ようようよう、ねーちゃんたちよう、ずいぶんと楽しそうにしてるじゃねえかよう。」

浮かれて回るツバサの背中へテンプレ通りの悪党の声。

桃色の髪の幼女はニターと、いと嬉しそうな笑顔を浮かべた。








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